奈落の帝王(プレイ日記)


【第12回】 男爵夫人の葬儀

 技術点 … 10/10 ※戦闘時、剣を用いている場合のみ+1
 体力点 … 15/18
 運点 … 10/10
 時間表 … 11
 特筆点 … 《ハエ刺し》会得
 金貨 … 4
 食料 … 5
 所持品 … ファングセイン鋼の剣(戦闘の際6ゾロが出れば致命傷)、シージュのにおい玉、謎かけ盗賊の瓶、メマの吹き矢筒、グルシュの瓶、アラールの瓶、ザザズの瓶、バロロの丸盾(戦闘時、剣を用いている場合のみ技術点+1)、紋章のついたロケット

〔276〜〕
 翌朝、召使いたちが宮殿の中庭を慌しく走る様子をのぞく。彼らは後ろに壇のついた低い舞台のようなものを立てた。まもなく、たくさんの聖職者の手により棺が運ばれ、大変な注意が払われて低い舞台の上に置かれた。棺はキャロリーナ男爵夫人のもので、彼女の臣民が最後の別れを告げられるように遺体を外に運び出したのだろう。マッドヘリオス、イクチャンのダンヤザード、アシア・アルブドール、沈黙のシージュが全員姿を見せ、棺台を見下ろす壇の上に座った。やがて、衛兵が門を開け、街の人々が恭(うやうや)しく一列になって入ってきた。宮殿の中庭が人で埋まると、私は馬小屋から出て群集に紛れ込み、崩御した支配者の手にキスをするのを待つ市民の、長い列に加わった。
 私の前で二人の市民がささやき声で口論しているのが、聞くともなしに聞こえてくる。二人のうちの妻が言う。
「あの方のご自慢の白鳥を盗ったおまえさんにゃ、キスはさせないよ!噂に聞いたのさ。罪人がキスすると、肌が夜みたいに真っ黒になっちまうっていうじゃないか」
「黙れ。お前はいつも話を取り違えるんだな。殺人犯が、殺した相手の唇にキスしたら焼けた羊皮紙みたいに真っ黒になるっていうんだ。俺は何も恐れちゃいねえ――今となっちゃあ、あの方だって白鳥を恋しがってはおられめえ。」
 夫が言い返す。やがて二人はキャロリーナの亡骸に近づくと、恭しく頭を下げた。
 キャロリーナはすっかり正装して横たわり、儀仗(ぎじょう)の剣を右手に持ち、左手は市民がキスできるようにクッションの上に乗せてある。私の番が来て、私は自分自身を任務に遣わせた女性の遺体を見下ろした。(キャロリーナ男爵夫人…こんなことになるなんて…ですが、敵の正体はわかりました…)身を屈(かが)め、キャロリーナの手にキスをしようとすると、ルーサーと目が合った。こいつ…。ルーサーは貴族達の壇のすぐ脇に立って、落ちつかなげに剣の柄頭をいじっている。今こそルーサーの悪事を白日の下に晒すときが来た。今こそ紋章のついたロケットを掲げるときだ。
 私はロケットを皮袋から出し、みんなに見えるように頭上に掲げる。私の近くにいた市民が恐れをなして後ずさった。私はラメデスが殺された経緯を話そうとすると、前の壇から金切り声があがった。
「けしからぬ!泥棒を捕らえよ!!」
 聞き慣れない声だった…。金切り声の主は、なんと沈黙のシージュだった。いつも小さい声しか出さないだけに、今のシージュは雰囲気がまるで違う。シージュは体を怒りに震わせながら、私を指差していた。おいおい、私に向かって泥棒だと?それは聞き捨てならないな。
 マッドヘリオスは口を開けてロケットを見つめている。ダンヤザードが叫ぶ。
「キャロリーナが死の床で言っていた秘宝だわ――《ランゴールの運命》…」
「衛兵!ルーサー!あの裏切者を殺しておしまい!」
 シージュが横柄にダンヤザードの言葉を遮る。裏切者だと?冗談じゃない。そうこうしているうちに衛兵がこちらに向かってくる。私は無意識のうちにロケットを開けようとしていた
 昨夜はどんなに力を入れても開かなかったロケットだったが、そのロケットはいとも簡単に開いた。やはり私の判断は正しかったのだ。ロケットが開くと衛兵達は怯んで私から離れた。貴族達は困惑と驚きの入り混じった顔をして中を見つめている。私はロケットの中を覗き込んだ……これはラメデスではないか。ロケットの中は、ラメデスの色あせた絵が、気味悪いほどの正確さで描かれていた。絵は古く、ひび割れているが、何世紀も前に描かれたとしても、この絵は昨夜見たラメデスの姿をそっくり再現していた。アシア・アルブドールがさっと立ち上がり、みんなに静まるよう合図をする。
「《ランゴールの運命》は真実を伝える。カラメールの新しい男爵はラメデスと決まった!」
 辺りが静寂に包まれる。今がチャンスだ。オホン!私は咳払いをして、アルブドールの注意を引きつける。
「アルブドール様。《ランゴールの運命》を持っている者の権限として、私の話を聞いてくれませんか?」
「わかりました、<批判屋>殿。何なりと言いなさい。」
「このロケットは昨夜ラメデスから私に託されたものです。ラメデスは昨夜、多くの衛兵の手にかかって死にました。」
 途端に、市民や貴族たちのあいだからざわめきが起こる。
「静粛に。今は<批判屋>殿の話を聞くときです。」
 アルブドールが民衆を黙らせた。私はアルブドールに一瞥をして言葉を続けた。
「そして、ラメデスを殺した裏切者はこの中にいます。…おい、なにこっそり逃げようとしているんだよ、ルーサー!」
 私はルーサーの方を向いた。ルーサーはこの葬儀の場から抜け出そうとしていたが、私に声をかけられて全身が硬直したようだった。
