奈落の帝王(プレイ日記)


【第5回】 少女メマ

〔STATUS(現在の値/原点)
 技術点 … 10/10
 体力点 … 17/18
 運点 … 10/10
 時間表 … 4
 特筆点 … なし
 金貨 … 5
 食料 … 5
 所持品 … ファングセイン鋼の剣(戦闘の際6ゾロが出れば致命傷)、シージュのにおい玉、謎かけ盗賊の瓶

〔128〜〕
 それにしても、なぜ村に人がいないのだろう。手がかりはないのか手がかりは。
 今度入った家はすぐ、魔法使いか、薬草医のものだとわかった。香りのよい乾燥した薬草、神秘的な書物や巻き物、色のついた液体の入った瓶が、右手のすみの机の上に乱雑に置いてある。左側にはルーン文字の彫られたテーブルがあり、その上には食べかけのハムの塊が置いてあった。
 向かいの壁には、戸棚の上の高い棚から紐をつるされて、操り人形が並んでいるのが見えた。その操り人形のほうに近づいていくと、左足が何かを踏みつけて、足がすべった。見ると、それはねばねばした緑色の足跡だった。足跡が、目の前の戸棚とテーブルの間を何度も行ったり来たりしている。それはまるで一本の線のようだった。戸棚には、1本の矢の記号を意味するルーン文字がぞんざいに塗りつけられていた。この戸棚の中には何物かが潜んでいる。しかし、その正体は何だろう。さっきの卑劣漢みたいな化け物だったら嫌だなあ。
 ここで推理してみる。テーブルの上にあるものと言えば食べかけのハムだけで、テーブル以外のところに緑色の足跡は一切ない。ということは、戸棚の中の生き物は時折このハムを食べに戸棚から出て、ハムを食べたらまた戸棚に戻ることを繰り返していると考えられる。あるいは、ハムを切り取って戸棚に持ち込み、戸棚の中で食べているかもしれない。いずれにせよ、緑色の足跡の持ち主はハムを食べることしかしていないようだ。少なくとも、さっきのような化け物ではあるまい。よし、ふつうに開けよう
 戸棚を開けると、そこには緑色の人影がうずくまっていた。その人影は細い管をこちらに向けて、口にくわえていた。緑色の人影の正体は、悪意を持った生き物ではなく、緑色のねばねばに全身を覆われている少女だった。私の推理は当たっていたようだ。もしも攻撃的な態度をとっていたら、少女は間違いなく吹き矢をこちらに吹いていただろう。
「驚かせてごめんなさい。私の名は<批判屋>です。カラメールの傭兵をしています。任務中にこの村に立ち寄ったらひとけがなかったので、つい家の中に入ってしまいました。黙って入って来て本当にすみません。」武器をテーブルの上に置いたのを見て、少女はようやくこちらに害はないと判断してくれたようだ。
 少女の名前はメマ、魔法使いエンシメシスの弟子であるという。村にひとけがない理由は私よりもよく知っていた。彼女はこの2日間、エンシメシスが出かけてからずっと戸棚に隠れていた。エンシメシスは出かける前、身を守るためだといって彼女の全身に緑色のねばねば――嫌な臭いがするが――を塗り、ずっと隠れているように指示をしたそうだ。
 メマの話によると、エンシメシスは出発の前の晩、自分が行なった予言をひどく気に病んでいたという。エンシメシスは北の山脈の変幻の森に住む、賢人アレセアの指示を仰ぐため、危険な旅に出なければならないことをメマに告げた。「私もついて行きたいと言ったんだけれど、エンシメシス先生に『駄目だ、お前は隠れていなさい。』と厳しく言われたの。だから、この旅は本当に命がけというのがわかったの。」メマが戸棚の中にうずくまっていると、恐ろしい音が村に近づいてきた。彼女は身をすくませながら、村人たちの悲鳴を聞いたという。「そのうち音が全然しなくなって、そこへ<批判屋>さんが来たの。足音ですぐにわかったわ。」
 メマのお陰で謎の一部が解けた。敵は一つの村をいとも簡単に廃墟にするほどの力を持っているのだ。恐らく、さっきの卑劣漢も落とし戸の中に閉じ込められていたため、皮肉にも敵の魔の手を逃れたのだろう。問題は、エンシメシスが気に病んでいた予言の内容だ。それさえ分かれば、敵の正体がつかめるかも知れない。ここでエンシメシスの机を調べてみることにする。
 机の上の薬瓶や紙切れをひっかきまわしていると、一枚の羊皮紙が見つかった。割れた瓶からこぼれたねばねばの液体の緑色のしみがついている。恐らくメマの身体に塗りつけたものだろう。走り書きされた文字を読もうとするが、全部は判読できない。
