奈落の帝王(プレイ日記)


【第8回】 恩師との再会

〔STATUS(現在の値/原点)
 技術点 … 10/10
 体力点 … 17/18
 運点 … 10/10
 時間表 … 7
 特筆点 … なし
 金貨 … 5
 食料 … 5
 所持品 … ファングセイン鋼の剣(戦闘の際6ゾロが出れば致命傷)、シージュのにおい玉、謎かけ盗賊の瓶、メマの吹き矢筒、グルシュの瓶、アラールの瓶、ザザズの瓶

〔111〜〕
 今の私は何者かに後ろから首筋に武器を突きつけられているという危険な状態であるが、なぜか心のどこかで安心感を得ていた。後ろから聞こえる声はどこかで聞いたことがあるが、未だ思い出せない。相手の武器を奪いさえすれば、後ろを振り向くことができる。そうすれば、声の主を知ることができるだろう。膝をつき、くるりと向きを変えて、左手で襲撃者の武器をつかみ、右手で襲撃者の体を押す。果たして、この試みは成功するか?ここで技術点チェックDD<技術点(=10)で成功する。DD=5+4=9(!)。危ない危ない…。ギリギリセーフだった。
 この方法はうまくいった。相手の武器を持つ手をしっかりつかみ、開いている方の手で顎にパンチを繰り出す。相手はバランスを失った。その隙を逃がさず、手首を器用に返してナイフを落とさせ、相手を地面に転がす。立場は完全に逆転した。私は相手にファングセイン鋼の剣を突きつける。「お前は誰だ?一体、なぜ私を襲ったん……あっ!!」
 私は、驚きのあまりその場に立ち尽くしてしまった。今私がファングセイン鋼の剣を突きつけている相手こそが、何を隠そう、私に剣術の師匠バロロだからだ。
「よう、ALADDIN。いや、この世界では<批判屋>だったかな?相変わらず、元気そうだな。私の腕も焼きが回ったようだな。さもなくば、今頃お前は私の夕飯の皿の上だ。」
「バロロ先生。なぜ、こんなことを…?」
「“先生”はやめろと言ったはずなんだが、…まあいい。今夜限りは許そう。なに、場合によってはやり方を変えなければならないのさ」
 私は慌ててファングセイン鋼の剣を引っ込め、鞘に戻す。バロロは立ち上がる。そのとき、バロロの左足が木の義足になっていることに気づいた。
「その左足はどうしたんですか…?」
「龍と取り引きしてやったのよ」
 バロロは私を冷やかすように言った。
 バロロは自分の家に私を招いてくれた。…その昔、バロロは政情不安な北の地で、私の剣の師匠だった。私は知識や理論を覚えるのは得意だったが、実践があまり得意ではなかった。しかし、バロロはそんな覚えの悪い私を最後まで見捨てずに、今の私に剣の技術を教えてくれた。以前、一度自暴自棄になったことがあったが、バロロの言葉により私は自分の道を踏み外さずに済んだ。そのときの言葉ははっきりと覚えている。「願うことは叶うこと――少しでも志(こころざし)を」今考えると、私の価値観はバロロによるものがかなり大きい。メマの師匠エンシメシスと共通している点は、普段は優しいが、たまに厳しい師匠だったということだ。このファングセイン鋼の剣は、バロロから受け継いだものだった。
 私が過去の冒険を順を追って話す間、かつての持ち主はファングセイン鋼の剣を取り上げ、手の中でいとおしそうに揺らし、その重さとバランスを確かめていた。「手入れは十分に行なっているようだな、ALADDIN。前よりも輝きが増しているぞ。」
 そのとき、部屋の隅でなにやらものをひっかくような音がした。私は立ち上がって調べようとするが、バロロの反応の方が早かった。バロロは椅子に座ったまま体をひねり、手にとっていたファングセイン鋼の剣を投げつけたのだ。「キィ!」私が剣を取りに行くと、剣はネズミを刺し貫いていた。何だ、今のバロロの動きは…。そんな動きは見たことがない。
 バロロが含み笑いをする。
「実は、お前にまだ教えていない技が一つだけある。この技は一撃必殺の切り札だが、誰にでも使いこなせるわけではない。剣をお前に授けたとき、まだお前にはこの技は教えられなかった。だが、先ほどの私の襲撃をかわしたお前の身のこなしは見事なものだ。今や、お前はこの技を会得するのに必要な資格を得た。今のお前ならばこの技を使いこなせるであろう。夜明けまでにまだ時間はある。この技をお前が会得するのには夜明けまでの時間で十分だ。」
 無論、最後の秘術を伝授してもらうことにする。
 久しぶりのバロロ先生の実習。バロロ先生は、私の全身のツボを刺激した。「な、何を…?」「心配するな、お前の全身から力を抜いただけだ。実は私は按摩師の免許も取得していてな…」どこまで謎なんだ、この人は?
「これができれば、あとはもう教えることはない。その状態で、剣をこの的に当ててみろ。」
 こんなふにゃふにゃの状態で剣を投げて的に当たるわけがない。ましてその的は振り子のように動いているのだ。それでも剣を投げてみたが、思った通り剣はあさっての方向に飛び、何とバロロの義足に命中してしまった!さすがのバロロも度肝を抜かれたようだ。私はバロロに叱られるかと思ったが、予想に反してバロロは大声を挙げて笑い出した。
「お前の不器用さは相変わらずだなあ。まあよい。最初はみんなうまくいかないものだ。教える側が最初からできて当たり前と思うから、師弟の信頼関係が崩れていくのだ。最近のジパングではそういった体制が見直されているようだが、昔のジパングはただの精神論だけで、何の理論もなかったものだ。」
 バロロは投げ方をよく見ているように言った。バロロも私と同じくふにゃふにゃの状態だったが、見事に的に命中した。
