“言葉の煙”からの贈り物(共通語の翻訳)


 本書の147番において、モンスターである主人公は“言葉の煙”から言葉を理解する力を授かります。これで共通語を理解することが出来ます。共通語の読み方については283番にありますので、もう一度確認しておきます。  以下の表を参照。青い矢印分かりにくい部分を指す。
 促音(っ)や拗音(ゃ、ゅ、ょ)などの区別はないので、それは前後の文脈から判断する。



































 共通語(暗号)で書かれている部分は次の19項目です。青字の項目番号は、まだ言語を理解する力を会得していない場面を表します。

79 86 104 147 155 160 185 192 217
241 337 364 369 382 392 425 435 441

*      *      *


 … ブラッド・オークを倒した後の盲目の老人
「どなたか、しらぬが、あわれな、ろうじんに、おなさけを。もし、みかたなら、ここから、だしてくれ。どうして、だまって、いるんだ。いつたい、だれなんだ?だしてくれる、つもりなら、はやくしてくれよ。そうでないのなら、ほっといてくれ。ことばが、わからないのか?わかるのなら、にひやくばんに、いくんだ。に、ぜろ、ぜろ、だぞ。なにか、いつてくれ。あわれな、ろうじんに、おめぐみを。かねか、たべものを、めぐんで、くだされ」

「どなたか知らぬが哀れな老人にお情けを。もし味方ならここから出してくれ。どうして黙っているんだ。一体誰なんだ?出してくれるつもりなら早くしてくれよ。そうでないのならほっといてくれ。言葉が分からないのか?分かるのなら200番に行くんだ。2、0、0、だぞ。何か言ってくれ。哀れな老人にお恵みを。金か食べ物を恵んでくだされ」

 241番のブラッド・オークを倒してここに来ると老人が自己紹介を始める。この盲目の老人はハニカスである。共通語を理解するモンスターにだけが出来るパラグラフジャンプで、ハニカスからはダラマスを倒す指輪をもらうことが出来る。



79,441 … イエローストーン金山への標識(79番は『』、441番は「」)
イエローストーンきんざんは、こちら

イエローストーン金山はこちら

 441番がイエローストーン金山にはまだ程遠いのに対し、79番はイエローストーン金山の近くまで来ている。尚、この二つの項目番号はどちらもデッドエンド・ブロック(死につながる部分)となっている。



86160 … 戦士の魔術師に対する呼びかけ
「そいつの、こころを、コントロールしろ!スワインベアドの、いばしよを、しつているかも、しれないぞ!」

「そいつの心をコントロールしろ!スワインベアドの居場所を知っているかも知れないぞ!」

 この三人組はヨアの国に住んでいるスワインベアドを探していた。スワインベアドは既にモンスター(主人公)に殺されてしまっている。現時点ではまだ言語が理解できないので、スワインベアドとの関わりは永遠の謎となる。
※注※ 160番は、一部印刷ミスがある。邦訳書の160番は「しあをぶぽで」となっているが、これでは「スインベアド」になってしまう。86番、337番のように「しあをぶぽで」となるのが正しい。これならば「スインベアド」となる。



104 … ペチャクチャ獣
「ここだ。このへやの、ことが、しりたいなら、こちらに、おいで。あれ、ことばが、わからないのかな?では、トロールごが、いいかな。ヘイ、カムオン、キヤン、ユー、アンダースタンド、トローリツシユ?オーノー、アナザー、ランゲージ。」

「ここだ。この部屋のことが知りたいならこちらにおいで。あれ、言葉がわからないのかな?では、トロール語がいいかな。Hey, come on. Can you understand Trollish? Oh no, another language.」

 トロール語とは名ばかりで、これは紛れもない英語である。このペチャクチャ獣は様々な言語が話せるので、途中からは言語を理解出来ても出来なくても通じるようになる。ペチャクチャ獣に近づくのは命取りだが、この部屋にあるキラキラした“エルフの粉”は全身に浴びる必要がある。(注:Can you understand 〜 ?は相手に対して失礼な言い方とされている。通常は Do you understand 〜 ?)