 それから、危険が去ったことがはっきりするまで、家を離れないように……どんなことがあっても……安全になったら、親御さんの村へ戻って……変幻の森に入るのなら、やぶに咲く手袋をたどっていくこと。さもないと、永久に森から出られなくなる……
 もしかすると、この羊皮紙はメマ宛てではないのか?メマに見せてみる。とたんに、メマの目から涙が止めどもなく流れ出した。「エンシメシス先生……」
 どうやらこの羊皮紙はメマにあげた方がよさそうだ。ただ、変幻の森に入るのなら、やぶに咲く手袋をたどっていくことは覚えておこう。更に、机の上を探してみる。
 机の上の本や巻き物は難しくて何が何だかわからない文章ばかりだった。流石は魔法使いの机だ。その代わり、薬瓶の方に目が行った。多くは割れて、中身が飛び散っている。恐らく、メマの言っていた“恐ろしい音”の際に割れたのだろう。ラベルの貼ってある3本の瓶を見つけだした。それぞれ、さえない茶色の液体が入っている。ラベルには蚯蚓(みみず)の這ったような文字で書かれていた。エンシメシスに必要なのは魔法よりもペン習字の腕ではないのか、と思いながらラベルの文字を解読してみた。「グルシュアラールザザズ…何だこりゃ?」メマに聞いてみるが、分からないという。「前に、私が瓶に触ろうとしたら、エンシメシス先生に厳しく叱られたの。まだ効果がわからない瓶に、下手に触ったら命に関わることになるって。そのときは私は泣いちゃったけれど、大げさじゃなくて本当に命に関わることだってわかったの。ふだんはとても優しいけれど、たまにとても厳しい先生だから。」
 ムムム……。愛弟子のメマにすら触らせない瓶を他人様が持っていくのは多少気がひけるが、これまた重要アイテムのような気がしてならない。よし、持って行こう。エンシメシスに会ったらこの瓶の効能を聞けばいいんだ。実験段階のためかどうかはわからないが、それぞれ一口分しかない。だから、飲んでしまえば一度で全部なくなる。
 さて、準備は整った。羊皮紙に書いてある内容を思い出す。今のこの村は、一応危険が去ったことがはっきりしたと言ってよいだろう。何しろ、村人達の悲鳴がして、廃墟同然になってしまったのだから。敵も、まさか一度廃墟にした村に戻ってくることはするまい。ならば、あの羊皮紙の内容通り、メマを両親のいる村へ送り届けるべきだ。「さあ、メマ、行こう。」「うん、<批判屋>さん。」
 メマの手を引いて一緒に家を出た……が、メマの手はあの緑色のねばねばでべたべたしている。尤も、こっちはこっちでワインまみれ(注意:前回参照)だからお互い様だが。馬のところへ戻るとき、村の中央にある井戸が見えた。メマのねばねばを洗い流そうか?ついでにワインまみれのこの体も洗いたいのだが。……いや、やめよう。魔法使いエンシメシスは、メマの身を守るために彼女の全身に緑色のねばねばを塗ったのだ。そして、村が襲われたにも関わらず彼女は助かったのだ。エンシメシスは、魔法使いとしても人間としても立派なのは確かだ。メマには気の毒だが、緑色のねばねばは洗い流さないことにする。もちろん、自分だけさっぱりしようとは思わない。こちらも、もう少しワインまみれの姿でいることにしよう。トホホ……
 馬の背に飛び乗り、メマを抱え上げて前に座らせる。「私の村はこっちよ。」メマが指差した道を早足で引き返し、カラメールに通じる道をそれて、丘陵の斜面を曲がりくねる狭い道を行く。遥か彼方に平原が見渡せ、左手の少し遠くに見える村から煙がゆらゆらと立ちのぼっている。「あの村が私の村よ!」メマが叫んだ(《時間表》のますにチェック)。

〔STATUS(現在の値/原点)
 ※ 変化があったものは太い赤字
 技術点 … 10/10
 体力点 … 17/18
 運点 … 10/10
 時間表 … 
 特筆点 … なし
 金貨 … 5
 食料 … 5
 所持品 … ファングセイン鋼の剣(戦闘の際6ゾロが出れば致命傷)、シージュのにおい玉、謎かけ盗賊の瓶、グルシュの瓶アラールの瓶ザザズの瓶
 (Save Number:396→95)

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2013/07/17


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