龍の瞳


 冒険者の例に漏れず、主人公は常に金や宝石、秘宝の噂に耳を傾けてきた。不幸なことに主人公のツキは落ちる一方で、食事と宿に充(あ)てるわずかな銅貨を稼ぐのがやっとという有様だった。主人公はツキの変わり目を切に願っていた。
 ある日の夜、相部屋に泊まっている主人公の反対側のベッドに、一人の見知らぬ男が入ってきた。主人公はその男に話しかけ、男の数々の冒険の話を聞くことになった。男は、この5年の間、地下迷宮の奥深くに隠されているという龍の黄金像を追い求めていた。その黄金像の2つの眼の部分には、「龍の瞳」と呼ばれる瞳の形をしたエメラルドの宝石を嵌め込まれているという。男は首尾良く龍の黄金像のある小部屋にたどり着いたが、「龍の瞳」は像からはずされていることを知り、愕然とした。「龍の瞳」を嵌め込まれていない黄金像に触れることは即死を意味すると聞いたことがあったからだ。その話が本当かどうかを確信できなかったが、自分自身を実験台にする気には到底なれなかった。男は龍の黄金像に指1本触れることなく小部屋を去り、「龍の瞳」を見つけるために地下迷宮の探索を始めた。しかし、迷宮内にいるトロールに襲われ、そのとき男は「命あっての物種」と思い、探索を断念したという。主人公は男の探索を引き継ごうと言った。無事に龍の黄金像を持ち帰った場合は、その売却料金を2人で山分けしようと提案した。すると、男は主人公に小瓶を差し出した――瓶の中身は遅効性の毒で、飲んでから15日以内に解毒剤を求めて男のもとに戻らないと主人公を死に至らしめるという。主人公は瓶を引ったくり、冷ややかに男を見つめながら、その「毒薬」を一口に飲み干した…。
 翌朝、主人公は男が迷宮内で見つけた「龍の瞳」の1個を受け取り、地下迷宮につながる樵小屋へ出発した。
 樵小屋へ向かう途中、主人公は様々な疑問を思い巡らせていた。あの男の言っていた「龍の黄金像」とやらは本当にあるのだろうか?主人公の飲んだ瓶の中身は本当に遅効性の毒なのだろうか?今は、時が来ればそれらの答えが明かされるだろうとしか言いようがなかった……。


 『龍の瞳(原題“Eye of the Dragon”)』はウィザードブックスより刊行されたFFシリーズ第21巻目の未邦訳作品です。著者はイアン・リビングストン氏です。私がプレイしたのは社会思想新社というゲームサークルの同人誌で、訳者は浅田豊健氏です。
 『龍の瞳』という本のタイトルは、FF50巻『火吹山ふたたび』の18番にも出てきています。FF50巻刊行当時は、この巻でFFシリーズが完結する予定だったために、こういった「総集編」めいた演出があったのかもしれません。そして、FFシリーズ延長という想定外のことが起こり、FF50巻の18番が『龍の瞳』復刻版のきっかけとなり、ついには『龍の瞳』の復刻が現実のものになったとも言われています。
 本書は、もともと1982年に刊行されたリビングストン著『Dicing with Dragons』というTRPG(テーブルトークRPG)の入門書の中に収録されていた作品でした。項目数も134項目とかなり短めで、能力値や戦闘システムなども今のFFシリーズのそれとはだいぶ異なっていました。そして、約20年の月日を経て、項目数も従来のFFシリーズと同じく400項目余りに構成し直されたリメイク版が2005年にウィザードブックスから刊行されました。
 ここでは、1982年版(以下旧版)と2005年版(以下新版)のそれぞれの作品について見ていきたいと思います。

『龍の瞳』旧版(1982年)
『龍の瞳』新版(2005年)

2009/10/05


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