147 … “言葉(知識)の煙”
「わたしは、ことばの、けむり。わたしを、めざめさせたのは、だれだ?たしかに、ほしぼしは、ただしい、いちに、ついている。よろしい、おくりものを、さずけよう。」

「私は“言葉の煙”。私を目覚めさせたのは誰だ?確かに星々は正しい位置についている。よろしい、贈り物を授けよう。」

 “理性の煙”に次ぐスティトル・ウォードの煙である。最初のうちは何を言っているのか分からないが、贈り物を受け取った次の瞬間からモンスター(主人公)はあらゆる言語が理解出来るようになる。次は283番に進むことになる。



155 … ダラマスの水晶玉
「おろかものよ! ダラマスの、すいしようだまを、ぬすめるとでも、おもつたのか? なにものも、わがめ、わがぶき、そして、それいじようのものである、すいしように、さわつては、ならないのだ。おもいしるがよい!」

「愚か者よ! ダラマスの水晶玉を盗めるとでも思ったのか? 何者も、我が目、我が武器、そしてそれ以上のものである水晶に触ってはならないのだ。思い知るが良い!」

 ハニカスの言っていた「くそったれのダラマス」の水晶玉である。盗むつもりはなくても泥棒扱いされてしまう。触ると熱さのあまり体力点1を失う。



185 … ドワーフを足で踏み潰そうとするとき
「ほつといて、くれ!」

「ほっといてくれ!」

 後で分かるが、このドワーフこそがヨアのスワインベアドである。後に彼を探している三人組に出会うが、この三人組がスワインベアドを探していることは、モンスター(主人公)にとって永遠の謎となる。
※注※ 一部印刷ミスがある。邦訳書では「ヘチテア、キル!」となっているが、これでは「ほつとい、くれ!」になってしまう。「ヘチテア、キル!」となるのが正しい。これならば「ほつとい、くれ!」となる。



192 … ザラダン・マーに関する書類
「ザラダン・マー伝記、だい、きゆう、じゆう、さんページ……。
 かくて、ザラダンは、ぶつしつ、せかいを、はなれ、おのれの、せかいに、とじこもつた。われわれが、しつている、いかなる、せかいとも、ことなる、せかい――じごくに。かれが、いるように、みえる、ばしよに、かれは、いない、げんかくの、せかい。かれを、さがし、もとめる、ものは、おのれの、すがたを、みいだすで、あろう。しかし、このために、ザラダンは、ひとつの、じやくてんを、もつことに、なつた。すいしようの、こんぼうだ。われわれの、せかいと、かれの、せかいを、むすぶ、もんを、はかいすれば、ザラダンは、にどと、もどつて、これなく、なるだろう。もし、きみが、ザラダンの、せかいに、つうじる、もんを、みつけたら、そのときの、ばんごうから、ここに、かかれている、ページばんごう(きゆう、じゆう、さん)を、ひき、そのばんごうに、すすめ。ほんとうに、もんの、ところに、いたのならば、ザラダン・マーに、あうことが、できるはずだ。このしよるいを、よんだ、きみは、うんてんを、げんてんに、もどすことが、できる」

「ザラダン・マー伝記 第93ページ……。
 かくてザラダンは物質世界を離れ、己の世界に閉じこもった。我々が知っているいかなる世界とも異なる世界――地獄に。彼がいるように見える場所に彼はいない幻覚の世界。彼を探し求める者は己の姿を見出すであろう。しかし、このためにザラダンは一つの弱点を持つことになった。水晶の棍棒だ。我々の世界と彼の世界を結ぶ門を破壊すれば、ザラダンは二度と戻って来れなくなるだろう。もし君がザラダンの世界に通じる門を見つけたら、そのときの番号からここに書かれているページ番号(93)を引き、その番号に進め。本当に門のところにいたのならば、ザラダン・マーに会うことが出来るはずだ。この書類を読んだ君は運点原点に戻すことが出来る」

 地下洞窟内にあるザラダンに関する書類である。この書類は必ず読まなくてはならない。この書類から分かるように、モンスター(主人公)は水晶の棍棒(110番で入手)をザラダンの世界に通じる門に着くまで持ち続けている必要がある(対応する番号も記録しておく必要がある)。



217 … 生ける屍の呪い
「わがねむりを、みだすのは、だれだ!おまえは、じぶんの、したことが、わかつているのか?われらを、ねむりから、さますことは、ザラダン・マーにしか、ゆるされて、いないのだ。いけるしかばねの、ねむりをみだした、むくいを、うけるがよい!」

