モンスター誕生(プレイ日記)


【最終回】 生きる目的

〔460〕
 ザラダンを倒した今、私の生きる目的は失われつつあった。もう人間には戻れない。ならば、生きていても仕方がない。そんな虚脱感と自暴自棄を覚えながら、私は扉に向かって歩き出した。痛ッ! 私の足に激痛が走った。鏡の破片で足でも切ったのか? いや、私の固い鱗がそんなもので傷つくはずがない。私は足元を見つめ、驚きの声をあげた。
 私の濃緑色だった足はもはや鱗に覆われてはいなかった。傷つきやすい人間の足になっていた。鉤爪も消えていた。私は衣裳ダンスの鏡を見た。そこには、裸の人間の姿が映っていた。やった、私は人間に戻ったんだ! マランハは外科的なものではなく、魔法によるものだったのだ。魔法をかけたザラダン・マーがこの世からいなくなると同時に、私にかけられていた魔法も消えてなくなったのだ! 私はザラダン・マーを信用しなくてよかった。あいつは最後まで私を騙そうとした。自分に都合の良い話しかしない輩だった。だが、今、ザラダン・マーは私の味わった以上の地獄を見ていることだろう。何しろ、ザラダンが住んでいる世界そのものが地獄なのだから。
 私は、衣裳ダンスにあった船長の制服を着た。そして、粉々になった水晶の棍棒と床に落ちている鏡の破片を掃除した。ふと、背負い袋が目に留まり、私はその背負い袋の元の持ち主を思い出した。
「グロッグ……」
 人間に戻って初めて発した言葉は“グロッグ”だった。グロッグの助けがなかったら、私は人間に戻るどころか、ザラダンを倒すことすらできなかったであろう。
 一瞬、私は動作を止めた。扉の外から乗組員達の話し合う声が聞こえてくる。誰かが囁(ささや)いた。
「しーっ! 何者かは知らんが、ここにいることは間違いない。いいな、不意をつくんだぞ。食料採集員がどんな目に遭ったか忘れるな。さあ、一、二の三!」
 扉がばたんと開き、乗組員の群れが殺到してきた。
「あれ? 船長……?」
 乗組員達は完全に不意を突かれた。何しろ、そこにいるのはモンスターなどではなく、一人の船長の制服を着た人間だったのだから。
「何か御用かな? ここは船長の部屋だが。何か起きたのか?」
 私は乗組員達に落ち着き払って問いかけた。
「あ…いや、……このガレーキープに、侵入者がいると聞きまして……。」
 乗組員達は、私が船長の服を着ているのを見て、すっかり私が船長と思い込んでしまっていた。普段船長の姿など見ないのだろう。尤も、私が本来の船長なのだが。
「見ての通り、この部屋には私しかいない。諸君達が探しているのは他の部屋ではないのか?」
「はっ、失礼しました。」
 ザラダンの兵士達の知能はそれほど高くはない。私がモンスターから元の姿に戻った人間であることは想像もしていなかっただろうし、何より私の態度から、私が船長であることに納得したようだ。乗組員達は他のマークの部屋に乗り込んで行った。しばらくして、乗組員達の悲鳴が聞こえてきた。ある者は両目を焼き焦がされ、ある者は空腹の呪いがかかったマントを着て餓死し、ある者は船医キンメルボーンと永遠の戦いを強いられ、またある者は竜巻によって体を粉々に砕かれた。
 追手の危機は回避され、私は一息ついた。モンスターだった頃、そして、モンスターになる前の月岩山地の苦い記憶が蘇った。ザラダン・マーと無数とも思える黒いトーキ――戦闘用のグリフォン(グリフィン)の特殊タイプ――が空を覆い尽くし、猛り狂う嵐のようにこの飛行船を攻撃してきた。トーキに乗っているブラッドオークの弓兵が雨霰(あられ)と矢を射かけ、乗組員は次々と倒れていった。もともとこの飛行船は軍艦ではなかった。無論、ガレーキープなどという名でもなく、アランシアの地理と気候の観測のために特別に造られた飛行船だったのだ。まさかこの飛行船を攻撃する者がいるとは想像もできなかった。私は完全に不意をつかれ、やむなく降伏したのだった。この飛行船に第一歩を踏み降ろす、個人用のトーキに乗ったザラダン・マーの姿は目に焼き付いている。あのとき、命ある限りザラダンに復讐すると誓ったのだ。まさか自分がマランハの実験材料にされるとは知らず……。
 今や立場は逆転した。私は再びこの飛行船の船長になったのだ。ザラダンはある種の慈悲――なんとも悍ましい慈悲だが――を私にかけてくれた。そのお返しに、私は、ザラダンにふさわしい『慈悲』をかけてやった。それは――無だ!

