モンスター誕生(プレイ日記)〜後日篇〜


【後日篇4】 グロッグの蘇生(前編)

 実は、私はロックデーモンの幻影が現れたあの部屋から、一冊の書物を持ち出していた。その書物の表紙には『禁断の蘇生術』と書かれていた。
「みんな。聞いてもらいたい。話があるんだ。」
 私の話し方からして、29番、ハニカス、若いサイ男の三人は、尋常ならぬ事情を察知したようだった。
「実は、私は元モンスターだったんだ。」
 ハニカスは事情を察していたが、他の二人のサイ男は少なからず驚いていたようだった。
「私がこうして人間に戻れたのは、あそこに眠っている、グロッグという半オークのお蔭なんだ。ドリーの三姉妹からの依頼でカエル沼に行ったとき、グロッグはカエル男に殺されてしまったんだ。私の命と引き換えに。」
 三人は黙って私の話を聞いていた。
「今はガレーキープと呼ばれているあの飛行船の船長は元々私だった。それを、ザラダン・マーが乗っ取り、私はザラダン・マーの魔術でモンスターに変えられてしまったんだ。だが、私はガレーキープに乗り込んで、ザラダン・マーの住む世界とのつながりを破壊した。それによって、ザラダン・マーの魔術は解けて、私は人間に戻ったんだ。ハニカス殿にかかっていた目くらましの呪いが解けたのも同じ理由だと思う。人間に戻った頃の私は、生きがいというものを完全に失っていた。そんなとき、グロッグの持っていた“魔術の煙”によって私は魔術を使えるようになった。そして、29番のいる訓練所の光景が映ったんだ。無目的な旅より、目的のある方がいいと思って、私はガレーキープを抜け出して、再び地上に戻ってきた。そして、29番と出会い、訓練所を脱出した。その後、モンスターのときに交わした約束通りハニカス殿を迎えに行き、そして29番に手紙を書いてくれたお礼に……」
「俺を迎えに来てくれたということだな。」
 若いサイ男が私の話を継いでくれた。
「だが、グロッグだけは助けられなかった。ドリーの三姉妹の力を持ってしても、死んだ者を生き返らせることはできないようだった。」
「それで、おまえさんは、グロッグを生き返らせたいと。」
 ハニカスの言葉に、私は黙って頷いた。ハニカスは、過去の記憶に思いを巡らしているようだった。
「おまえさん、ガレーキープの船長と言ったな。ならば、わしが知っている魔法使いがおるはずじゃ。取り敢えず、私をガレーキープに連れて行ってもらいたい。」
「はい、分かりました。」
「で、私達は何をすればよいのか?」
 29番と若いサイ男がハニカスに聞いた。
「サイ男の二人は、取り敢えずあの建物で待っていてもらいたい。わしらが戻ってくるときには、魔法でそのことを伝えよう。」
「みんな、ありがとう。」
 今度は、私が三人に頭を下げた。
「何、いいのじゃよ。わしらはおまえさんに大変世話になった。今度はわしらがおまえさんに報いる番じゃ。」
 私はハニカスを連れて、ガレーキープに戻った。



 5つの扉のうち、一番左の水差しの描かれている扉は船長室だ。だが、ハニカスはそちらへは向かわず、右から二番目にある雪の結晶が描かれている扉に向かった。
「邪魔するぞ。」
 ハニカスは、雪の結晶の扉を開けた。
 そこは広い部屋で、考えていたほど薄暗くはなかった。反対側の壁にある大きな舷窓からは明るい陽射しが差し込んでいる。壁には本棚が並び、星図が貼られている。舷窓の前にある机には沢山の本や地図、磁石などが置いてある。その他にも大きな器具が所狭しと並んでいた。部屋の中に別の扉が二つあり、今しもその一つが開いて誰かが入ってきた。
「さあさあ、何の用……ハニカスではないか!」
「おお、ニンビカス! やはりお主だったか!」
 ニンビカスと呼ばれた男は、白髪交じりの長い髪をした老人だった。半月型の眼鏡をかけている。
「紹介しよう。この男が、天候の魔法使いニンビカスだ。ニンビカス、こちらがこの飛行船の船長だ。」
「おお、それはそれは。飛行船の船長はくそったれのザラダンと聞いておったが、そうではなかったのか。して、ハニカス、なぜわざわざこんなところへ来たのだ? 余程のことがあってのことだと思うが。」
 ハニカスは、私の願いをニンビカスに説明してくれた。ニンビカスの表情が険しくなっていく。
「そうか……。船長よ、お主のグロッグを思う気持ちはよく分かった。じゃが、それと、生き返らせるすべがあるのとはまた別じゃ。ハニカスも言っていたように、わしの専門は天候に関する魔術じゃからのう。特に、黄泉返りの術となると、危険を伴うことは間違いない。」
 そこで、私は『禁断の蘇生術』の本を取り出し、ハニカスとニンビカスに見せた。途端に、二人は目を丸くした。
「そうか、この書物を持っておるのか。これも天命じゃな。よし、今すぐ出発しよう。わしを半オークの墓へ連れて行ってくれ。」
「いいのか?」
 ハニカスがニンビカスに問い質した。
「いいんじゃよ。いずれわしはこの船を離れるつもりじゃった。」
「ニンビカス殿、ありがとうございます。」
 私はニンビカスにお礼を言った。
「礼には及ばぬ。じゃが……この呪文は、相当の犠牲が伴う。お主にその覚悟はあるかの?」
 ニンビカスは私の目を覗き込んで言った。その視線は強烈で、ニンビカスの視線からは決して逃れられないほどだった。
「はい。」
 私は、ニンビカスの目を見て答えた。本当にグロッグが生き返るのであれば、どんな犠牲を払ってもいい。
「では、行こうか。」
 ニンビカスは急に穏やかな表情になった。
 ハニカスの魔術により、私達は例の建物に戻ることができた。サイ男達も準備万端だった。
「さあ、グロッグの遺体をここへ。」
 サイ男達は、既にグロッグの墓から遺体を取り出していた。グロッグは綺麗に白骨化していた。
「旧世界の魔術には“RES”というものがあるらしいが、こうなってしまってはもはや“RES”は役に立たん。船長よ、そなたの持っている『禁断の蘇生術』の儀式を始めるが、覚悟は良いな?」
 私は黙って頷いた。
「それでは、始めよう。」
 ニンビカスとハニカスが『禁断の蘇生術』の儀式を始めた。
 だが、このとき、五人の中で迫りくる危機に気づいている者は誰もいなかった……。

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2023/01/14


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