ウルフヘッドシリーズ


 ヘルドア湿原の奥地に隠れ棲み、周辺諸国から魔王と恐れられている妖術師グリーディガッドは、この半世紀のあいだ、太古の邪神バアルを復活させる研究にいそしんでいた。彼は、近隣の村々から36人の美しい娘をさらい、その生き血によってバアルが住居としていた天空に浮かぶ城『膏血城』と、『4つのしもべ』と呼ばれる邪神配下の魔獣どもを、ヘルドア湿原の泥濘の底から蘇らせることに成功した。だが、邪神そのものを復活させるには、更に大勢の幼子の生き血が必要だった。そこで、グリーディガッドはヘルドア湿原のほとりの小国サングールを襲うことを企てた……

 月の光が煌々と照らし出されている晩、一人の娘がヘルドア湿原をひた走りに走っていた。この湿原の先にあるジュジュの森――分別ある者ならばその名を口に出すことすら憚(はばか)るこの森には、恐ろしい魔物が棲んでいるとの噂が流れている。だが、この娘にとっては、追っ手に捕まるよりは、まだジュジュの森に巣くう魔物に食い殺された方がましという考えがあった。
 この娘は、サングール城の王女スミアである。サングール城は、ほんの二週間前までは栄えていた。しかし、魔王グリーディガッドにより、サングール地方に住む5歳未満の幼児100人が誘拐されてしまい、更にサングールの住民全員が石像にされてしまった。グリーディガッドの本拠地である膏血城の魔物アイボールの光線が石化能力を持っていたのだった。そしてスミアだけがグリーディガッドへの人身御供として生きたまま膏血城へ護送されることになったのである。今宵、スミアは酔いつぶれたゴブリンの兵士たちの隙を突いて逃走することに成功した。
 やがて、スミアはジュジュの森のとば口に着いた。追っ手の声はいつの間にか聞こえなくなっていた。スミアはジュジュの森に入っていく…。
 スミアが森に入ってしばらくすると、岩場に出た。その岩場の中央にはどれほど深いか見当もつかぬほどの暗い穴が開いている。と、次の瞬間、その穴からにわかに青白い炎が吹き上がった。その炎は次第に勢いを増し、やがてその炎から一匹の巨大な魔物が姿を現した。その魔物の正体は、体長5〜6メートル、体重は優に3トンを超えるであろう巨大な灰色狼であった。
 実は、この岩場の穴はジュジュの森の中でも最も危険な場所と言われている底なしの穴『ヘルドア(地獄の扉)』で、今しがた姿を現した巨大な狼は、後に“ウルフヘッド”と呼ばれる、人間と狼の二つの姿を持つファーストボーン(大地の総領)という種族である。
 このウルフヘッドがスミアそしてサングールの運命を大きく左右することは、まだ誰も知らない…。

 『ウルフヘッドシリーズ』は、『ネバーランドのリンゴ』『ニフルハイムのユリ』に次ぐ林友彦氏の作品です。林作品の幻想的な世界に加えて、挿絵の担当者は幻想的な絵を醸す米田仁士氏という素晴らしい取り合わせです。この『ウルフヘッドシリーズ』は、林作品初の常体(丁寧語ではない)表記のゲームブックです。敬体(丁寧語)で書かれている『ネバーランドシリーズ』の雰囲気とはだいぶ異なります。
 雰囲気だけではなく、ルール面でもだいぶ異なります。『ネバーランドシリーズ』の各能力値(戦力ポイント、体力ポイント、経験ポイントなど)や戦闘・魔法のシステムは比較的単純でした。しかし、『ウルフヘッドシリーズ』は、狼と人間の姿の使い分けや、武器・鎧・盾の耐荷重量とパワーとの関係、様々な仲間(フェロウ・トラベラーズ)など、かなり複雑なルールになっています。
 経験ポイントの使い方も複雑になっています。『ネバーランドシリーズ』では戦力ポイントの上昇にのみ使われましたが、『ウルフヘッドシリーズ』では魔法を使うときの魔力ポイントとしても用いられます(ただし経験ポイントが7以上ないと魔法を使用できませんが)。しかし、個人的にはこの経験ポイントの増加が結構厳しいと思います。というのも、能力値を1ポイント高く上げて行くごとにそれまでの倍の経験ポイントを稼がねばならず、しかも「この番地にはじめて来た場合」しか経験ポイントは加算できません。となると、能力値を上げるのは到底望めないことになります。せめて、二度目以降でも経験ポイントを増やせるようにして欲しかったと思います。尤も、各能力値とも10以上になるとほとんどの敵に勝ってしまいますので、そこまで上げる必要がないという見方もありますが…。因みにこの経験ポイントですが、無限に増やせる“裏技"があるのです(これについては研究室にて…)。
 『ネバーランドシリーズ』のエスメレーに相当するスミア王女が、この冒険にとって最も――主人公の命よりも大切――な存在です。彼女が死んでしまうともはやこれまで、冒険を続ける価値が全て失われ、その時点でゲームオーバーとなります。
 ネバーランドシリーズにも出て来た「双方向型」の交通整理世界一を誇るキーNo.管理も健在で、今回は上下巻ともに16種類、合わせて31種類です(なぜ32種類ではないのでしょうか。詳細は下巻にて)。
 上下巻合計1000項目のウルフヘッドシリーズは飽きさせない魅力が満載です。
 それでは、実際に上下巻を見ていくことにしましょう。

『ウルフヘッドの誕生』
『ウルフヘッドの逆襲』

2007/12/15


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