 さて、これからどうしよう? この飛行船は“ガレーキープ”という名に変えられてしまった。今更元の名に戻したところで、事態が全て元通りになるわけではない。私の第二の故郷とも言えるこの部屋はそのままだが、かつての観測船にはもう戻れないのだ。ならば新しい道を切り開くしかないだろう。
 ドリーの三姉妹の予言通り、私は何者で、どこから来たのかは明らかになった。
 だが、私の生きる目的は何だ? 何のために生きているのだ? これから、私は何をしたら良いのだろうか? このままこの“ガレーキープ”の船長のままで良いのだろうか? その答えこそ、人によって違うだろう。今、このプレイ日記を読んでいらっしゃるあなたも、私と同じ考えかもしれないし、私とは異なった考えかもしれない。
 生きる目的――私がいくつになろうと、どんな地位にいようと、誰と結ばれようと、そしてこの世界で何が起きようと、この世に生き続ける限りは永遠の課題になるだろう。
 私の脳裡に、ドリーの三姉妹の言葉がよぎった。

 〜〜最終的な決断は全て自分自身が下さねばならない〜〜

〔最終STATUS(現在の値/原点)
 技術点 … 11/11
 体力点 … 17/19
 運点 …… 8/10
 メモ …… ザラダン・マーの門に着いたら93を引いた番号へ、エルフの粉を全身に浴びてしまった、青い茎のスカル藻はディードル川の南のカエル沼にしか生えない
 所持品 … 革切れペンダント水晶の棍棒(333)、29番兵への手紙、銀の指輪(『ダラマスにつかみかかる』ときに50を加えた番号へ)、金貨2枚、ロープ、青い茎の草(49)、幸運の薬(運点原点まで回復する)、《真実の指輪(ダーガの話を聞いたら50を引いた番号へ)》


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 ゲームブックプレイ日記『モンスター誕生』をここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
 本作品は、英スティック・ジャクソン最後のゲームブックと言われているだけあって、英ジャクソンの読者にとって最大の注目を浴びたことは間違いないでしょう。
 この作品における批判の概要については、このページで述べていますので、ここではプレイした感想を述べたいと思います。
 今回のゲームブックは比較的文章が長いように感じられました。特に、冒頭の〔背景〕は邦訳版で20ページあり、恐らくこの〔背景〕を後回しにしてプレイされた方も多いのではないかと思われます。私も、各背景を読んではいるつもりでしたが、今回のプレイ日記で文章を読み直してみると、結構読み落としている箇所がありました。クリアしたゲームブックを改めてプレイ日記として書くと、また新たな発見があります。
 近年は、ゲームブックを実況される方も出てきて、この『モンスター誕生』の実況動画もインターネット上にアップロードされています。約35年前の作品が語り継がれていくのは良い傾向だと思います。
 本プレイは社会思想社『モンスター誕生』(邦訳版)を基に著述しましたが、ストーリーの展開上、一部各能力点やアイテムの得失などが前後している場合があります。また、一部設定を変更している場面があります。以上の点をご理解・ご了承・ご容赦くださるようお願い申し上げます。

 そして、第3部へ


2022/11/29


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