モンスター誕生(プレイ日記)〜後日篇〜


【後日篇1】 “魔術の煙”

 私の名はALADDIN(アラジン)。祖国ジパングでは<批判屋>と呼ばれている。いや、呼ばれていたと言った方が正しいだろう。なぜなら、私は一度モンスターにされたからだ。
 ここは、ガレーキープと呼ばれる飛行船の船長室である。ザラダン・マーを鏡の向こうの幻影の世界へ幽閉してから一週間が経過した。その間、私は強烈な自己嫌悪に苛まれた。ザラダンの言っていることが事実だとすれば、私は仲間を殺し、剰(あまつさ)えその肉を食べたのだ。人間の世界では、これを共食いと言い、非人道的な行為に値する。その他にも、無益な殺戮を思い出す度に、私は己の運命を呪った。だが、私は生きなくてはならない。私のために犠牲になった仲間達のためにも。幸いにも、食料やその他の日用品はガレーキープの船員達が調達してくれるので問題なかった。この空白とも言える一週間、私は自分の部屋に籠り、自分の天命や生きる目的を見出そうとした。ソクラなんとかではないが「善く生きる」ことを追い求めていた。
 そんなある日、私はグロッグの背負い袋に入っている小さな木箱を思い出した。ザラダンによると、それは“魔術の煙”と呼ばれるものらしい。これまで、私は2種類の“煙”を浴びた。“知性の煙”と“言葉の煙”だ。そして、この3種類目の煙こそが“魔術の煙”であろう。ヨアのスワインベアドは、放火罪の刑罰として、これらの煙を3つとも法廷に持ち帰ることを裁判所から命じられていたらしい。だが、それは叶わぬ願いとなった。なぜなら、私はスワインベアドを絞め殺してしまい、尚且つ2種類の“煙”を浴びてしまったからだ。ザラダンがあれほど渇望していた“魔術の煙”とは、一体どんなものだろう。私は、木箱を開けてみた。
 木箱の中身は、やはりフラスコがあった。そして、そのフラスコの中身を……栓が自然に抜けた。フラスコに入っていたオレンジ色の液体がゴボゴボと音を立ててオレンジ色のガスになり、やがてガスは例によって人型にまとまって行った。



 3回目となると、もう慣れたものだ。オレンジ色のガスは、私に語りかけてきた。
「我は“魔術の煙”である。我を目覚めさせたのは汝か? おお、汝には我が“母”エシリスの加護があるようじゃ。我が“兄”達が2人とも汝を祝福しておる。これも天命のようじゃ。よろしい、そなたに偉大なる魔術を授けよう。我が与えし魔術を如何に使うかは汝の自由じゃ。じゃが、決して汝自身の信念に背くではないぞ。我は再び眠りに就くとする。星々が一周するその時まで。」
 そう言って、煙は消滅した。と、同時にフラスコと木箱も消えている! どうやら、私は“魔術の煙”からも祝福を受けたようだが、本当に魔術を得たのだろうか? 試しに、旧世界の魔法を使ってみる。
「FAR!」
 私は、未来を覗く呪文を唱えた。普通の魔法使いならば、この呪文には触媒として水晶玉が必要らしいが“魔術の煙”を浴びた私にはそういった触媒は必要ないらしい。と、私の目の前にガレーキープとは別の光景が見えてきた。



 見えた光景はサグラフの訓練所のようだった。オークに対して敵意を顕わにしているサイ男達の姿が見えた。サイ男とオーク達の間に険悪な空気が流れているようだった。今にも暴動が起こりそうな……。ん? ふとサイ男の一人のメダルが私の注意を惹いた。29番のメダルだ! コーブンの地下研究所にいたサイ男の言っていた29番兵とは、あのサイ男ではないのだろうか。と、そこで光景は消えた。
 私が魔術を得て呪文を唱え、この光景が見えたのも天命であろう。これまで船長室に引き籠っていた私に新たな目的ができた。29番兵への手紙を届けるのだ。そして、その他にも私がモンスターだった頃にやり残したことがいくつかあるはずだ。それらを全て成し遂げてから今後のことを考えるのも悪くはないだろう。
 呪文を唱え終わった後、私はやや疲労感をおぼえた。呪文は精神を集中するため、体力を消耗するのだ。あまり魔術に頼り過ぎると、あっという間に体力がなくなってしまうだろう。魔術を使ったら休むことも大切だ。
 こうして、私の新たな旅が始まった。

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2022/12/01


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