モンスター誕生(プレイ日記)〜後日篇〜
【後日篇2】 29番兵を求めて
かくして、私はサグラフの訓練所に行くことに決めた。しかし、まずはこの飛行船内の現況を知りたい。この1週間、私は船長室を出ていない。どうなっているか知りたいし、知らなくてはならないだろう。
「KID!」
私は、旧世界に伝わる“幻影”の魔術を唱えた。幻影は飽くまでも幻影でしかなく、幻影にそぐわない行動(鼠に変身しておきながら剣で相手の頭を狙うなど)を取るとこの魔術は解けてしまうが、使い方次第では有効な魔法であろう。この魔術は骨の腕輪を必要とするらしいが、例によって私には不要だった。怪物達には、私をザラダンと思い込ませるのだ。
私は、螺旋階段を上った。狭い階段を上る。最上段の上の天井には丸い上げ蓋があり、それを開けた。すると、そこは飛行船の操縦室だった。しかも、そこにはたくさんのザラダンの配下がいた! 普通ならば、私は即座に囚われの身になったことだろう。しかし、今の私はザラダンに化けている。
「これはザラダン様。まだ“虹の池”は見つかりませんが、このヴァラスカ・ルーの名誉にかけても必ず探し出して見せます!」
操縦席にいたヴァラスカ・ルーと名乗る人物が私に向かって述べていた。
「うむ、頼んだぞ。」
私はそれだけ言って、船長室へ戻った。
さて、このガレーキープの操縦はヴァラスカ・ルーとやらに任せておけばいい。私はガレーキープを去り、訓練所へ向かう方法を考えた。ガレーキープを着陸させるのは危険過ぎることは、ダーガの言葉からも聞いていた。ならば、私が空を飛ぶ魔術を使うまでだ。試しに船長室で用いる。
「ZEN!」
この魔術も旧世界に伝わる魔術で、宝石を嵌め込んだメダルを身につけると宙に浮かぶことができ、そのまま移動することもできる。旧世界でこの魔術が役に立つ場面は極端に少なかったが、この魔法は使い方次第ではかなり有効だろう。私は船長室で空中を移動する練習をした。十分練習したと判断した後、私は船長室を出て、ギロチンのある甲板に立った。いよいよこの飛行船を出る時が来た。
「ZEN!」
次の瞬間、私の身体は宙に浮いた。ついに飛行船から離れた! 私はそのままよじれ樫の森の方へ移動した。空中にいるのは気持ちいいが、地上にいるのとは勝手が違う。私はすぐに地上に降り立った。人間に戻って初めての地上だ。そこは、ドリーの三姉妹に初めて会った建物だった。ここから東へ進むと墓地を経由してよじれ樫の森に入ることになる。私は、東の道を進んで行った。墓地を通り過ぎ、そのままよじれ樫の森に入る。しばらくすると、北に小道が分岐していた。標識が一本立っており、三つの矢印がついていた。北への矢印には≪コーブン≫、南への矢印(そちらに道はないが)には≪ドブドロ川≫、東への矢印には≪訓練所≫と記されていた。ならば東へ進めば……いや、待てよ。この標識も正しい位置を示していないな。グロッグに教わったことを思い出して、私は標識を正しい位置に直した。訓練所は北だ! 私は北へ向かった。
北に進んで行く私の目に、巨大な金属製の門が見えてきた。門の格子の隙間から、大きな要塞が見える。しかし、人の気配は全くなかった。ここがダラマスの訓練所なのだろうか? と、その瞬間、私の目の前に一人の小男が現れた。男は私に見向きもせずに門を開け、言った。
「さあ、お入りください。お待ちになりましたか? もしそうなら、どうかご内密にお願いします。私がひどく怒られるのです。さあ、サグラフ様のところにご案内します。いいお天気ですね。さあ、どうぞ、私について来てください。ここが……」
よくしゃべる男だ。だが、悪気はないのだろう。私は男の後について、建物の裏手に回り、中庭に向かった。
中庭はさまざまな生き物でいっぱいだった。ゴブリン、人間、オーク、エルフ、サイ男、トカゲ兵やその他の怪物が武器を構えて訓練を行っていた。その真ん中に巨大な半トロールが立っている。逞しい身体に黒い上着を身につけ、兵士の間を歩き回って命令を下していた。私の案内人は兵士をかき分けて、半トロールの上着を引っ張った。
「サグラフ様、お客様です!」
半トロールは面倒くさそうに案内人を振り向いた。今だ。私はKIDの魔術を唱えた。
「客だと? ほほう、おまえが……はっ!」
半トロールは私の姿を見て、一瞬直立不動になった。
「これはこれはザラダン様。ようこそお越しくださいました。門の外で待たされませんでしたでしょうか?」
そう言って、案内人をかっと見つめる。
「いや、待たされてはいない。」
「それは何よりです。」
待たされていないのは事実だった。実際、私が待つ暇もなく、案内人が話しかけてきたのだ。この案内人も見張り役として日々生き抜いてきたのだろう。もし、私が嘘でも「待たされた」と言っていたら、案内人はその場でサグラフに殺されていたに違いない。
「ザラダン様、本日の御用向きは何でしょうか?」
「うむ。今日は忍びで訓練所を視察に来た。何か変わったことはないか?」
「訓練所はいつも通りでございます。ですが、サイ男の連中が相変わらず冷血でして……」
「そうか。ご苦労であるな。さて、これから私は、一般の兵士に姿を変えて見回る。特に問題なければ、そのままガレーキープに戻る故、何も案ずるな。」
「はっ!」
サグラフと案内人は私に頭を下げ、それぞれの持ち場に戻って行った。私は中庭の兵士達に近づいて行った。そこには血の気の多い連中が数え切れないほどいた。全員が番号のついたメダルを首にかけ、堅く鞣(なめ)した黒い革鎧を身につけている。ガレーキープの制服だ。兵士達はいくつかのグループに分かれて訓練を行っている。私は別の人間の姿に変えた。これで、しばらくはごまかせるであろう。さて、サイ男のグループは……いたぞ!
