フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)
【第140回】アレクよ、永遠に
「おっと、危ない。」
私は、光の神バルドルを倒した直後にその場で昏倒してしまったエルを抱き止めた。
Guten Tag(グーテン・ターク).
皆さん、こんにちは(おはようございます・こんばんは)。アレクです。
私目線でのプレイ日記は
第39回
で一旦終了し、第40回から第139回までの100回分は、エル目線での進行でした。
早いもので、あれから9か月が経とうとしています。
今更私目線になっても中途半端に終わるだろうという考えもありましたが、このゲームの『真の神』から「
いつの間にかエルに乗っ取られてしまっているみたい
」という指摘がありましたので、今回は私目線に戻りました。タイミング的には、私目線に戻れるのは今回しかないと思っています。
この回は、アレクサンデル・イザーク・フォン・アイヒホルン、即ち私アレクの遺言だと思って御覧ください。
私がエルを抱きかかえているとき、突如声が聞こえた。
しばらくして、エルが意識を取り戻した。
「アレク……アレク! あたし、ついにやったわ。おじい様の、ううん、エルフ族の仇を討つことができたわ。これもあなたのお蔭よ、ありがとう。」
「いや、私の力だけではない。エルが、そしてみんなが力を合わせたからできたことだ。私一人の力では到底フィンブルの冬を阻止することなど叶わなかった。」
私はエルを労った。
「アレク、あんた大丈夫? 目の下に隈ができているわよ。それに、窶(やつ)れているみたい。」
「いや、大丈夫、少し疲れただけだ。」
ついにエルに気づかれてしまったか。いや、エルはもっと前に気づいていたに違いない。
「皆の者の働きにより、光の神バルドルは滅びた。皆の者の協力に感謝する。」
相変わらず上から目線の話し方だな、フレイヤは。だが、フレイヤの世話になったのは事実だ。
アイビスは一生後悔することになるだろう。己の不手際の責を統治者がその命で贖(あがな)うことになったことを。これは、アイビスにとって死刑よりも重い刑罰になる。
私達は2つの“門”をくぐり抜け、バイエルン王国に帰って来た。
人間界ではフィンブルヴェトルが阻止されたことが既に広まっており、8王国の王族による会談が開かれていた。
中でも、無意味な紛争を起こし世界中の人々が大切な人や物を失う原因となったマルクス教徒への処罰感情は尋常ではなかった。大陸中のマルクス教徒と名のつく者達は一網打尽にされ、その財産の全てを没収された。そして、肩書き(形式)ではなく実質(内容)の地位に応じて死刑、終身刑、有期懲役、有期禁錮などの有罪判決が言い渡された。但し、己の意志に反して入信を強要された末端の者に対しては罪一等を減じ、無罪放免になった者もいた。全てのマルクス教徒に対する吟味はアルベルト公爵を筆頭とする各国の魔法使いによって執行され、全てのマルクス教徒に対して正確にかつ公平に刑が確定した。
マルクス教徒との癒着の嫌疑があったルーシ帝国だったが、被疑者である教皇のエンゲルスとルーシ皇帝がともに死亡したことにより、バイエルン王国以外に真相を知る者はなかった。また、ルーシ帝国がバイエルン王国に対する賠償金の支払いを完済したことにより、バイエルン王国もマルクス教徒とルーシ帝国の癒着にそれ以上関知することはなく、嫌疑不十分でルーシ帝国に対する咎めはなくなった。
アイビスは己の罪を心から悔い、人間界の修道院に入り、8国王をはじめとしてこの世界大戦で命を落とした人たちの魂の供養に終生を捧げることになった。
我らアレク特別調査隊(アレク小隊)のメンバーは、その役目を果たしたことで解散することになった。私達5人には、バイエルン王国から特別手当が支給された。
マルクス教徒の処分に2週間かかったが、その間に8王国の平定は進み、フィンブルヴェトルの問題は終結した。
私は今、バイエルン王国の教会にいる。そして、私の傍らにはエルがいる。
この2週間で、エルの願い――そう、私をエルフ族の婿として迎えること――が叶うことになった。この件について、リーゼル、クリス、ソフィーから猛反対が出ると思いきや、実際には誰からも文句が出なかった。というのも、3人ともこの2週間で良人となる男性ができたらしい。私のことを嫌いになったわけではなく、3人とも「アレク隊長のような素敵な男性」に出逢ったのだという。四人が私の取り合いをしていた頃が懐かしく思われるが、彼女達も少女から大人になっていることは間違いない。彼女達にとって最も大事な時期に関われたことを幸運に思う。
エルと私の結婚式は、女王陛下やアルベルト公爵をはじめ、隣国の方々も集まってくださった。
式は順調に進み、いよいよエルと誓いのキスを……交わした。
エルの唇は柔らかかった。そして、自然に私の目から涙が……。涙はもう流れないと思っていたが、流れた。男爵になって初めて私は涙を流した。エルの目からも自然に涙が……。
リーゼル、クリス、ソフィーも心から私達の結婚を祝福していた。
3年4か月にも及んだこの戦いで、この大陸の人々はどれだけの涙を流したことだろう。そして、どれだけ大切なものを失ったのだろう。
