真夜中の盗賊(プレイ日記)


【最終回】 試験の正体

〔214(400)〕

 宝石の片側には一本の線がついていた。いや、これは傷だ。そして内側には小さな気泡があったのである。もしかすると、この宝石は偽物で、値打ちのないガラス玉……そんなことを思っていると、部屋の向こう側に隠されたドアが突然開いた。



「ラニック……」
 そこには、盗賊ギルドの長であるラニックとギルドの幹部メンバーがいた。
「おう<批判屋>、ついに“バジリスクの瞳”を見つけたな。その宝石を持って、我々について来い。」
 言われるがままに、私はラニック達について行った。台座のあった部屋の向こうは小さな通路になっていた。そして、その突き当りには上へと続く螺旋階段があった。ラニック達はその階段を昇っていく。私も後に続いた。階段の途中に、錆びた鉄の扉があった。私がその扉に視線を向けると、ラニックが口を開いた。
「その扉は、もう何十年と開いたことのない、開かずの扉よ。私がギルドのメンバーになって間もない頃、先代の長から聞いたことがある。何でも、大魔法使いにつながる扉だとか。これまでギルドのメンバーが鍵を開けようとしたが、誰も成功しなかった。無論、私もだ。さあ行くぞ。」
 引き続き螺旋階段を昇った先に、地上へ続く扉があった。それを開けると……。そこは屋敷跡だった。辺りを見回すと、見慣れた塚が口を開いている。数時間前、私が地下通路へ降りて行ったところだ。東の空が白みかけている。夜明けが近い。
「この周辺には絡み草が生えている。迂闊に足を踏み入れると草に絡みつかれてしまうのだ。私達の後に続け。」
 そう言って、ラニック達は屋敷跡へ足を踏み入れる。私も後に続いた。時折絡み草の絡みつく音が聞こえたが、私達の足に絡みつくことはなかった。
「よし、ここまで来れば、後は盗賊ギルドに戻るだけだ……なぬ!?」
 ラニック達が狼狽したのも無理はない。ポートブラックサンドの警備兵の一団がバロウの丘を取り囲むようにして立っていたのだ。
「ついに現場を抑えたぞ、盗賊ギルドのメンバーよ。貴様らを逮捕する。」
「これはいかん。地下通路へ戻るんだ。あれだけの数を相手にしては、勝ち目はない。」
 ラニックの声とともに、私達は先程の屋敷跡から地下通路へ舞い戻った。警備兵の連中は絡み草に足を捕らわれて身動きが取れない。だが、それも束の間の時間稼ぎにしかならないだろう。私達は螺旋階段を降りて行く。錆びた鉄の扉を通り過ぎようとしたとき、私の脳裡に何か閃くものがあった。
「何をしている<批判屋>、捕まりたいのか。」
「いいえ、違います。私はこの扉を開ける鍵を持っているかもしれません。」
 私は合鍵の束を取り出した。束の中の一番最後にあった鍵を取り出す。これはこの試験最大の賭けだった。もし、この賭けに負けた場合、私の命どころか盗賊ギルドすら闕所になるだろう。
 …カチリ……
 回った! 私は、ラニック達を呼び戻そうとした。
「開いたようだな、<批判屋>。だが、その扉はお前一人で十分だ。私達は私達で逃げ延びる。盗賊ギルドで待つ。」
 ラニック達は台座の部屋から水晶の戦士の部屋へ駆けて行った。そうだ、あの先は迷路だ。ラニック達は大丈夫だろう。私は、自分に課せられた天命を信じて、数十年の開かずの間に足を踏み入れた……。
 突如、私は大魔法使いニコデマスと対峙していた。実は、私は別の冒険でニコデマスの友人であるヤズトロモと仲良くなっており、ニコデマスも私がヤズトロモの仲間であることは知っていた。
「あの開かずの間から入って来られる者はそうそういない。少なくとも、儂が歓迎せぬ輩は開かずの間から入っては来られぬのじゃ。お前さん、どうやら盗賊ギルドの見習い盗賊らしいが、まさか盗賊ギルドのメンバーにここへ入って来る者がおるとは予想だにせんかった。ここは歌う橋の下にある川沿いの小屋で儂の仮住まい、通称“立入禁止区域”じゃ。お前さんがここに来たのも天命というもの。さあ、ここまでの経緯を話すが良い。」
 私は、盗賊ギルドの最後の試験である“バジリスクの瞳”を見つけ出したこと、そして警備兵達から追われていることをニコデマスに話した。
「ああ、あのアズールの番犬どもか。アズール自体は生身の人間じゃが、奴の回りを取り巻く連中が少々厄介じゃ。尤も、儂も奴も相互不可侵――お互い何もしなければ、何も起こらないという間柄じゃ。しかし、今回ばかりはそうはいかぬようじゃ。儂に任せなさい。」
 そう言って、ニコデマスは私に魔法をかけた。私の周りの空間が見えなくなっていく……。
 それと入れ替わりに、“立入禁止区域”にアズールと数名の近衛兵がやって来た。
「何の用じゃ?」
「盗賊ギルドのメンバーが宝石を盗み出したという情報を聞いて、ポートブラックサンド中を探しておる。貴殿の家も調べることになった。」
「勝手に決めるでない。ここにはそんな者はおらん。そもそもここは“立入禁止区域”じゃ。お主とてそれは例外ではない。」
「役儀故、ご容赦を。」
「ならん!」
 そう言って、ニコデマスは“立入禁止区域”に無断で侵入した近衛兵2人に向けて閃光を放った。忽ちにして近衛兵達はイモリになってしまった。流石のアズールもこれには度肝を抜かれたようだ。
「アズール卿よ、調べてもよいぞ。じゃが、……」
 アズール達はニコデマスの言いかけた声を聞くこともせず、家宅捜索を行った。しかし、私の姿は勿論のこと“バジリスクの瞳”の欠片すら見つけることはなかった。
「さて、アズール卿、お前は儂との相互不可侵の約定を違えた。この責任をどう取るおつもりか。」
 ニコデマスがアズールに科した制約は至極単純だった。アズールがニコデマスに違約金として金貨1万枚を支払うこと、この件に関しては今後一切忘れること、これらを違えた場合はアズール卿をイモリに変えること。アズールも屈強な部下2名を簡単に倒されて気落ちしており、ニコデマスからの制裁を甘受せざるを得なかった。
「ぐっ……ニコデマス殿、邪魔をしたな。」
 そう言って、アズール達は去って行った。

