サルダス包囲網


 夜の森に、黒づくめの飛行部隊が押し寄せてくる……。そんな悪夢を見ている最中、主人公は評議会の使者に起こされた。これからグリムンド公堂にて緊急評議会が行われるという…。
 緊急評議会の内容とは、何世紀もの間均衡を保っている夜の森にあらゆる種類の恐ろしい敵が忍び寄っており、その結果サルダスとグリムンドに隔たりが生じてしまっているとのことだった。グリッサ評議会長は、夜の森の一部を焼き払ってでもグリムンドを護ることを提案したが、主人公は猛反対した。グリムンドもサルダスも、夜の森あっての地だからである。
 グリッサは、ゼンギスから来た冒険者モーン・ブリーラーの話を聞くよう主人公に呼びかけた。モーンは別室で主人公に説明すべく、公堂から主人公を連れ出した。外は真っ暗であった。
 主人公は、モーンの話を聞いて身の危険を感じた。実は、本物のモーンは既に殺されており、主人公の目の前にいるのは、主人公を抹殺するために送り込まれた刺客だったからである。偽モーンは、主人公の指から評議会章印指輪を抜き取った……。


 『サルダス包囲網(原題“Siege of Sardath”)』はFFシリーズ第49巻目の未邦訳作品です。著者はキース・P・フィリップス氏です。私がプレイしたのは社会思想新社というゲームサークルの同人誌で、訳者は浅田豊健氏です。
 サルダスの名は、31巻『最後の戦士』の349番にも出てきます。サルダス地方はアランシア大陸の氷血山脈の麓にあり、まさしく極寒の地にあるというわけです。
 この作品にはタイタンの七曜制が導入されます。地球では「日月火水木金土」ですが、タイタンは「嵐月火土風海高」です。この冒険は、高曜日の夜から始まります。冒頭の偽者モーン事件の起こる時間帯からすると、合点がいきます。夜は、闇エルフが最も活発に活動できる時間帯だからです。1番で「評議会章印指輪を奪われた」ことを明記してあるのは、明確さを現した秀逸な指示です。FFシリーズにはクリア必須アイテムの記載が曖昧なものも多く、時にこの曖昧さがバグを引き起こします。社会思想新社の邦訳はこの点からするとかなり優れています。
 その他にも、この冒険には巧みな文章表現による様々な仕掛けが鏤められています。
 特定の言葉でのパラグラフジャンプが多く(62番、317番、363番など)、熱中して文章を読んでしまいます。また、318番において、どのような行動を取るかをメモするのも従来のFFシリーズにはないアイデアです。
 タイタンの世界に住む種族の習性がしっかり描写されているのも特徴です。森エルフ対闇エルフ、礼儀を重んじるドワーフなど、魅力あふれるキャラクターが多数登場します。
 81番の曜日修正は、手がかりとなる足跡の見つかりやすさに反映するなど、かなり凝ったつくりになっています。
 123番のオブリガスの行動は、オートロック式のビルやマンションに似ています。この場面は『ピラミッドの謎』にも出てきます。「外から内へは資格のある者しか入れないが、内から外へは何事もなく出られる」理由は「内にいた者=資格のある者」だからです。
 進行上は重要であるものの最後まで持っていてはいけないアイテムも出てきます。63番で手に入る「鉄製の鍵束」がそれです。この鍵束はドワーフ達を救出するためのものです。「鉄製の鍵束」を持ち続けているということはドワーフを解放していないことを意味し、デッドエンドとなります。このパターンは、『カイの冒険』や、『魔界の滅亡』にも出てきています。
 278番のように、実際に工作をして進み先の項目番号へ進むというのは、グレイルクエストでは定番ですが、FFシリーズではごく稀です。私も実際に作ってみました。すると、みるみるうちに項目番号が浮かび上がってきました。
 最後の場面の、言葉の駆け引きは多少強引な面もありますが、これはこれなりに楽しめます。『カイの冒険』にも、天の六階層でマルドゥークとカイの駆け引きの場面があります。駆け引きに負けると…
『フェローン・ラス・マーデックス』
 しかし、この作品にはいささか構造がわかりにくい点もあります。
 氷血山脈に棲んでいるサイラ・ミガーンからクリア必須アイテムを受け取った後の道が分かりにくくなっています。ドワーフ達の導きにより、分かりやすい道を進めるような構造が欲しかったところです。
 また、27番における合言葉の手がかりが事前になく、これもまた無数にある言葉の中からのいきなりの三択で、『地獄の館』と同じ過ちを繰り返しているような気がします。個人的には、手がかりは事前にしっかりと配置して欲しいところです。
 とはいえ、本作品は、他のFFシリーズとは一味違った仕掛けが満載です。少しひねった仕掛けはあるものの、かなり凝った構造になっており、十分楽しめるものと言えると思います。
 34巻以降に現れる過度の弱体化はこの冒険にも出てきています。44番における亡霊の攻撃による後遺症がそれです。亡霊に攻撃されたときは何ともないのですが、44番に到達して初めて、恐るべき弱体化に遭遇します。34巻以降は本当に過度の弱体化の場面が多く、亡霊の攻撃が10回も命中しては、ほとんど死んだも同然になってしまいます……。

 私は、初め332番の文章は印刷ミスかと思っていました。しかし、鏡での左右反転を考えると、この文章はわざとそうなっているということがわかりました。自分のものなのに、一生自分だけはわからないもの――それは、自分の顔です。

2010/10/15


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