モンスター誕生(後篇)
隠し扉を見つける力のあるペンダントを黒人の衛兵に渡して外への鍵を開けてもらった主人公は、ついに地下迷宮を脱出することに成功した。
既に夜になっており、主人公はあたりの景色に圧倒された。見る物全てが新鮮だった。だが、その新鮮さに浸るのもつかの間、主人公は再びいつもの疑問に悩ませられた。自分は一体何者なのか?どこから来たのか?そして何をするべきなのか?
そういった疑問を解くべく、主人公は旅を続ける…。
首尾よく地下迷路を脱出した主人公は、地下で得た手がかりをもとに地上での探索を開始します。ここから先は、他のFFシリーズの舞台とさほど変わりはありません。ただ、外見はどこからどう見ても
人間ではない
ので、それを考慮しながら冒険を進めて行った方が良いでしょう。最初に出会ったドワーフが問答無用で主人公に襲い掛かってきたのも外見で判断されたからという推測も、容易にできるところだと思います。
最初に出てくる墓所から地下への階段を降りるとコーブンの地下迷路に戻されます。「また出ればいいじゃないか」と思ったあなた(笑)!
ペンダントを黒人衛兵に渡してしまった
ことをよもや忘れてはいませんね!ペンダントなしでダラマスの水晶玉のある通路に放り込まれたわけですから、もう隠し扉は見つけられず、
ダラマスの水晶玉に撃ち殺されるか、それともかまどで焼け死ぬか
の究極の選択を強いられることになります。
地上での冒険で重要な人物となるのは、何と言ってもハーフオークの
グログナグ・クロートース
(通称グロッグ)の存在です。彼は、主人公に助けてもらった恩返しかどうかは分かりませんが、とりあえず主人公と旅をすることになります。彼は主人公ほど強くはありません(
技術点6・体力点6
)が、その分知識や知恵があるので心強い存在です。グロッグが同行中のときのパラグラフ・ジャンプこそがまさにこの冒険の鍵なので、これまでよりも方針が立つはずです。彼の助言には耳を傾けた方が賢明でしょう。占い師からの情報も吟味することです。そして、
グロッグがいないと
デッドエンド
になるパラグラフジャンプも出て来ます
。これは
見落としやすい
ので、注意が必要です。
ロミーナ三姉妹からの任務を達成すると、彼女達から主人公について聞くことができます。そして、重要なアイテムをもらえるのですが、このアイテムを使うときの説明が正確さに欠けています。翻訳の問題なのか、それとも原著そのものがこのような不正確な表記なのかはわかりませんが、いずれにせよこのパラグラフ・ジャンプの説明では不十分です。「
ダーガに出会った番号から
」ではなく「
ダーガに出会って情報を聞き出した番号から
」と翻訳するべきです。オフィディオタウルスがダーガの場所に連れて行き、なおかつダーガは嘘つきという情報が与えられるのでおおよその推測はつくと思いますが、それでも141番のような書き方では山賊を倒した後にパラグラフ・ジャンプをしてしまう人が出たとしても不思議ではありません。
…実は、地下で手に入れたパラグラフ・ジャンプで“罠”のパラグラフジャンプが1つだけあります。これは『
凶兆の九星座
』のように故意的なものか、それとも偶然“罠”となってしまったのか分かりませんが、ともかく“罠”なのです。ねじれ樫の森の訓練所にいるサイ男
29番兵
です。ダーガを知っているのはドリーの三姉妹だけではなく、29番も実は知っています。しかし、29番はドリーの三姉妹の持つアイテムを持ってはおらず、結局はダーガに真実を吐かせることが出来なくなります。つまり、25巻『ナイトメアキャッスル』風に言うと「単にきたるべきとき(デッドエンド)を少しばかり引き延ばしたに過ぎない」のです。せめて、29番とグロッグを友達ということにして、それでダーガに真実を吐かせる別の方法などを講じて欲しかったところでもありますが、“罠”のパラグラフジャンプも悪くはない(?)でしょう
(『凶兆の九星座』に比べたらマシか…)
。
それから、地上に出ても
意地の悪いパラグラフ構造(
直接的にはデッドエンドとはなっていないものの、同じパラグラフを延々と繰り返し、
体力点
が尽きるのを待つのみという構造
)
があります。最後に出てくる飛行船ガレーキープ内の青い剣の部屋にいる、骸骨医師キンメルボーンです。キンメルボーンに騙されて心臓を摘出された(228)ならまだ幸せな方です。キンメルボーンと戦った場合、いくら倒してもキンメルボーンは決して滅びず、永遠の戦い(178→407→178…)を続けることになります。ダーガの謎々の答えは、我々の身近にあってしかも生活に欠かせないものですから、答えはそう難しくはないと思います。まして
炎の部屋
を選んだあなた!…レッドアイに両目でも焼かれて来い(JHブレナン風に)。
最後の戦闘はゴブリン二匹なのでそう強い敵ではありません。それよりも、ガレーキープに潜り込んだ後が重要なのです。どの部屋に入るか、それからコ−ブンの地下迷路で得た情報や経験そしてアイテム、これらのうち1つでも欠けてしまった場合はもちろんクリアできません。「ここまで来て…」と嘆く気持ちも分かりますが、また地下迷宮からプレイし直した方が良いでしょう(ちなみに、私は最後のザラダンとの戦いは一発でクリアしましたが)。英ジャクソンは
ボスと戦うだけが最後の関門を通過する方法ではない
ということをこの作品で示しました。なるほど、これは確かにその通りです。英ジャクソンは、自分の最後の作品らしくラストのザラダンとの戦いに一工夫を凝らしたかったのかも知れませんね。
ところでこの冒険、英ジャクソンの意図する“HAPPY END”は無論最後の460番だけですが、私はその他にも「これはこれでいいのではないのか」というエンディングもあると思います。以下、それを列挙してみます。
43:ザラダン・マーの衛兵となることに目的を見出す。
74:ザラダン・マーの副官となり、世界征服を企てる。
196,294:ドリーの村に住んでいる足の悪い老婆のしもべとして幸せに暮らす。
123番にもあるように、
「しゃいすーてき
(最終的)
な決断はしゅべて
(全て)
おまえが下しゃねば
(下さねば)
ならない」
のです。どういう経緯をたどってどういう結末を選ぶかは、全て読者次第ということなのかもしれませんね。私はこの冒険をしていて、私自身「自分は何者なのか、どこから来たのか、そして何をするべきなのか」を考えるようになりました。この本は哲学書としても使えると思います(本当です!)。
長くなりましたが、FFシリーズ24巻『モンスター誕生』は「流石はゲームブック界の巨擘英スティーブ・ジャクソン最後の作品」というだけの、物語としてもゲームとしても非常に内容の濃い非常に優れた作品だと思います(「その割には欠点を随分取り上げていたじゃないか」と思われた方、まあそれはそれとして…)。この本の紹介文にあるように、文字通り“
生きる目的
”を見いだすゲームブックです。
――そう、生きる目的を見いだすのが大切なんですよね――
前篇へ
全般へ
2005/06/30
直前のページに戻る
トップに戻る
(C)批判屋 管理人の許可なく本ホームページの内容を転載及び複写することを禁じます。