「我が眠りを乱すのは誰だ!おまえは自分のしたことが分かっているのか?我らを眠りから覚ますことは、ザラダン・マーにしか許されていないのだ。生ける屍の眠りを乱した報いを受けるが良い!」

 生ける屍の呪いが解けるまでの間、原技術点2原体力点5を失う。呪いを解ける場所はコーブンの村の薬屋だが、薬屋に入ると半トロールのグログナル・クロートゥース(グロッグ)に会えなくなる。グロッグに会えないとクリア不可能になるので、実質最後まで呪いは解けないことになる。



241 … ブラッド・オークを倒す前の盲目の老人
「だれだ?なにが、おこつたのだ?ああ、このめくらましの、のろいが、とけてくれれば……」

「誰だ?何が起こったのだ?嗚呼、この目くらましの呪いが解けてくれれば……」

 ブラッド・オークを倒してへ進むとこの盲目の老人の正体が分かる。


337 … 革切れ(ドワーフの遺品のひとつ)
「ヨアの、スワインベアドよ。そなたは、サラモニスの、かんそうちに、おける、さいだいのつみ――ほうかを、おこない、ゆうざいの、はんけつを、うけた。ばつとして、ひとつの、にんむを、めいず。ザラダン・マーの、ちかていこくにいき、“けむり”の、はいつた、フラスコを、とりもどすのだ。ステイトル・ウオードの、“けむり”を。フラスコは、さんぼん、あるので、そのすべてを、このほうていに、もちかえること。フラスコの、ふたは、けつして、とつては、ならない。このにんむを、はたさぬとき、そなたには、のろいが、ふりかかるで、あろう。いのち、あるかぎり、にんむを、すいこうせよ」
「“ちしきの、けむり”#―シルバートンの、あまいろの、たてがみ=#―つばさ、ある、かぶと」

「ヨアのスワインベアドよ。そなたはサラモニスの乾燥地における最大の罪――放火を行い、有罪の判決を受けた。罰として一つの任務を命ず。ザラダン・マーの地下帝国に行き“煙”の入ったフラスコを取り戻すのだ。スティトル・ウォードの“煙”を。フラスコは三本あるのでその全てをこの法廷に持ち帰ること。フラスコのふたは決して取ってはならない。この任務を果たさぬとき、そなたには呪いがふりかかるであろう。命ある限り任務を遂行せよ」
「“知識の煙”#―シルバートンの亜麻色の鬣=#―翼ある兜」

 確かに、乾燥地帯に放火しては、火があっという間に乾燥地全域に拡がるだろう。
 この革切れから、ドワーフの身元が分かる。スワインベアドは罰として任務を帯びていたのだ。だが、それを知るのは“言葉の煙”に言葉を理解する能力をもらってからで、だいぶ後になる。言葉を理解する能力を得る前に出くわす例の三人組(205番)との関係も永遠の謎となる。



364 … ドワーフに話しかけようとしたとき
「おれに、ちかづくな!」

「おれに近づくな!」

 本文にも『「エルナ、タオヂキト!」と妙な言葉を叫んだ。』とある。このあたりが通常のモンスターには共通語が通じない演出と言えるだろう。



369 … 四つの顔
「おまえの、こうどうは、すべて、かんしされていた。なにひとつ、しらされていなかつたにも、かかわらず、よくここまで、これたものだ。しかし、おまえの、おかげで、ふたつの、けむりが、うしなわれて、しまつた。おまえの、しよぶんは、ザラダン・マーさまが、おきめに、なつた。おまえは、このどうくつで、わたしの、めいずるままに、こうどうするのだ。わたしは、ダラマス、おまえの、しゆじんだ。もし、ことばが、わかるなら、きゆうじゆうばんに、すすめ。きゆう、ぜろ、ばんだ。
 まず、イエローストーンきんざんに、いくのだ。さあ、あちらだ。いつも、かんしされていることを、わすれるなよ」

「おまえの行動は全て監視されていた。何一つ知らされていなかったにも関わらずよくここまで来れたものだ。しかし、おまえのおかげで二つの煙が失われてしまった。おまえの処分はザラダン・マー様がお決めになった。おまえはこの洞窟で私の命ずるままに行動するのだ。私はダラマス、おまえの主人だ。もし言葉がわかるなら90番に進め。9、0、番だ。
 まず、イエローストーン金山に行くのだ。さあ、あちらだ。いつも監視されていることを忘れるなよ」

