暗黒教団の陰謀―輝くトラペゾヘドロン―


 ミスカトニック大学附属図書館員である主人公は、ある日突然叔父の屋敷に呼び出された。
 元ミスカトニック大学教授である叔父の話によると、時間と空間の全てに通ずる窓と呼ばれる<輝くトラペゾヘドロン>を手に入れないことには<旧支配者>による地球の完全な支配と人類の滅亡は避けられないという。叔父は、<旧支配者>の復活を阻止しようとしたばかりに<旧支配者>の呪いを受けてしまったという。もはや叔父には調査をする気力はなく、主人公は叔父の調査を引き継ぐことになった。
 主人公は叔父の話を聞いた後、自分の寝室に戻った。…真夜中を過ぎた頃だろうか、叔父の寝室から翼の音が聞こえ、叫び声が起こった。主人公は叔父の寝室に向かう。しかし、叔父の姿はなかった。
 一体何が起こったのか。そして叔父はどこへ行ったのだろうか。手がかりの全ては叔父のベッドの書き付けにしかなかった…。

 『暗黒教団の陰謀』は、クトゥルー(クトゥルフ)神話を元にしたゲームブックです。著者は大瀧啓裕(おおたき・けいすけ)氏です。大瀧啓裕氏は、クトゥルー神話に関して精通する翻訳家として有名です。『クトゥルーの呼び声』というテーブルトークRPGもあります。
 この作品の主な重要人物は、マーシュ精錬所の求人広告を見てインスマスへ応募にやって来たマイケルとジェシー、叔父のメモに記載されていた盲目のシュリュズベリィ博士、同じくアルコール中毒のジョシュ、ギルマンハウスの受付係と経営者アンドルー・フェランです。
 一方、主人公の主な敵としては、ダゴン秘密教団と<星の智慧派>の者たち、ルルイエの深きものどもといった面々です。
 このゲームブックの分類としてはFFシリーズ10巻『地獄の館』や25巻『ナイトメア・キャッスル』のような“恐怖”ものになると思います。
 クトゥルー神話を知っていないと分かりづらいのですが、前書きと後書きにおいてはよく説明されています。“インスマス面”と呼ばれる両棲類みたいな顔をしたインスマスの住民や人間と両棲類の混血種であるルルイエの深きものども、そしてその他の化け物じみた宗教集団などの説明は詳しいものです。クトゥルー神話の要旨はプロローグや1番にあります。1番の叔父の話にはクトゥルー神話の作者であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトやオーガスト・ダーレスまで登場します。クトゥルー神話を知らなくてもこの作品がプレイできるようになっています。
 しかし、ゲームブックの質としては最低レベルと言わざるを得ません。
 読み進めていくと分かるのですが、話の展開が強引過ぎるのです。“本筋”から少しでも逸れるとすぐにデッドエンドブロックに入り込みます。<悪魔の暗礁>がこれの最たるもので、ここに入り込むとどうあがいても死に至ります。しかも、これらのデッドエンドブロックは必ずしも自分の選択で回避できません!と言うのも、この作品には“ギャンブル”というサイコロ任せの選択肢があり、『仮面の破壊者』と同様、サイコロの目によっては自動的にデッドエンドブロックに放り込まれてしまう構造になっているからです。即ち、この冒険における“ギャンブル”とは双六となんら代わりはないのです。
 パラグラフジャンプなどによる交通整理は一切なく、555項目の中には無駄に項目数を増やしている部分が少なくありません。途中これだけ難しくしている割には、最終番号の555番のエンディングがたった3行しかなく、しかも552番〜554番と同じ見開きページになっているという構成もいただけません。やはり、エンディングは最後までとっておきたいものです。
 こうしてみると、この作品は普通にクリアを目指すというよりもクトゥルー神話における恐ろしい化け物どもの恐怖を味わうというのが「正しい」プレイの仕方なのかもしれません。短気な人には決してお薦めできない作品です。

 「神話」の世界を扱ったゲームブックは色々あります。例えばFF11巻『死神の首飾り』もそうですし(オーブの世界の神々)、あるいは林作品の『ネバーランドシリーズ』もそうです(ケルト神話)。「神話」とひとくくりには出来ない、ということなのかもしれませんね。

2007/06/24


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