「ALADDINよ、なぜ体の力を完全に抜くかというと、最後の最後まで軌道の修正が効くからだ。力を入れている状態では、最後の最後で敵の不意の行動に対応できなくなる。さっきのネズミがその良い例だ。」
 ――そう、バロロはただの剣術指南役ではなく、理論の持ち主でもあったのだ。だから、わかりやすい。しかし、かつてのバロロに弟子入りした者たちは皆バロロの理論についていくことができず、挫折したという。ある意味私はバロロの最初で最後の弟子と言われている。
 訓練は夜明けまで続いた。「だいぶうまくなったぞ、ALADDIN。お前は上達まで常人の3倍かかっているが、一旦上達すると常人の9倍も伸びている。最初にできなかった者ほど上達した後は爆発的に伸びるものよ。」
 少し変わっているが、技術的にも人間的にも優れているバロロに教わったからこそ、今の私があるのだ。まさに恩師と呼ぶにふさわしい人物である。
「私が教えられるのはここまでだ。実践を多く積めば、命中精度は更に上がる。」
「はい。ありがとうございました。バロロ先生…」
「だから、“先生”はよせ。もう私はお前の先生ではない。あとはお前自身で考えろ。」
 バロロは、昔から“先生”と呼ばれるのがあまり好きではないのだが、私はつい“先生”と呼んでしまう。
「ALADDIN、お前が今夜会得した技について注意することが2つある。まず1つ、当然のことながらこの技を使うとお前は剣がなくなる。だから、敵をしとめられることがはっきりしていなければならない。もう1つ、さっきも言ったようにこの技を使うときは全身の力を完全に抜く必要がある。だから、戦いの最中に使うことができない。」
「ありがとうございます。そう言えば、バロロ先…いや、バロロさん。この技の名前をまだ聞いていませんでした。この技は一体何と言うのでしょうか。」
「おお、そうだったな。よおし、心して聞けよ。」
 私は耳を傾ける。
「……《ハエ刺し》だ。」
「………は…え…さ…し……………ですか?」
「そうだ。《ハエ刺し》だ。カッコイイ名前だろう。小さくて動きの素早い蠅ですら剣で刺し抜く。その名も《ハエ刺し》だ。」
「………バロロさんらしい理論的な技の名前ですね。(もう少しカッコイイ名前かと思っていたのに)」
 そうこうしているうちに、東の空が白んできた。目をかすませ、手足をこわばらせて夜明けを迎える。
 カラメールは馬で一日に満たない距離にあるので、街の人たちのことを思って、自分の体の痛みを忘れ、馬を取りに行く。
「馬の宿泊料として金貨1枚いただきます。」
 馬丁に支払いをすませ、馬を見に行くと、馬はじゅうぶんに餌をもらい、出発するのを待ち構えていた。
「へい、まいどあり〜」
 別れの挨拶をするため、バロロの家に戻ると、バロロが油で汚れたぼろ布にくるまれた包みをくれた。開けてみると、それは小さな丸盾(バックラー)だった。
「お前の剣にぴったりだろう。」バロロが言う。バロロの丸盾を剣と一緒に使うと完璧にバランスが取れるので、戦闘のとき技術点1点増やすことができる(管理人注:このボーナスは剣を用いている場合のみ有効で、原技術点を超えてもよいものとします)。
 このような素晴らしい贈り物に対しては、何かお礼をしたいのだが……今の私の所持品は重要アイテムと思しきものばかりで、バロロへの贈り物になるようなものは見当たらない。かと言って、金貨では逆にバロロを怒らせるだろう。「他人の好意は金で買えるものではない。」と。
「バロロさん、すみません。素晴らしい技を教えてもらった上にこんな素晴らしい贈り物をしてくださったというのに、私は何もお返しできませんでした。」
「何、いいってことよ。お前が今の任務を成功するのにその丸盾が役に立てば、それが何よりのお前からのお返しだ。」
「バロロさん……」
 エンシメシスを慕うメマの気持ちは、今の私ならば分かる。バロロのためにも絶対にこの任務を成功してやる。新たな決意のもと、かつての恩師に別れを告げ、出発した(《時間表》のますにチェック)。
「気をつけて行けよー!」
 バロロは私の姿が見えなくなるまで見送った。
(ALADDINよ、今度お前と会うときは、私はもう剣ではお前に勝てないだろう。それどころか、今度お前と会えるかどうかもわからない…)
 バロロがそんなことを思っていることなど、無論私は知る由もない。
 やがて、カラメールの裕福な貴族の所有地である、よく耕された土地を抜ける。漸く、前方に旅人をあたたかく迎えるランゴール塔が見えてきた(《時間表》のますにチェック)。
 早く、キャロリーナ男爵夫人に敵の正体を知らせなくては。

〔STATUS(現在の値/原点)
 ※ 変化があったものは太い赤字
 技術点 … 10/10 ※戦闘時、剣を用いている場合のみ+1
 体力点 … 17/18
 運点 … 10/10
 時間表 … 
 特筆点 … 《ハエ刺し》会得
 金貨 … 
 食料 … 5
 所持品 … ファングセイン鋼の剣(戦闘の際6ゾロが出れば致命傷)、シージュのにおい玉、謎かけ盗賊の瓶、メマの吹き矢筒、グルシュの瓶、アラールの瓶、ザザズの瓶、バロロの丸盾(戦闘時、剣を用いている場合のみ技術点+1)
 (Save Number:290→67)

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2013/08/10
2013/08/15一部修正


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