 ポートブラックサンドの盗賊ギルドの集会室。私はいまその真中に立っていた。部屋には、すり、物乞い、追いはぎなど、ありとあらゆる種類の盗賊たちがひしめいている。みな、徒弟最後の試験の結果を、その目で確かめようとここに集まってきたのだ。
 実は、アズール達がニコデマスを訪ねたとき、既に私はニコデマスの家にいなかった。私はニコデマスの魔法によって、盗賊ギルドに瞬間移動をしていたのだ。
 ギルドの長、ラニックが部屋の中央に進み出て宣言した。
「只今より、<批判屋>の盗賊ギルドメンバーの認定式を執り行う。」
 周りから拍手が沸き起こった。
「ここにいる<批判屋>は、“バジリスクの瞳”を捜し出すという任務を見事達成した。皆も知っている通り、“バジリスクの瞳”というものはありはせぬ。この任務も全て作り事だったのだ。だが、<批判屋>が出遭った危機は、命に関わるものばかりだった。それを<批判屋>は、その技能とその装備だけでこれをやってのけた。加えて、当ギルドが半世紀以上に渡って解明できなかった開かずの間の謎まで解明した。これは、ギルドの正式なメンバー以上の働きであることは間違いない。よって、ここに<批判屋>を、盗賊ギルドの特別顧問と認定する。ということで、顧問、これからもよろしく頼みましたぞ。」
 私としては試験に合格するだけで十分だったのだが、どうやらこの試験で得たものは合格を遥かに上回るものだったようだ。これも、修行時代に何度も失敗したからこそ成し遂げられたのだろう。元々私は盗賊稼業の現場には向かないようだ。現場からある程度距離をとって全体を眺めるという方が向いているのかもしれない。修行中だろうが特別顧問になろうが、私は私だ。特別顧問だから、ギルドに常駐する必要もないだろう。
 今回の修行で、自分の居場所がまた一つ増えたことは確かだ。新しい居場所をどう活用するか、それは私次第である。今後のこともこれから考えていきたい。
 ギルドのメンバー達の拍手喝采は、夜明けまで鳴りやまなかった……。

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 ゲームブックプレイ日記『真夜中の盗賊』をここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
 この作品における批判の概要については、このページで述べていますので、ここではプレイした感想を述べたいと思います。
 まず、この冒険においてどの特殊技能を最初に選ぶかが非常に重要な分かれ道となります。「“感知”」または「“目利き”と“すり”」のうちどちらかの特殊技能を選ばないとクリアは不可能です。また、この冒険における唯一のパラグラフジャンプである3つのヒントを得るには順番が非常に重要であり、まずは1番において「“輪なわ”に行く」という選択をしないとアウトです。また、商人ギルドやブラスの家へ行く前の関門において、それぞれ“忍び足”や“姿隠し”があれば便利なのですが、それらの特殊技能が手に入るのは関門の後だったりします。この辺りは不便な仕様と言えば不便な仕様です。そして、寄生する悪霊との戦いにおける「魔法の武器」ですが、この「魔法の武器」とは埋葬室の骸骨が持っていた大剣のことを差すものと思われますが、実は定かではありません。というのも、邦訳版では「魔法がかかっているのか、まるでフェンシングの剣のように自在に扱うことができる。」としか書かれていないからです。原版または邦訳版のどちらかに問題があったのでしょうが、邦訳版では「魔法がかかっている」と言い切って然るべきだったと思います。
 このゲームは、盗賊ならではの動きが多かった分、戦闘は特殊技能である程度避けられた印象が強く感じられました。しかし、寄生する悪霊と水晶の戦士との戦いを考えると、技術点10は欲しかったです。
 本プレイは社会思想社『真夜中の盗賊』(邦訳版)を基に著述しましたが、ストーリーの展開上、一部各能力点やアイテムの得失などが前後している場合があります。また、一部設定を変更している場面があります。以上の点をご理解・ご了承・ご容赦くださるようお願い申し上げます。




2025/11/15


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