魔界の滅亡


 悪魔ドルアーガの恐るべき配下ゴルルグは強敵だった。ゴルルグとの凄絶な魔力戦を勝ち抜いた後、最愛の女性を救い出すべく彼女の閉じ込められたガラスの小部屋に近づいた。しかし、彼女を閉じ込めた小部屋は無慈悲にも上に上ってしまった。これは、エレベーターだったのだ…。
 40階から更に上の階へ向かう戦士は、これまでの出来事を幾度となく思い出していた。これまで何度も死の淵まで追い詰められたことを、道中かけがえのない友に出逢ったことを、そして今目の前で自分の愛する女性が上に連れ去られてしまったことを。
 戦士は、間髪を入れず上の階へと上っていく。祖国の平和のために、自分の愛する女性――女神イシターの巫女カイ――を救い出すために、そして悪魔ドルアーガを討伐するために。この戦士こそが、王国バビリム一の騎士ギルガメス――主人公である。

 『魔界の滅亡』は、ドルアーガ三部作(ドルアーガシリーズ)の第3巻で、ドルアーガの塔の41階〜59階までの冒険となっています。
 まず、項目数が741項目と増えます。ソーサリーの最終巻『王たちの冠』が800項目になっているのに似ていますね。
 第2巻『魔宮の勇者たち』と同様、この巻にも1番の他に開始パラグラフがあります。40階(『魔宮の勇者たち』500番)において、39階で入手した「紅玉のカギ」を使用すると、100番からのスタートとなります。この場合、41階の1番からではなく43階の12番にたどり着きます。第2巻からプレイしている人への特権とはまあまあ言えるでしょう。順々にマッピングが出来ないという難点があるかもしれませんが。
 『魔界の滅亡』は、41階〜59階が巨大な立体迷路となっています。第1巻のような「一方通行型」でもなければ第2巻の「パーティーでの冒険」でもありません。鈴木直人氏の「双方向型」も、三作目辺りで落ち着いてきたと言えるかもしれません。
 今回は、金貨を正式に使用する場面はあまり出てきません。せいぜい45階で「パオトの本」を購入するときくらいです。この本は41階〜59階に出て来る様々な謎解きの答えが一冊にまとめられているという優れものです。しかし、この本を1回開くごとに原体力ポイントを1点ずつ失います。謎解きの代償は高くつくのです。ですから「パオトの本」は、どうしても解けないときの最後の手段として取っておくのが良いでしょう。あとは、52階のマンドラゴラ(365番)から「生命の実」を購入するときくらいでしょうが、しかしこれはゴールドキャンドルの方が圧倒的に優れた手段です。
 これまでの2巻とは違い、この作品には特に「セーブポイント」はありません。というのは、その必要がないからです。41階〜59階のいかなる場所でも気を失った場合、48階の牢獄(523番の西にある牢獄)に投獄されます。この牢から脱出できる確率は6分の1ですが、首尾よく脱出できた場合は頼もしい味方――タウルスと再会できます。そして、メスロンのことを聞かせられるのです。第1巻『悪魔に魅せられし者』で入手した、主人公にとっては何の価値もない葉っぱが、この後の冒険において重要な価値を持っているのです。
 途中、56階において、ナムコゲームブックシリ−ズの前作『ゼビウス』において出てきたバルキリー・ナヲミ氏が518番にて再び登場します。ゼビウス星最大の混沌であるガンプを討伐せしP・Jと間違われますが、彼女と、彼女を探しているタルカ・トウミこそが59階への扉「大理石のカギ」の在り処を知る重要人物なのです。…ちなみにナヲミ氏は、ナムコの次作『ドラゴン・バスター』にも登場します。
 そして、忘れてはならないのが“ドルアーガシリーズのZED”である「MUALA」です。『悪魔に魅せられし者』の5階にいた魔道士フェリーは「MUALAを使ってはならんぞ」と言っていました(197番、248番)。その理由は“三種の神器”が揃っていなかったからです。57階のレッドクリスタルロッド、46階の聖印そして58階の聖冠の3つを揃えて最後の決戦でこれを使うと…。持つべき者の手に持つべき物が全て揃いし時、天文学的な確率の出来事が起こるわけです。MUALAこそ、まさしくソーサリーで言うところのZEDと言える魔法です。
 そして気になるエンディングですが、なんとマルチエンディングになっています。ドルアーガを倒した後、塔全体が振動を始めますが、屋上(60階)にいるカイを救うまでに時間がかかりすぎる(塔の振動数が多すぎる)と718番行きになります。主人公が「タウルスの道具」を持っているということは、持ち主のタウルスは持っていない――仕事が出来ないことを意味します。…そう、間に合わなくなるのです。しかし、この718番こそが著者の中での「真」のエンディングらしいです。因みに私は最後の番号にたどり着くのが好きなのと、また、終わり方から見ても文句なく741番のエンディングが好きです。
 718番に出てきた「ウツロの街」――これこそが、鈴木直人氏の次作品『スーパーブラックオニキス』の予告編でもあるのです。

