ナイトメア キャッスル(プレイ日記)


【最終回】 ニューバーグへの凱旋

〔400〕
 鏡の向こうは、今は亡きセニャカーズの部屋だった。これら一続きの部屋は城の他の部分から切り離されていた“安全な”区画だった。というのも、この区画の外は見張りの番兵がいたからだ(今はもういないが)。ここには食料も水もあるので、ゆっくりと体力を回復させて、私はニューバーグ城塞を再び歩くことにした。城の地下牢や貯蔵室の廊下を通り抜け、私は再びトールダー男爵の居室に姿を現した。
「おお、ALADDIN。久しぶりじゃのう。」
 トールダーはすっかり魔法から覚めていたようだが、トールダーが私に入牢(じゅろう)を命じたことは覚えていないようだった。
「トールダー、後で一緒にヒューの寺院まで来い。そこでじっくりと問い質すことがある。だが、今は南国人兵士どもを追い払うことが先だ。」
「ん? どうしたのじゃALADDIN、そんなに怖い顔をして。」
 トールダーはなぜ私がこれほどまでに怒っているかを理解し得ないようだった。そもそも、セニャカーズに心を奪われたことそのもの失態だというのに、仮にも旧友の私を地下牢に幽閉したこと、否、それよりもニューバーグの町民を恐怖と絶望に陥れた責任をトールダーは負うべきだろう。
 以下、南国人兵士達をどう料理したかは端折る。女主人が斃れたことを知った南国人兵士どもは完全に士気を失っており、こちらの命令には完全服従していた。好き勝手にニューバーグ城塞を荒らしたことに対する刑罰の内容は死ではなく、元通りにニューバーグ城塞を修復させることだった。落書きをした輩に対する一番の処罰は、落書きを消させることと同じである。時間はかかったが、ニューバーグ城塞を牛耳っていた南国人兵士どもは、その狼藉を自分達の手によって元通りに戻すという皮肉な運命を負うことになった。
 ニューバーグ城塞が元通りの秩序を取り戻したところで、南国人兵士どもはニューバーグの町から永久追放されることになった。どうせ一人では何もできない連中だろうから、大した罪(例:殺人)は犯していないだろうというトールダーと私の判断によるものだった。
 さて、今度はトールダーの番だ。私がトールダーをヒューの寺院に強制連行しようとしたそのときだった。
「<批判屋>よ、それには及ばぬ。」
 トールダーの居室には既にヒュー老人とセルニックがいた。そして、その後ろには、<南の星>亭の夫妻、ゴブリンの古物商、そしてドワーフの庭師がいた。商業地区で私を襲った小さな子供達もいた。小さな子供達は、私の姿を見るなり恐れ慄き、全身を震わせた。
「ごめんなさい。<批判屋>さんのお金を奪おうとしてごめんなさい。<批判屋>さんを殺そうとしてごめんなさい……」
 子供達の目には涙があふれていた。私は、金貨を投げつけた子供の前に歩み寄り、金貨3枚を握らせた。
「このお金は君が落としたものだろう。今返す。」
 私に金貨を投げつけた男の子は、私の言葉を聞いた途端、わんわん泣き出した。その泣き声はトールダー男爵の居室全体に響き渡った。私は何も言わずに子供から離れ、再びトールダーの近くに戻った。
「トールダー、貴殿が連れて帰った南国人兵士どもがニューバーグの町民をここまで追い詰めた。勿論、この子達が私に対して行ったことは犯罪以外の何物でもない。だが、それを教唆したのが南国人兵士だとしたら、そして教唆の原因をつくったのが南国人兵士を連れてきた者だとしたら、その責任の所在は誰にあると思うか?」
 トールダー男爵は事の重大さに漸く気づいたのか、がっくりと肩を落とした。ヒューが私の言葉を続けた。
「トールダーよ。今ここにいるのは、道中<批判屋>が関わった主たる人々じゃ。彼らの助けがなければ、如何に<批判屋>と雖もザカーズを倒すことは到底叶わなかったであろう。トールダー、今ここに問う。ニューバーグの町民を恐怖と絶望に陥れた責任をどう取るつもりか?」
 トールダーは何も言わず、剣を抜いた。そして、己の腹に突き立てようとしたその瞬間、ヒューは老人とは思えぬ程の素早さでトールダーの剣を叩き落とした。
「馬鹿者!」
 ヒュー老人の怒号も泣いていた男の子に負けず劣らずトールダーの居室に響き渡った。恐らく、この居室においてこれほど大声が響き渡る日というのは今日が最初で最後だろう。
「トールダー、死んで詫びができるとでも思ったのか。ここにいる誰もお前の死などは望んではおらん。お前が一国の城主であるならば、死ぬよりも他にすることがあるじゃろうが。ニューバーグの町民達は、毎晩恐怖に震えて過ごしながらもお前のことを信じて待っておったのじゃぞ。なぜ生きて詫びようと思わぬか!」
 東野英治郎ばりのヒューの怒鳴り声は、その悉くが太守の胸を突き刺した。ヒューがトールダー男爵よりも年長とは言え、一国の城主が町民に怒鳴られるなど、城主にとっては不面目な公開処刑にも等しかっただろう。ヒューはそれを見越して、この「公開処刑」に立ち会う人々を厳選したに違いない。
「ヒュー老師、例の物をお持ちしました。」
「うむ。ご苦労であった、セルニック。」
 セルニックが持ってきたのは、私がザカーズの作業場に置いてきたエメラルドと、見慣れない金属製の箱だった。
「<批判屋>よ、お主の推察通り、ザカーズを完全に滅ぼすことはできぬ。この金属製の箱こそがザカーズの正体だったのじゃ。この箱を壊そうものならば、その者がザカーズの後を継ぐことになる。この箱は、儂が寺院に持ち帰って未来永劫逃げ出すことのないようにしっかり封印することにしよう。」
 ヒュー老人は高らかに宣言した。
「それから、<批判屋>よ、お主が首尾よく発見できたにせよ発見できなかったにせよ、お主はスカルロスの三叉槍の正当な保有者となった。お主こそ英雄スカルロスの伝説を引き継ぐのにふさわしい。」
 パチパチパチパチ……トールダーの居室に拍手が響き渡った。

