モンスター誕生(プレイ日記)〜後日篇〜


【後日篇3】 ハニカスの救出

 目覚めは爽やかだった、私は。だが、29番兵はそうではなかったようだ。29番兵は心なしか疲れているようだった。
「良かった、オフィディオタウルスを操る森エルフが現れなくて。」
 オフィディオタウルスを操る森エルフ……ああ、ダーガ・ウィーズルタングのことか。ダーガ・ウィーズルタングは、最初私に嘘をついていた。だが、私が≪真実の指輪≫を見せた途端に、真実をしゃべるようになった。そのお蔭で私はガレーキープに潜入できたのだ。
「森エルフは、ザラダンの奴に唆(そそのか)されて、門外不出の“煙”をエルフの村から持ち出してしまったのだ。それにより、森エルフは故郷を追放されたらしい。ザラダンの奴、よりによってサイ男に化けやがって、それで森エルフは私達サイ男を目の敵にするようになったのだ。はた迷惑な話だよ。」
 だが、そのザラダンは私が幻影の世界に永遠に幽閉した。ダーガのサイ男に対する偏見もいずれは消えるであろう。
 私達は、例の建物まで戻ってきた。そして、私は29番兵に向かって言った。
「29番、ここでお別れだ。私はこれから地下迷宮に入って、盲目のハニカスを迎えに行く。それがハニカスとの約束だから。貴殿は無事であることが分かった妹さんのところに向かうがいい。」
 すると、29番は首を横に振った。
「いや、私も同行しよう。妹のもとへはいつでも行くことができる。それに、あの手紙を届けてもらった義理があるしな。」
 私は、少し考えた。折角29番が同行してくれるのならば、手紙の差出人に会わせよう。そう思い、私は29番の同行を快く引き受けた。
「こちらこそ、よろしくお願い申す。」
 こうして、29番を仲間にした私は、墓地にある地下迷宮への扉を開いた。私は、黒人の衛兵のことを思い出し、魔術を用いてモンスターに変身した。そして、階段を下る。階段の下には鍵がかかっていたが、こちらからは開けられるようだった。私は鍵を開いて中の部屋に入った。
 約1ヶ月ぶりに見る衛兵の部屋は、相変わらず嫌な臭いで充満していた。そして黒人の衛兵はそこにいた。
「あ、おまえはあのときのモンスター。やはり戻って来たか。……よし、約束通りペンダントを返してやろう。」
 男は残念そうな表情を浮かべながらも、私にペンダントを返した。この男の言動は筋が通っていた。29番兵には予めYAZ(透明になる魔術)をかけておいた。これまで歩いてきた道を逆にたどるのは意外に簡単だった。どうやらこの地下迷宮は、出るのは難しいが、入るのは簡単のようだった。
 そして、問題の太い鉄格子にたどり着いた。ザゴールの迷路やマンパン砦、そしてモンドバ寺院にも出てきた行く手を阻む太い鉄格子だ。
「PEP!」
 私は怪力の魔術を使って、鉄格子を曲げた。折るとまではいかなかったが、どうにか人が通れるだけの大きさには広がった。私達は、先に進んだ。
 やがて、ハニカスのいる部屋の前にたどり着いた。そして扉を開けた。
「そなたは何者じゃ? モンスターに化けているようじゃが、そなたが人間であることはお見通しじゃ。」
 扉を開けるなり、中から老人の声がした。この老人こそが魔術師ハニカスだった。
「ハニカス、あなたは私の本当の姿がわかるのですね。目が見えるようになったのでしょうか?」
「うむ、そうじゃ。わしとて魔術師の端くれ、幻影の術くらいは看破できるわい。しかし、なぜお主はわしの目が見えなかったことを知っておるのじゃ?」
「はい。信じてはもらえないかもしれませんが、私はモンスターでした。そのとき、あなたの部屋を訪れまして、あなた御自身からザラダンに目くらましの呪いをかけられていることをお伺いしました。」
 ハニカスは私の言葉に合点が行ったようだった。
「なんと! そなたがあのときのモンスター……。そうすると、わしがそなたにやったものも覚えておるじゃろうな?」
「はい、もちろんです。ダラマスはあの銀の指輪を≪祝福の指輪≫と言っていました。危うくダラマスに死のウジ虫を召喚されそうになりましたが、どうにかダラマスを倒すことができました。」
「おお、まさしく!」
「ザラダンが幻影の世界に幽閉されたことによって、私にかけられたマランハの術と同様、ハニカス殿にかけられためくらましの呪いも解けたと思われます。」
 それを聞くなり、ハニカスは目から涙を流しながら私に言った。
「おまえさんには分からんだろうよ。あの憎きザラダンとくそったれのダラマスから解放されることがわしにとってどれだけ嬉しいかを。この老人を喜ばせてくれた礼をしたい。まずはありがとう。」
 こうして、29番に続き、ハニカスも仲間に加わった。ハニカスの魔術の力がどれくらいのものかは、これから分かってくるだろう。そして、何よりハニカスほどこの地下迷宮を詳しく知る者はなかった。
 私達は、ハニカスの案内で、サイ男の部屋の前までたどり着いた。



「誰だ? ……って、あなたは……」
 サイ男の前に立っていたのは、紛れもなく29番だった。
「うむ。君がこの方に私宛の手紙を持たせてくれたんだってな。お蔭で私も無事に君に会うことができた。ザラダン・マーはこの方が倒してくださった。君ももうこの地下迷宮にいる理由は何もないだろう。ハニカス殿も無事だし、一緒にこの忌まわしい場所から出て行こう。」
「はい、もちろんです。私もこの日が来ることを信じていました。ついにその辛抱が報われるときが来たのですね。」
 若いサイ男の目に一筋の涙が……。余程ここでの暮らしが過酷だったのだろう。
 かくして、私達はハニカスの先導により、地下迷宮の出口までたどり着いた。問題は、あの黒人の衛兵だ。あの衛兵は見た目に反して忠実なだけに、争いを避けたいところである。何とか穏便に図る魔術が……あったぞ。
 私は、黒人の衛兵に向かって唱えた。
「GOD!」
 衛兵は忽ち友好的になった。試しに、私が賄賂としてペンダントを差し出そうとすると、彼はそれを拒んだ。
「ああ、別に通っていいよ。どうせダラマスから文句を言われることはもうないんだから。」
 彼はポケットから鍵を取り出し、開けた。事前の魔術で透明になっている若いサイ男、29番、ハニカスを先に通し、最後に私が衛兵に向かって別れの挨拶を告げた。
「外から鍵をかけておいてくれよ!」
 私は衛兵に言われた通り、鍵をかけてから、地上に出た。
 ついに、私はハニカスを救出することに成功した!
「ありがとう!」
 三人は、私に向かって頭を下げた。彼らに感謝されたことで、これまで生きる目的を失っていた私自身が自分の生きている意味を再認識できたような気がした。
 ふと、私はとある墓碑に惹かれた。
『半オークのグログナグ・クロートゥース(通称グロッグ)ここに眠る。』
 グロッグ……そう言えば、そんなこともあったなあ。私は、グロッグと初めて出会ったときのことを思い出した。



 グロッグのお蔭で私は人間に戻れた。そればかりか、グロッグの持っていた背負い袋の中に“魔術の煙”があり、その“煙”によって、私は彼ら三人を助けることができたのだ。三人がお礼を言う相手は、私ではなくグロッグではないのだろうか。
 グロッグを生き返らせたい――そんな思いが、私の脳裡を過(よぎ)った。

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2022/12/21


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