フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第39回】騎士隊長の誇り

 自らの千里眼の術において、敵の正体を知ったアルベルト公爵も、困惑の表情を禁じ得ない様子だった。



「殿下、敵は粗方仕留めましたぜ。って、あれは何だ?」
 部下達を率いて一仕事終えたザウアーも驚いていたようだった。
「分からぬ。私にも分からぬ。おお、アレク。ご苦労であった。さて、本陣に帰るとしよう。話はそこでする。」



 私の目の前にはアルベルト公爵が、そして横にはザウアー将軍がいる。私達の周りを見張りの兵士達が囲んでいる。いつも冷静な表情のザウアーにも、動揺が隠せないようだ。



「これまでよりも一層気を引き締め…」
 そのときだった。



 それは、一瞬の出来事だった。白い覆面をした敵の刺客がこの本陣に忍び込んでいたのだ。
「そうはさせるか!」
 ザウアーが咄嗟に刺客に切りつける。
「ぐっ……」
 将軍ザウアーの腕は確かだった。しかし、見張りの監視の目をくぐり抜けただけあって、刺客もザウアーの一撃を躱(かわ)していた。
「かくなる上は……。」
 刺客の目に留まったのは、小柄なエルフの少女だった。
「これでもくらえ!」
 そう言えば、T&T(トンネルズ・アンド・トロールズ)シリーズにもそんな呪文があったなあ。なんて悠長なことを言っている場合ではないぞ。
 エルは突然の見慣れぬ敵が現れた恐怖で、身動きが取れないでいた。こうなったら……。私は本能的にエルに駆け寄った。そして、エルを庇う形でエルの全身を抱き締めた。



 ドシュッ! 鈍い音がして、私の背中に何かが刺さった。
 一瞬、私の視界が真っ暗になった。すぐさまエルの姿を見ることができたが、エルが……否、周りのもの全てが赤い霧に包まれているように見えた。
 どうやら先程の矢には毒が塗ってあったようだ。暗殺にはよくあることなのだろう。意識が急速に薄れていく。
「アレク!」
 エルは私に抱かれている安堵感からか、恐怖心が少し薄らいだようだった。
 一方、アルベルト公爵の暗殺に失敗した刺客は、意識が混濁した私に向かって突進してきた。
「アルベルトの代わりに貴様を道連れだ!」
 もう私には、刺客の攻撃を防ぐ力はない。だが、騎士隊長の名に賭けて、エルは守ってみせるぞ。
「エル、君だけは生きてくれ。幸せにな。」
 私は最後の力を振り絞って、エルを突き飛ばした。その直後、刺客は私の身体を拘束する形で捉えた。私は、刺客ともつれ合うようにして地面を転げ回った。

 ドバーーーン!

 刺客の外套の中に自爆用の爆薬でも仕込んであったのだろう。刺客の体は四方八方に飛び散り、雲散霧消した。そして、私はその爆風により、本陣の端まで吹き飛び、地面に叩きつけられた。忍びの掟は、事破れれば死というのを聞いたことがある。アルベルト暗殺という事が破れた刺客が最後に取る行動が自爆というのも合点がいく。
 私がエルに対して取った行動は、騎士隊長としての誇りそのものだったと確信している。以前にも言った通り、私は毎日が殉職日という覚悟で騎士隊長を務めてきた。いつかこういう日がくると思っていた。







 リーゼル、クリス、ソフィーには爆発による被害は及ばなかったようだ。



 エルのすすり泣く声が聞こえる。
 エル、私が死んでも強く生きてくれ。私は最期にエルを助けられた。騎士隊長として…いや、彼女が愛した男性として誇りに思う。
 リーゼル、クリス、ソフィー。私は君達に何も隊長らしいことをしてあげられなかったが、こんな私によくぞついて来てくれた。ありがとう。
 私は地面に倒れながら、そんなことを考えていた。だが、それ以上のことを考えることはできなかった。
 私の視界が次第に暗くなり、そして周囲の音もだんだん消えていく。矢と爆発の痛みも薄れていく。
 嗚呼、これが「死ぬ」ということなのだろうか。
 これまでの想い出が走馬灯のように駆け巡りながら、次第に何も考えられなくなった。やがて……



「いやあああああああぁぁぁ!!!!」

 本陣の外にも響くほどのエルの悲痛の叫び声は、もう私には聞こえなかった…………。


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2021/12/25


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