 後日、ニューバーグに平和が戻った大祝賀会がニューバーグ城で行われた。トールダー男爵主催によるものだった。この大祝賀会にはニューバーグの町民全員が招待された。トールダー男爵が、長きにわたりニューバーグの町民を恐怖と絶望に陥れたことを詫び、今後は無理な遠征はしないことを宣言した。また、トールダー男爵はニューバーグ城塞及びニューバーグの政権の後継者を私にする旨を発表した。男爵の死後、私は城塞と町の自由保有権、周辺の農地の大部分、東の丘陵地帯の森林や狩猟地、そして太守の称号を承継することになる。尤も、それまで統治の心得についてトールダー男爵から学ばなくてはならないが。一つ確実に言えることは、統治者たる者は、領民の生活を優先して考えなくてはならないということだ。先日、関係者がトールダーの居室に集まったとき、トールダーを責めたのはヒュー老人と私だけだった。他の町民は畏れ多いというのもあったかもしれないが、トールダーが正気に戻った嬉しさの感情が優っていたようだ。トールダーと同じ過ちを犯してはならない。

 今、私は<南の星>亭に宿泊している。ニューバーグの町の隅々まで平和が行き届いているかどうかを確かめるにはちょうどいい環境とのことだった。宿泊代その他の費用は全てトールダー男爵持ちだし、何と言ってもニューバーグの町の暮らしをのんびりと楽しむのにはちょうどいい機会だ。ニューバーグ城に宿泊していたのでは、この贅沢感は味わえないだろう。このままニューバーグにいてもいいのだが、多分数日もすると飽きるだろうな。故国ジパングにでも戻ろうか。そんなことを考えながら、私は久しぶりに市の立った商業地区へ足を運んだ……。

〔最終STATUS(現在の値/原点)
 技術点 ……… 10(+2)/10 (スカルロスの三叉槍を使う場合のみ)
 体力点 ……… 22/25
 運点 ………… 11/12
 意志力点 …… 10/12
 金貨(枚) …… 4
 食糧(食) …… 3
 所持品 ……… ザック、剣、トールダー男爵から寄贈された指輪スカルロスの三叉槍緑色の球体、ロースの護符
 備考 ………… スカルロスの三叉槍で人間以外の敵に与えるダメージは4点

* * * * * *

 ゲームブックプレイ日記『ナイトメア キャッスル』をここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
 この作品における批判の概要については、このページで述べていますので、ここではプレイした感想を述べたいと思います。
 このゲームにはパラグラフジャンプ(特定の条件を満たした場合、そこに指示されている番号以外の隠れた項目番号に進むこと)が一切ないので、その分“必須アイテム”の概念が薄いゲームとも言えます。スカルロスの三叉槍はこのゲームにおけるクリア必須に近いアイテムですが、最後のヒュー老人の言葉にもあったように、スカルロスの三叉槍を入手しなくてもこのゲームをクリアすることができます(ザカーズとの戦闘は避けられても南国人兵士との戦闘は避けられませんが)。極端な言い方をすれば、城の内部からすぐにセニャカーズの部屋(城の本丸)に行くこともできます。しかし、そのルートを取るとスカルロスの三叉槍とロースの護符を入手することができず、最後のザカーズ戦ではまず勝てないでしょう。ザカーズの技術点14・体力点32は、FFシリーズのラスボスの中でもほぼ無敵に近く、体力点はFFシリーズ史上最高レベルです。主人公の技術点が12でルーン文字の刻まれた斧を使うのであれば、ザカーズと技術点は互角になりますが、体力点の関係でザカーズに勝つことは至難の業であることに違いありません。
 当初は「グレイルクエストシリーズ」の表現を真似してみようと試みましたが、やはり私の文章能力ではできませんでした。この冒険における描写がかなり怖く、それを少しでも緩和しようと思ったのですが、“真の道”さえ通ればそれほど怖い描写には出くわさないと思います。今回の冒険において、“真の道”以外に登場するキャラクターや罠もかなり魅力的なものがあり、それらをプレイ日記に掲載できなかったのは残念です。雌オークにいつも怒鳴られているノームや戦いながらもロープを握りしめるオーク(オークが死ぬとロープがオークの手から離れて天井に引き込まれて鉄格子が降りてくる)、突然変異の伝染病に感染した囚われの兄妹、そして廊下の先で“ごちそうの幻影”と“炎熱地獄の幻影”と本物の落とし穴の3点セットなど、命取りの罠の存在がかなり多いのもこの作品の特徴です。
 本プレイは社会思想社『ナイトメア キャッスル』(邦訳版)を基に著述しましたが、ストーリーの展開上、一部各能力点やアイテムの得失などが前後している場合があります。また、一部設定を変更している場面があります。以上の点をご理解・ご了承・ご容赦くださるようお願い申し上げます。


2023/12/20


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