 ここで、個々の場面についての批判、分析をすることにしましょう。
 まず、鈴木作品特有の「パロディ」がこの巻にもあります。例えば、55階の泉に棲んでいるスリックが「おまえがなくしたのは黄金のカギか、それとも純銀のカギか、あるいは鉄のカギか」と言っていますが、これはお察しの通り「木こりの泉」のパロディです。ちなみに、黄金のカギも純銀のカギも、ドルアーガシリーズでは何の役にも立ちません。鉄のカギは45階と47階の西南の端で役に立ちます。
 また、58階にある「青銅のカギ」は、クリアに絶対必要なカギですが、氷の移動によっては永久に手に入らなくなります。その場合は314番へ行くことによって4番へ進むことが出来ます。これは優れた構造です。永遠に手詰まりになるよりは「死の番号」へ進んだ方が幸せに違いないでしょう。
 逆に、残念な点もいくつか見受けられます。
 まずは「14の鐘」が全く関係ない2つの場面で手に入ることです。「14の鐘」は、本来49階から59階にかけての階段の途中にいる、ドルアーガの側女から「カイのティアラ」と一緒にもらう鐘です(現代風に言うところのフラグです)。しかし、もうひとつもらう場面があります。それは53階の船の、ブラックドラゴンのいるキャビン(710番)です。しかも、このキャビンに一旦入ると必ず「14の鐘」を手に入れさせられるのです。「14の鐘」は、持ちたくない鐘です。なぜ53階と59階の二箇所に出てくるのでしょう。一説によると、これは印刷ミスかバグとも言われていますが…。
 それから、ドルアーガとの決戦におけるパラグラフ構造のつくりが甘くなっています。124番において、アイテムを使うと同じドルアーガの特殊攻撃を二度受けることになります。また、ハイパーミサイルの威力にも矛盾点があります。これらについての詳細は、研究室にて…。
 そして、カイを助ける時に必ず通る103番において「あなたはうるさく雨滴をしたたらせる兜を脱ぎ捨てた」とありますが、それではなぜ295番の挿絵に兜をかぶった主人公が描かれているのでしょうか。非常に素朴な疑問ですが、恐らく著者と挿絵担当者がうまく連絡しあっていなかったのでしょう。
 しかし、こういった様々な不具合点も、刊行から20年近く経った今だからこそ解き明かされるのかもしれませんね。

 3巻を振り返ってみると、第1巻、第2巻、第3巻はどれとして同じ内容のものがありません。あとがきで本人は「飽きっぽい」性格と述べていますが、「同じものは二度書かない」という観点もあるのではないかと思います。常に新しい試みを行なっていると言った方がいいのかもしれませんね。
 さて、ドルアーガの塔と、東京・池袋のサンシャイン60(最寄駅:東京地下鉄有楽町線の東池袋駅)は、どことなく雰囲気が似ている気がします。サンシャイン60は、なんとあの巣鴨プリズン(巣鴨刑務所)の跡地に建てられたのです。当時のナムコ社員も、もしかすると巣鴨プリズンを意識して「ドルアーガの塔」を製作したのかもしれませんね(本当に?)…。

 ところで、肝腎のブルー・クリスタルロッドは塔のどこに隠されていたのでしょうか。741番の挿絵を見ると、塔の上部はほとんど吹き飛ばされおり、推定で塔の上部3分の2は消滅しています。となると、どの辺に…。第1巻で「行ってはならない階」がありましたね。――そう、13階です。この階の大半を覆い尽くしている大理石の中に埋めてあったというのが最も筋道の通った考えかもしれません!

← 魔宮の勇者たち |          

2006/10/17


ドルアーガシリーズのトップに戻る

直前のページに戻る

トップに戻る


(C)批判屋 管理人の許可なく本ホームページの内容を転載及び複写することを禁じます。