サイ男の一人が、指揮官のサグラフにでも簡単に勝つことができると豪語していた。それを聞いたオークが彼をからかい、オーク達とサイ男達の間に険悪な空気が流れている。今にも闘いが始まりそうだが、私の目は別のサイ男のメダルを捉えていた。
29番のメダルは、私が飛行船にいたときに見た光景そのものだった。背中が幾分か曲がっていることからして、かなりの年齢なのだろう。私がそのサイ男に近づくと、相手は疲れ切った目で私を見つめた。もう若くて力強く、野心に満ちた連中は飽き飽きしたという顔だ。
「コーブンの地下研究所にいるサイ男から貴殿宛ての手紙を預かっている。まずはご一読を。」
私はサイ男に手紙を渡した。彼はその手紙を読む。読んでいくうちに、彼の手が震えて行き、やがて、信じられないという顔つきになった。
「じゃあ、妹は生きているんだな。となれば、こんな悍ましい場所に長居は無用だ。ありがとう、見知らぬ御方よ。わしは今すぐにでもここを離れるつもりだ。」
私がこの訓練所に来た理由は29番兵に手紙を渡すためだから、それさえ果たせばもうこんなところに用はない。私も一緒にここを去ることにしよう。だが、案内人の神出鬼没ぶりは尋常ではない。そこで、私は罠がないかどうかの魔術を用いた。
「SUS!」
この魔術は、触媒となるアイテムを要しないが、その代わり体力の消耗がやや多い。あまり多用するべきではないだろう。
29番兵の話を誰かが盗み聞きしているかどうかを調べる……今のところは大丈夫だ。案内人にも聞かれていない。あの案内人は、兵士としては文字通り“戦力外”だが、素早さに長けている。裏切り者などをいち早く察知してサグラフに報告するのが役目なのだろう。
その日の夕方、私は29番兵と一緒に食事をし、彼の話を聞いた。
29番兵がこの要塞に来てからかなりの年月が経っていた。彼は要塞のことを隅から隅まで知り尽くしており、脱出のルートも確保してある。29番兵と妹は数年前のサラモニス掠奪のときは既にザラダン・マーの親衛隊に所属していた。サイ男は戦闘に関しては殊抜群の能力を持っているのだ。しかし、29番はザラダンに心酔はしていなかった。それどころか、彼のやり方を嫌ってすらいたのだ。29番はその戦闘能力を認められ、順調に昇進していった。だが、あるサイ男と酒を飲んだ日が、29番の運命を大きく変えることになった。そのサイ男はザラダンの旧友であり、いまや最大の宿敵でもあるバルサス・ダイヤのもとで働いている者だった。29番はスパイの汚名を着せられ、厳しい尋問を受けた。無論、彼は無実だったから、彼がスパイであることは立証されなかった。しかし、29番の妹は29番の訓練所からの逃走を防ぐため、人質としてザラダンの研究所に閉じ込められた。妹が無事であるとわかった以上、29番がこの訓練所にい続ける理由は何もない。
29番は、この日のために、要塞の外壁の一部に細工を施していた。ざっと見ただけでは全く分からないが、僅かな力を加えただけで人が通れるだけの穴が開くようにしておいたのだ。その日の夜、私達はその穴から脱出した。そして、脱出後に穴を塞ぎ、更に外壁が正常に見える幻影の魔術をかけた。だが、この穴から昆虫などが出入りしたら幻影の魔術は直ちに解けてしまうだろう。それでも、時間稼ぎをしてくれることには間違いない。
私は、慎重に慎重を重ね、罠を察知する魔術を用いながら道を歩いた。森のあちこちに、ガレーキープの狩り罠が仕掛けられているのが分かった。
今日一日で、かなりの魔術を使ったので、私も疲労を感じていた。どこかに安全な場所はないものだろうか? 私は安全策の魔術を用いた。
「HOW!」
この魔術もSUSと同じで、アイテムを要しない代わりに体力を使う。今日、魔術を用いるのはこれまでにしよう。
私達は、魔術に導かれて森の開けた場所にやってきた。ここは、私がダーガと出会った場所だ。29番兵は何だかそわそわしていたが、ここは安全な場所のようだ。その夜、私達は開けた場所で野宿をした。
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2022/12/11
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