「やい、ルーサー。てめえ、昨日はよくも俺をたわけ呼ばわりしてくれたな。全く、犯人は自分に当てはまる言葉で他人を非難するものだ。この裏切者め!」
「いや、私は何も知らない。ダンヤザード様、こいつはまたもでたらめな作り話を……」
「うるせえ!!」
 私はルーサーを一喝した。ルーサーはあまりの剣幕に黙りこくってしまった。
「私は昨夜ラメデスからこのロケットを預かったときにふたを開けようとした。だが、ふたはどうしても開かなかった。そのふたが今は難なく開いた。つまり、このロケットは正当な場でないと開かないんだよ。そして、それを開けられるのは真実を伝えようとしている者のみ。どういうことかわかるか、ルーサー?もし、私の言っていることが本当にでたらめな作り話だとしたら、このロケットに込められている力により、私は到底無事では済まされないであろう。だが、今の私は逆にロケットの力で護られている。お前がどうでも私をたわけ呼ばわりするんだったら、このロケットに裁きを託してもいい。どうだ、ルーサー!」
 私はロケットをルーサーに突きつける。ルーサーがロケットの力に畏怖の念を抱いていることは火を見るより明らかだった。
「それから、お前の仲間の看守はクワグラントの穴蔵でくたばっているよ。嘘だと思うなら、中庭の扉から続いている地下室に行ってみな。獅子身中の蟲とはお前のことだ!」
 ルーサーががっくりと膝をつく。衛兵がルーサーを取り囲み、引き立てられていく。恐らく行き先はクワグラントの穴蔵だろう。嘘偽りでごまかし通してきた輩にはふさわしい末路だ。
「待ってくれ!俺は無実だ!清廉潔白だ〜っ!」
 ルーサーの声が小さくなっていった…。そして、私は四人の貴族の方を向いた。
「たった今、裏切者が判明しました。しかし、ルーサーはラメデス殺しの首謀者であって、キャロリーナ男爵夫人を殺したわけではありません。カラメールの真の裏切者は他にいます。キャロリーナ夫人を護る兵士たちは、ルーサーの息がかかっている者を除いては忠誠を誓っています。ですから、兵士の裏切りは考えにくいと思われます。そうすると、残るはキャロリーナ夫人と親しい間柄の誰かということになります。」
 市民のあいだからざわめきが聞こえる。そのざわめきの中、私は昨夜城で探索したことを思い出した。昨夜主塔で私がのぞいた窓は3つ。シ−ジュは瞑想にふけっていた。ダンヤザードはカラメールを去る準備をしていた。アルブドールはキャロリーナ夫人への問いかけをしていた。私がのぞけなかった残る一つの窓は、恐らくマッドヘリオスの部屋だろう。そして、クワグラントと戦うはめになり、ラメデスと会った……。
「キャロリーナ様を殺したのが他にいるってよ。」
「誰なんだ?」
「わからねえ。だども、キャロリーナ様を殺せるほどの力を持っているだぁよぉ。」
「んだ。ちげえねぇ。」
 私が城での探索行を思い出しているうちに、ざわめきは喧騒に変わりつつある。まずい。このままでは市民のあいだで暴動が起きてしまう。そうなれば、裏切者の思うつぼだ。キャロリーナ男爵夫人の葬儀が台なしになるばかりか、カラメールの真の裏切者が永遠の謎となってしまうことは必至である。そのとき、私は、前に並んでいた夫婦の話を思い出した。――殺人犯が、殺した相手の唇にキスしたら焼けた羊皮紙みたいに真っ黒になるっていうんだ。――そうだ、ここは四人のうちの誰かにキャロリーナ男爵夫人の唇にキスをしてもらおう。これは危険な賭けだ。何しろ、カラメールの五大権力者を公然と非難することになるのだから。だが、殺人犯を明らかにするにはこれしかない。
 私はロケットを掲げ、市民を静まらせた。
「皆さん、静粛に。これから、私<批判屋>はキャロリーナ男爵夫人に最後の別れを告げます。」
 そう言って、私はキャロリーナ男爵夫人の唇にキスをした。無論、彼女の唇に変化はなかった。
「これから私に指名された方は、私と同じことをキャロリーナ男爵夫人になさってください。」
 ちょっとおかしな注文だが、拒否することはないだろう――死んだ支配者に最後の別れを告げる印になるのだから。群集が待ち侘びて、静まる。さて、誰にキスするように言おうか?チャンスは一度きりだ。相手を間違えたら、私は無礼討ちに遭うだろう。だが、私は確信していた。昨夜の探索行、そしてこれまでの葬儀の経緯によって…。

〔STATUS(現在の値/原点)
 ※ 変化があったものは太い赤字
 技術点 … 10/10 ※戦闘時、剣を用いている場合のみ+1
 体力点 … 15/18
 運点 … 10/10
 時間表 … 11
 特筆点 … 《ハエ刺し》会得
 金貨 … 4
 食料 … 5
 所持品 … ファングセイン鋼の剣(戦闘の際6ゾロが出れば致命傷)、シージュのにおい玉、謎かけ盗賊の瓶、メマの吹き矢筒、グルシュの瓶、アラールの瓶、ザザズの瓶、バロロの丸盾(戦闘時、剣を用いている場合のみ技術点+1)、紋章のついたロケット
 (Save Number:334)

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2013/09/06


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