だが、私はこうして大切な人を得ようとしている。今はこの至福の時を味わいたい。志半ばで死んでいった人達のためにも……。
「痛ッ!」
突如、私の背中に激痛が走った。私は背中を掻きむしるが、そんなことで痛みが治まるはずもなかった。
痛みのあまり、立っていることすらままならず、私は教会の祭壇の前に倒れ込み、教会の床をのたうち回った。
「キャーーーーッ!」
エルが悲痛な叫び声をあげる。エルだけではない。結婚式の出席者全員が愕然としている。ついにこの時が来たか……。
「アレク隊長を医務室へ!」
そう叫ぶ兵士達の声がだんだん薄れていった……。
エルの声が聞こえる。
目が覚めると、そこはバイエルン城のベッドだった。
みんなが集まっている。
「アレク、あなたの病名は恐らく大動脈解離、あなたの心臓の血管が破裂したことによってあなたの動脈血が体内の他の部分に流れ込んでしまっているわ。残念ながら、今のあたしにはこの病気を治療するだけの力はないわ。ごめんなさい……。」
ロジーナによると、この大動脈解離を発症した原因は、私の体内に残っていたアレシア軍の刺客による毒が徐々に動脈血を凝固させて動脈瘤が蓄積し、エルとの結婚式のときに大動脈が解離、即ち破裂してしまったという。ヴァルハラにいたときに時折気持ち悪くなった理由が今になって分かった。あれは、動脈瘤によって私の身体が血行不良を引き起こしていたに違いない。
「あのとき、私が適切に治療していれば、こんなことには……」
ロジーナの目からは涙が滴り落ちていた。
ロジーナ、それは逆だ。ロジーナの治療があったからこそ、私はここまで生き延びることができたんだ。
実は、聞いていたんだ。私の命がそう長くはないことを。
ロジーナが私の治療を終えてルテティア城に戻るとき、ソフィーに話していたことを覚えているだろうか? 2人が話していた場所は、本陣のトイレのちょうど外側で、私はちょうどそのときトイレにいたんだ。そのときの
ロジーナとソフィーの会話
を私は偶然にも聞いてしまったのだ。いつかはこういう日が来ることは分かっていた。
ロジーナには本当に感謝している。だが、ロジーナの治療をもってしても天命には逆らえなかった。ただそれだけだ。
「アレク、この影の薄いジジイより先に逝くのは許さんぞ!」
フォルゲン伯爵、これまでの暴言や失言、お許しください。
エリー女王陛下、カール王子は立派に戻ってきましたね。日焼けして体中傷だらけになって、より一段と逞しくなったようでして。
アルベルト公爵殿下、大陸一の魔法使いの下での任務の日々は、充実していました。
リヒター将軍、ソフィーの数々の暴言は騎士隊長たる私の責任です。ご容赦を。
ザウアー将軍、ギルドの頭のグスタフは、将軍の元部下だったそうですね。鮮やかなお手並みを拝見しました。
ハスラー将軍、私のことを覚えてくださっていて光栄です。
はうっ! 破裂した大動脈から更に血液が流れていく。
「どうやら私はこれまでのようだ。」
どこかに行こう……。そう言い終わったとき、私の目の前にいるエルの姿が次第に薄れていった。瞼がだんだん重くなっていく……。
「アレク、アレク! いや、目を開けて! お願い! アレク!」
エルの声も、もう私の耳には届かなかった……。
ここはどこだ? バイエルン城の医務室の天井か。
ふと下を見ると、目を閉じている私を見てみんなが泣いていた。エル、リーゼル、クリス、ソフィーがもはや微動だにしない私に口づけを交わしている。これは、死にゆく者への手向け……そうか、私は死んだのか。
ジパングとは違い、この国では憲法で交戦権が保障されている。つまり、言い方を悪くすれば、自分達から他国に喧嘩を売ることができるのだ。私はこれまでバイエルン軍の騎士隊長として日々生き抜いてきた。毎日が殉職日と心得ていた私に悔いはないと思ったが、こうして魂としてバイエルン城の上空を漂っているということは、まだ悔いはあるのだろうか。ならば、文字通り魂が浮かばれるまで、見届けることにしよう。
リーゼルとクリス、そしてソフィーも、最初の頃は私が守っていたのに、いつの間にかみんな強くなって、逆に私がみんなに守られるようになっていた。
3人ともファーストキスの相手はそれぞれの良人ではなく、こんな私――しかも遺体で良かったのだろうか。だが、彼女達もそれを承知で私に口づけをしたのだろう。3人とも良人と幸せに暮らすんだぞ。
イレーネ、エリーゼ、そしてパウラ。あなた方の娘さんや姪御さん達を、今無事にお返ししましたよ。3人とも立派に任務を果たしました。
「みんな、今は2人きりにしてあげよう。」
アルベルト公爵はそう言って医務室を出て行き、エルを除く全員が公爵に続いた。医務室には私の遺体とエルのみになった。
数日後、私の葬儀が行われた。
私の遺体が故郷アルザスに運ばれ、養父母の墓地に埋葬された。
墓碑が建てられる頃、天から光が差してきた。ついに私も浮かばれるときが来たか。その光に導かれるにつれて、もはや私は何も感じられなくなった……。
全ては終わったのだ。
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2022/09/24
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