四人のキング


 善と悪の抗争は今日も繰り広げられている。クール大陸の犯罪都市ラガシュにて、旧世界の「呪いの森」にて、そしてアランシアの南部平原の地下迷宮にて。これらの地に、四人の勇士が集結した。彼ら(または彼女ら)はそれぞれ「四人のジャック」「四人のクイーン」そして「四人のキング」と呼ばれていた。各々の目的を達成せしめんとする四人の勇士たち…それが主人公である。

 『四人のキング』は、1991年に社会思想社から出版された和製のオリジナル・ゲームブックです。著者は山本弘氏です。
 本書の舞台は、7×7枚のトランプでできたボード上です。ですから、ゲームブックというよりは、トランプを使ったボードゲームと言った方がよいかもしれません。ただ、FFシリーズのルールを取り入れているので、ここでは“ゲームブック”という部類に属することにします。
 本書には「四人のジャック(ラガシュの街)」「四人のクイーン(呪いの森)」「四人のキング(地下迷宮)」という三作のシナリオが用意されており、四人まで遊べます。「ジャック」と「キング」の主人公は男性なのに対し「クイーン」の主人公は女性です。ゲームをプレイする人の性別は関係ありません。ですから、男性プレイヤーが「クイーン」を、女性プレイヤーが「ジャック」と「キング」をプレイすると、異性を演じるという楽しさ(?)があります。
 これまでのゲームブックは、一度クリアしてしまうとパラグラフ構造が「記憶に残って」しまっていました。しかし、本書のは一度クリアしても繰り返し遊ぶことができるのです。というのも、ボードに相当するトランプの置き方が無数にあるからです。どのくらいあるかは研究室に掲載することにします。
 トランプをボードゲームのボードにするという設定だけではなく、背景の設定も優れています。特に「四人のジャック」の背景がすばらしいです。「ジャック」をプレイする四人が四人とも目的が違いますが、どの四人にも平等に目的に至るまでの背景が描写されてします。「四人のクイーン」は、その名の通り女性(queen)向けです。中央にいる偉大なる魔法使いデクストロの妻になる可能性があるのも、主人公が女性ならではだと思います。「四人のキング」に登場する最終ボスは、三魔王子の一人であるシスです。蛇魔人シスの力は、FF40巻『夜よさらば』に出てくる魔王子ミュールと同じです。シスの二回攻撃や、魔界とタイタン世界をつなぎとめておく宝石を打ち砕かれるとこの世にはとどまっていられない点も同じです。
 ただ、ひとつだけ気にいらない部分があるのは、「四人のキング」のスペードのAにいるブラムウィードです。剣術の手合わせにおける相手への最大の侮辱…それが手加減です。「手加減」ではなく「鎧の部分のみを攻撃してくる」などという表現にした方がよいと思います。また、名高い冒険者ならば<呪いのナイフ>に操られている者への配慮も心がけているはずです。もちろん、騙まし討ちや不正な攻撃をしても「原技術点は上がらない」のはわかりますが、「呪いに操られて」の攻撃ならば「攻撃に失敗するとブラムウィードの強烈な一撃で気を失い、意識を取り戻したときにはブラムウィードはいなくなっている。」とするのがよかったと思います。<呪いのナイフ>による攻撃は、卑劣でも何でもなく「いたし方ない」理由なのですから。
 そうは言っても、山本弘氏の作品は、外国作家に負けず劣らずの秀逸な作品ばかりです。FFシリーズのルールを取り入れているとは言っても、FFシリーズとはひと味違った、文字通り「オリジナル」のゲームブックと言えると思います。

 34巻以降の未邦訳FFシリーズには、訳者による「追加ルール」なるものがあります。そこで、私も僭越ながら『四人のキング』における「追加ルール」を提案しました。詳細は、これも研究室にて(毎回毎回…)。

2008/09/30


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