サムライの剣


 クール大陸の東海岸にある八幡国。
 八幡国の都、今市(こんいち)を治める長谷川喜平から主人公は呼び出しを受けた。
 長谷川喜平から聞くところによると、この国の守り刀である“鍔鳴りの太刀”が闇将軍イキルに盗まれてしまったのだと言う。“鍔鳴りの太刀”こそ八幡国が国として存続できる何よりの証。それを盗まれてしまったとあれば、取り戻さない限り八幡国が滅亡するのももはや時間の問題である。現に、大名たちの中に叛乱を企てている者もいるという。
 若き将軍指南役を務める主人公こそが、“鍔鳴りの太刀”を闇将軍イキルから取り戻す任務に最もふさわしい人物と長谷川喜平は思われた。
 主人公は、闇将軍イキルの居城である鬼軽城(おにかるじょう)に赴く。

 FFシリーズ20巻『サムライの剣』は、11巻『死神の首飾り』と同じく、ジャミー・トムソンとマーク・スミスの共著です。
 冒険の舞台は、クール大陸の東にある“八幡国”という国ですが、なんとなく日本をモデルにした名前っぽくありませんか?それに、背景に「クールの東海岸」「桜が美しく咲きほこる国」などとあるあたり、東洋にある黄金の国ジパングをモデルにしていることだと思います。そうです、『サムライの剣』はFFシリーズ初の「和風ゲームブック」なのです。タイトル名に「サムライ」とあるあたり、日本がモデルになっていることは間違いないでしょう。
 しかしながら、作者はイギリス人です。彼らも、日本産の日本史の教科書で日本の戦国時代や江戸時代を学んだわけではないと思います。ですから、時代劇によく出てくる日本の戦国時代や江戸時代を想像しながらプレイすると、どことなく違った雰囲気があるように思えます。このゲームブックでは、イギリス人から見た日本の「侍」のイメージが現れていると思います。
 前作『死神の首飾り』と比較してみると、やはり同じ作者としての共通点(癖)がありました。
 前作では、死神の首飾りが多大なる力を持っていました。この『サムライの剣』に出てくる鍔鳴りの太刀も、死神の首飾り同様多大なる力を持っています。そして、それらの大きな力を持ったアイテムを悪の手の者が文字通り悪用しようとしている点も同じです。
 また、私個人の感想を述べると、『サムライの剣』の設定は、3巻『運命の森』にも似ているような気がします。「鍔鳴りの太刀がないと八幡国が存続することはできない」という文章を、「鍔鳴りの太刀」を「ストーンブリッジのハンマー」に、「八幡国」を「ストーンブリッジ」にそれぞれ置き換えると、『運命の森』の設定になりますね。
 今回は、基本的な能力値に加えて、二つの要素が入ってきます。
 まずは、特技です。弓術居合術猿飛の術そして二刀流の4つのうちの1つを身に付けて冒険に出ます。『サイボーグを倒せ』ほど変化には富んでいません(せいぜい場面場面で有利になる程度です)が、これもどの特技を選んでもちゃんとクリアできるようになっていますので、一度クリアしても別の特技で冒険すると良いでしょう。但し、あまり特技に頼りすぎると大切なアイテムを手に入れられないこともありますのでご注意を。
 そして、ある意味この冒険において最も重要と言われる点数が名誉点です。開始時には3点ある名誉点ですが、これは17巻『サイボーグを倒せ』に出て来た英雄点のような単純な値ではありません。この名誉点増えるよりも減る方が多いのです。もしも名誉点がゼロ以下になったら…
切腹の沙汰あるものと覚悟いたせい!
 しかし、この作品に対してもいくつか“批判”する点があります。
 まず、「戦いの場」において味方が1人でもいたら何が何でも差し向けて、味方が誰もいなくなった時点で初めて自分が戦うという点が、非常に作りが甘いと思います。甘いというよりも腹立たしいところです。
 味方にも、向き不向きがあるわけです。主人公以外の味方の中で、誰も最初の大ガマガエルに勝てなかったら一巻の終わりです。254番で、結局主人公が大ガマガエルと大カマキリを倒すことができますが「その戦いが終わるころには、君は傷つき体が弱りきっている。」大ガマガエルに倒された味方の中には、大カマキリや青銅の魔人にならば勝てる味方もいたはずです。それを、無理矢理にでも手順前後させるようなプロットにしておいて、主人公が大ガマガエルに勝てるにも関わらず、そうさせないというのは論理的に合点がいきません。254番に行き着いて「え〜っ、だったら最初は自分が大ガマガエルと対戦したよ。」と思われた方は多いはずです。このあたり、もう少し考えて欲しかったと思います。長剣がいかに長くて有利な武器であろうと、狭い部屋での取っ組み合いではほとんど役に立たないのと同じことです。
 また、この冒険の最後の敵である闇将軍イキルの強さを考えると、最初のサイコロの設定で原技術点が7ではかなり厳しいと思います。たとえ、鍔鳴りの太刀で立ち向かおうとも、最低でも技術点3の差でイキルに挑むことになります。この冒険の主人公は剣聖とも呼ばれる将軍指南役なのですから、技術点も高いだろうということで6巻や12巻のときと同じく、サイコロを1個振って1〜2なら原技術点は10点、3〜4なら原技術点は11点、5〜6なら原技術点は12点としても良いと思います。…とは言っても、運だめしで1回吉と出れば良いことを考慮すると判断が難しいところでもありますが。
 それから、鍔鳴りの太刀を手にしたら「原点数を超えても良い」という発想は素晴らしいと思います。この鍔鳴りの太刀があるかないかで、イキルとの戦いは難易度がまるで違います。こういった演出が、鍔鳴りの太刀の威力と威厳さが非常によく出ていると思います。

 それにしても、表紙カバーと82番に出てくる亡霊戦士の旗に書いてある、《悪死》。…トムソン&スミスの両氏は、この意味を知っていて書いたのでしょうか。それとも、二人が偶々知っていた、あるいは調べた結果知り得た漢字の寄せ集めとか。…大変興味深いところでもあります(笑)。

2005/06/17


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