フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



〔エピローグ〕



 エルフの歌姫、エルです。
 あたしは今、エルフの村に通じる森の中にいます。ここは、アレクと初めて出会った場所です。



 今でも、あのときのことを思い出すわ。
 フィンブルの冬を阻止してから、あたしは最愛のアレクと結婚式を挙げることになったの。
 バイエルン王国の人達は勿論のこと、近隣諸国からもお祝いのメッセージが届いたわ。
 アレクと口づけも交わし、みんなに祝福されるところで、アレクは突然倒れ込んでしまったの。



 ロジーナによると、彼女がアレクの治療を始める前の時点で、既に毒がアレクの全身を回っていて、神経の奥深くに入り込んでしまっていたみたいなの。ロジーナの薬師の腕前は大陸でも一、二を争うほどよ。そのロジーナの治療をもってしても、アレクの体内に入った毒は完全に取り除けなかったから、あたしにはどうすることもできなかったわ。
 そして、結婚式を挙げた日にアレクは旅立っていったわ。
 アレクと夫婦になれたのはたったの1日だった。でも、たった1日だけだったけれど、アレクと夫婦になれたのは嬉しかったわ。
 アレクの葬儀は国葬として執り行われたわ。王族でない人の国葬はバイエルン王国ではアレクが初めてだそうよ。
 アレシア王国からはニーナ前王妃とユーグ国王とアネット王妃が、レオン王国からはフェリペ国王とセシリア王妃が、レイリア王国からはオリビア王妃が、ラツィオ王国からはビアンカ王妃が、ブリタニア王国からはディアナ王妃が、クラクフ王国からはベルナルト国王が、そしてルーシ帝国からはアレクセイ皇子が参列したわ。各国の人達がアレクに弔辞を述べている間、あたしの涙は止まらなかったわよ。
 たくさんの副葬品とともにアレクは故郷アルザスに埋葬されたわ。あたしとリーゼルとクリスとソフィーは、アレクの形見の品を一つずつ取ったわよ。あたしはアレクの使っていたゴーグルをもらったわ。
 そして、アレクの埋葬が終わり、国葬が終わると同時にあたしはバイエルン王国から姿を消して、エルフの村に帰ったわ。アレクのいないバイエルン王国にあたしがこれ以上いる理由はなかったからよ。
 あれから3年が経つけれど……。



 この3年間、あたしはバイエルン王国の誰とも会ってはいないけれど、風の精霊シルフからその後のバイエルン王国での出来事の一部始終を聞いたわ。
 リーゼルとクリスとソフィーは正規兵になってから頭角を現して、バイエルン王国の近衛兵になった話も聞いたわね。そして、3人とも結婚が決まったそうよ。結婚相手は、アレクの葬儀で一緒にいた良人らしいわ。3人ともアレクの葬儀のときにそれぞれの良人の胸の中で泣いていて、そして「この人の胸の中で安心して泣ける」と確信して結婚に至ったそうよ。アレクも草葉の陰で祝福しているに違いないわ。
 アレクの家は王立博物館に改築され、博物館の中にアレクとあたしの銅像が建てられたそうよ。リーゼルとクリスとソフィーが月に一度アレクとあたしの銅像を訪れて、願をかけると聞いたわ。アレクの銅像に結婚報告もしたそうよ。そして、毎年、アレクの命日にエリーとカールがアレクの銅像に手を合わせるという国事行為が行われていると聞いたわ。カールはアレクに最後まで王位継承者として扱われなかったことを生涯の教訓にしていくそうよ。でも、安心して。アレクは、最期にカールが立派になって戻って来たと言っていたわ。



 あのときの焚き火の跡は、アレクと出会ったときのままで残しているわ。だって、アレクとの想い出が全部消えてしまいそうだから。



 やっぱり涙が出てきちゃう。あなたのことを思い出す度に。



 それは叶わないことは分かっているわ。それでも、会いたい……



 あたしは、谷村有美の『ときめきをBelieve』の一節を無意識のうちに歌っていた。

♪ あんなに 好きだった アレクとの すべては さよならで 終わってゆくけど

 この歌がアレクへの挽歌になるなんて……。アレクの遺体をアルザスに運んでいるときにもこの歌を歌ったわ。
 歌っているうちに、そのときのことを思い出して、また涙が流れてきちゃった。
 でも、これも天命かもしれないわ。長老が死んだのも、アレクが死んだのも、全てが天命だとしたら、それは受け入れるしかないわ。
 今のバイエルン王国では、あたしが悲しみのあまりエルフの村に帰って生涯独身を貫いたと噂されているかもしれない。それはそれでいいわ。アレクのような素敵な男性、滅多に現れるものではないわよ。でも、あと100年もしたら、アレク以上に素敵な男性が現れるかもしれないわ。その頃には、バイエルン王国であたしのことを知っている人は誰もいなくなっているでしょうけれどね。
 アレク、あたしが唯一あなたに対して言ったことで後悔したのは「あんたなんか、そのまま死んじゃえば良かったのよ!」と言ってしまったことよ。エルフの寿命と人間の寿命はまるで違うから、あなたがあたしより先に死ぬのは分かりきっていたことだけれど……。でも、こうしてあなたが死んだ今、あたしはあのときの勢いに任せて言ってしまったことを今でも後悔しているわ。
 あの毒矢はあたしに対して向けられたものだったから、本当はあたしの方があなたよりも先に死んでいたかもしれないのに。そう思うと、定まる前の運命は変えられる可能性があるのでしょうね。

 アレク、今までありがとう。
 あなたと一緒にいられた日々は幸せでした。あなたに助けてもらったこの命、大事にします。
 さようなら、愛した人。



男爵アレクサンデル・イザーク・フォン・アイヒホルン
ドイチュ歴2022年9月24日没 享年45

王族に対する数多の諫言・苦言を呈し、8王国全てに平定を齎(もたら)す
フィンブルヴェトル阻止の大偉業を成し遂げ、神々が最も恐れた人間として知られる
最愛のエルフとの婚礼時、アレシア軍の毒矢による負傷が原因で大動脈解離を引き起こし、急逝


〜フィンブルヴェトル物語 完〜

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2022/09/25


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