 ダラマスの登場である。ダラマスの言っている二つの煙とは“理性の煙”と“言葉の煙”のことである。ダラマスに対してはハニカスからもらった指輪が有効である。ダラマスを倒した後はの通路に入るのが正しい。



382 … “理性の煙”
「わが、ねむりを、やぶりし、ものよ。なんじ、われと、わがちからを、しらず。しかし、わがぎむを、はたさん。なんじに、りせいの、ひかりを、あたえん。これより、なんじの、うんめいは、なんじが、きりひらくべし。われ、ふたたび、ねむりに、つかん。ほしぼしが、ひとまわりする、そのときまで」

「我が眠りを破りし者よ。汝我と我が力を知らず。しかし、我が義務を果さん。汝に理性の光を与えん。これより汝の運命は汝が切り開くべし。我再び眠りにつかん。星々が一回りするその時まで」

 スティトル・ウォードの煙の一つである“理性の煙”である。これまでの選択肢はサイコロ(本能)任せだったが、ここからは他のゲームブック同様自分で選択できるようになる。但し、まだ言葉は理解できない。「わけのわからない言葉を話す顔に殴りかかった」とあるのが何よりの証拠だろう。



392 … 魔術師の“コントロール”の呪文(DEAD END)
「おまえは、わたしが、めいれいするとおりに、こうどうするのだ。このばけものめ」
「なかまの、したいを、もつて、わたしについてこい!」

「おまえは私が命令する通りに行動するのだ。この化け物め」
「仲間の死体を持って私について来い!」

 魔術師の“コントロール”の呪文が完全に効果を現した場面である。先に魔術師を倒した方が良いというのがここで得られる教訓であろう。



425 … イエローストーン金山の入口(監督の詰所)
(表札)
「イエローストーンきんざん。かんけいしや、いがい、たちいり、きんし」
(ブラック・エルフ)
「そう、かつかするな。いつたい、なんの、ようだ?しごとが、ほしいのなら、あした、きてくれ。きよう、なんにんか、しぬだろうからな」

(表札)
「イエローストーン金山。関係者以外立入禁止」
(ブラックエルフ)
「そうかっかするな。一体何の用だ?仕事が欲しいのなら明日来てくれ。今日何人か死ぬだろうからな」

 このブラック・エルフが吹いた笛により、無限ループの(果てしない)戦いとなる。『王たちの冠』495番の方がまだましな終わり方と言えるだろう。



435 … サイ男
「なにを、しにきたんだ?ことばが、わかるなら、すぐに、ろくじゆうにばんに、いくんだ。ろく、に、ばんだぞ。くちが、きけないのか?さあ、おれを、おこらせないうちに、さつさとかえれ」

「何をしに来たんだ?言葉がわかるならすぐに62番に行くんだ。6、2、番だぞ。口が利けないのか?さあ、俺を怒らせないうちにさっさと帰れ」

 共通語を理解するモンスターにだけが出来るパラグラフジャンプ。62番に進むと、サイ男から色々なことを聞くことが出来る。そして、ねじれ樫の森の訓練所にいる29番兵に会ったら手紙を渡すように依頼されるが、この依頼は引き受けてはならない。訓練場にいる29番兵に会うと「一時的に」真の道に合流するが、ドリーの三姉妹からの必須アイテムをもらっていないため、ダーガ・ウィーズルタングに嘘をつかれたままとなり、結局はデッドエンドブロックに行き着く結果となる。このパラグラフ・ジャンプは、7番及び369番のパラグラフ・ジャンプの練習と思えばよいだろう。



*      *      *


 訳者の安田均氏も、原書のこの部分の翻訳は相当苦労したと思います。共通語が書かれている部分のところどころに読点があるのは、読者が読みやすいようにという安田氏の配慮と言えるでしょう。この共通語の翻訳に時間がかかるのを現実の世界で例えると、外国語を覚えたての人がその言語を話す相手の言葉の意味を理解するのに最初は少し時間がかかることを意味しているというところかも知れません。
 他のFF作品には見られない『モンスター誕生』の優れた点の一つとして、普通のモンスターには「言語を理解できない」工夫がされていることが挙げられるのは疑いようもありません。

2007/04/26


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