夜よさらば


 自分の兄が悪魔に殺されて以来、主人公はガランタリア王国のロイヤルレンドル神官騎士団の騎士になった。今では「デーモンストーカー」という異名を国中に轟かせている。主人公の人生最大の宿敵、それが魔王子ミュールである。ミュールの手下が兄を殺したのだ…。
 ある晩、主人公の部屋の壁に、主人公の両親がミュールに虐げられている像が映し出された。これまで幾度となくミュールの邪悪な計画を阻止してきた主人公だったが、その度にミュールが自分にではなく自分の両親に矛先を向けるのではないかと懸念していた。もしや…。
 真相を知るため、主人公は故郷のクロウフォード村へ急いだ。あの像は単なる幻影か、それとも現実か。それは間もなく判明する……。

 『夜よさらば(原題“Dead Of Night”)』はFFシリーズ第40巻目の未邦訳作品です。著者はジム・バンドラ氏とスティーブン・ハンド氏の共著です。私がプレイしたのは社会思想新社というゲームサークルの同人誌で、訳者はノスクカジェイ・エベッツ氏です。
 本書の舞台は『ソーサリーシリーズ』と同じ旧世界です。ガランタリア王国はアナランドのはるか北西部にあります。
 今回の最終ボスは、タイタン世界の悪の側としてもかなり高貴(?)な部類に属する3人の魔王子のうちの1人であるミュールです。参考までに他の魔王子について述べておくと、イシュトラはFF28巻『恐怖の幻影』にて、そしてシスは『四人のキング』(社会思想社、1991年)に登場します。
 主人公は、その名の通り「魔を滅ぼす存在」です。神官騎士としての信条に背く行動をとったり、邪悪な存在に己が身を穢されたりすると邪悪点が加算されてしまいます。もちろん、邪悪点が増えて得することなど一切ないのですが、時には邪悪点を避けるために危ない橋を渡らざるを得ない場合も出てきます。この辺りが、神官騎士としての宿命を背負っている部分と言えるでしょう。
 また、FF20巻『サムライの剣』や29巻『真夜中の盗賊』にも出てきた「特殊能力」も登場します。「闇(EVIL)のベール(VEIL)」を用いると邪悪点が増えてしまいます。「“EVIL”は“VEIL”のアナグラム」という発想もなかなか趣があります。
 強大なる三王子のうちの1人が最終ボスであるだけに、このゲームはものすごく難易度が高いかと思いきや、ゲームの難易度としては、容易な部類に入ります。というのも、正解ルートである「真の道」はひとつではなく、パラグラフジャンプもたった1箇所しかないからです。私もこの作品は1回でクリアしました。様々なルートでクリアできますので、1回クリアしても今度は別のルートでクリアするという楽しみ方もあると思います。
 343番では、タイムパラドックスに関する著者なりの解釈も載っています。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にもありましたが、未来の自分が過去の自分に会うと、自分自身が経験しなかったことを過去の自分に経験させてしまうわけです。実は、背景の「兄の葬儀で現れた奇妙な幽霊」というのが伏線になっており、これは過去へタイムスリップした主人公の姿です(尤も、私はそのルートをとりませんでしたが)。
 冥府魔術師の牢獄(386番)は、FF33巻『天空要塞アーロック』にも出てきた「進んだ先の番号が今の場面と話がつながっていない場合は失敗」というシステムが取り入れられています。『天空要塞アーロック』ではこの秀逸な発想も台無しだったのですが、この作品では成功していると言えるでしょう。門をくぐり抜ける順序は至って単純です。詳細はあの場所にて…。
 この作品で一番かわいそうなのは、愛馬ゴッドファイヤーだと思います。ゴッドファイヤーを連れてミュールの本拠地に近づくことは叶わず、途中で神官騎士団の聖殿に送り返すことになるか、または行方不明になるか、もしくは何らかの形で非業の死を遂げることになります。ゾンビに貪り食われたり、伝染病に感染して死んだり、あるいは魔法の防護壁で即死したり、ともかく碌な目に遭いません。
 また、384番においては主人公の両親が、親として最も不幸な目に遭います。既に長男(主人公の兄)に死なれ、しかも次男または長女(主人公)にも先立たれてしまうからです。つまり、子供達全員に先立たれる結果となるのです…。
 神官騎士というのはそれほど危険な仕事であって、国を守るためには殉職してでも忠誠を尽くすというイギリスの国風なのかも知れません。

 ところで、本書の同人誌版には「宿命値」という数値が使われています。この言葉、どこかで聞き覚えがあったような…そう、ここです。

2008/09/23


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