仮面の破壊者(プレイ日記)


【最終回】 アリオンへの凱旋

〔400〜〕
 勝利は君のものだ! 暴虐の仮面はけっして野に放たれることはないだろう――少なくとも君の目の黒いうちは……
 これだけ? たったこれだけ?
 最後のクリアの文面がたったこれだけという理不尽さ。これがク×ゲーたるこの冒険の結末である。
 この文章を読むためだけに、死の湖を筏で渡ろうとしてクラーケンに湖底へ引きずり込まれたり、6分の5の確率でクリア必須アイテムが「絶対に」手に入らなかったりしたわけだ。途中の描写は定評があるものの、重要は愚かクリア必須のアイテムをサイコロ運の悪さで入手できないなど、暗黒教団の陰謀に匹敵するク×ゲーぶりだ。ロビンに対して怒り心頭に発している私の前に、例の光景が現われた。



「我が忠実なるALADDINよ、よくぞモルガーナと真の敵を討伐しました。私からも祝福してさしあげましょう。」
 リーブラは私に歩み寄った。それから、私の首の後ろに両手を回し、唇を重ねる。この冒険で何人目なんだろう。山岳部族の女性、ヴァシティ、そしてリーブラと、記憶にあるだけでも3人はいる。しばらくして、リーブラは私から唇を離した。だが、私の首の後ろはまだリーブラの両手の中にある。
「ALADDINよ、今の“祝福”において、そなたは旧世界の魔法をある程度使えるようになりました。ここからアリオンまでは――ここへ到着するまでにかかったことでお分かりと思いますが――歩いて約1か月近くかかる距離です。そこで、今しがたそなたの覚えた魔法が役に立ちます。」
 女神リーブラの“祝福”とはどのようなものだろうか。リーブラは説明を続けた。
「そなたは、旧世界の魔法で最も危険と言われている“ZED”の魔法を自由自在に使いこなすことができるようになりました。この魔法は、時間と空間を飛び越えて移動できる魔法なのです。そうですねえ、ウィザードリィで言うところのMALOR(マラーもしくはマロール)に近い魔法でしょうか。中途半端な者や中途半端な状態でこの呪文を唱えると体力点7を失うのですが、完全な精神集中を行ってこの呪文を唱えれば、消費体力点はなんと0なのです。今のそなたならこの魔法を自由自在に使いこなすことができます。」
 それは大変な魔法を授かったものだ。早速使うことにしよう。今すぐにでもアリオンに戻りたいが、その前にこの旅で出会った人達に任務成功の報告をしたい。私はその旨をリーブラに告げた。
「なるほど、確かにALADDINの言うことはもっともです。そなたは、誰に会いたいのですか?」
 会いたい人は一人ではなく、リスト化すると以下のようになる。

  • ヴァシティとジュジャに報告
  • キャンチェスの安否(野火から無事逃れたかどうか)
  • ヘヴァーに角笛を返却
  • 森エルフの酋長達に報告

  • 「随分といますね。このうち、ALADDINが直接出向いた方が良いのはヘヴァーでしょうね。あとの人達は、ここからでも会うことができます。モルガーナの玉座にある水晶玉と相手方の“スクリーン”を通して会話をすることができるでしょう。」
     まずは、乙女の谷のヴァシティだ。だが、その前にジュジャに報告した方がよいだろう。リーブラは私にモルガーナの玉座にあった水晶玉を見るように促した。水晶玉が一人の魔法使いを映し出す……
    「ジュジャ……」
    「おお、お前さんか。ヴァシティには会ったのかね?」
    「ええ。お蔭さまでモルガーナを討伐することができました。」
    「それは何よりじゃ。態々その報告をしてくれたのか。ありがたいのう。」
     だが、私の目的はそれだけではなかった。ジュジャとヴァシティの再会が叶えば、二人は幸せに暮らすことができると思ったのだ。
    「ジュジャ、瘴気の沼の北東にある、樫の木まで行ってもらってよいですか?」
    「お安い御用じゃ。」
     私はジュジャに樫の木まで行ってもらい、乙女の谷の入口を開けた。ジュジャが樫の木をくぐり抜ける。そして、ヴァシティに水晶玉で話しかける。
    「ヴァシティさん。」
    「まあ、<批判屋>さん。モルガーナは倒せましたか?」
    「お蔭様で。それと、今乙女の谷に入って来た人がいます。その人と会ってください。」
    「まあ、誰でしょう……!!!」
     ヴァシティの顔が一瞬で驚きの表情になった。一方、ジュジャも驚きを隠せないでいた。
    「ジュジャ……ジュジャなの……?」
    「そういうお前さんは、ヴァシティ……」
     ヴァシティの目に涙があふれる。一方、ジュジャもうれしさを隠し切れないでいた。2人はお互いを抱きしめ合い、再会を喜んだ。よし、これで二人はお互いに会うべき人と出会えたわけだ。私はヴァシティとジュジャをそのままに、水晶玉で次の人物を探した。
     キャンチェスは勿論、水牛も無事だった。相変わらず水牛は好き勝手な方向に進んでいる。
    「キャンチェスさん。」
     キャンチェスは最初は驚いていたが、やがて彼の持っているガラス玉に映っている私に気づいたようだった。
    「おお、お前さんか。どうじゃったかな、私の品物は。」
    「ええ。どれもこれも素晴らしい品物でした。お蔭さまで、無事に任務を終えることができました。」
    「それは何よりじゃ。」
    「野火は大丈夫でしたか?」
    「野火か? そんなこともあったかのう……ん? ちょっと待っていてくれんか。」
     見ると、新たなピグミー・オークどもの集団がキャンチェスを取り囲んでいた。周囲から嬲り殺しにするのが奴らの得意技で、これは容易ならざる状況だ。しかし、私の脳裡にある考えが浮かんだ。この危険な土地で、いったいどうやってキャンチェスは生き延びてきたと思う? その答えはすぐに出た。ピグミー・オークどもの攻撃的な意志がはっきりした途端に、キャンチェスは奴ら全員の記憶を瞬時に奪い去った。水牛は相変わらずそんなことには関心なさそうに草を食べている。キャンチェスはピグミー・オークどもの所持品を全て奪い取り、背後の幌馬車に入れた。あのときキャンチェスに襲いかかっていたら、ああなるのは私だった!
    「いやあ、待たせてすまんのう。実は、儂も野火には参った。じゃから、儂は野火とすれ違う前に“炎除けの薬”を水牛と幌馬車に振りかけたのじゃよ。そして、儂は幌馬車の中に逃げ込んで助かったというわけじゃ。何匹かの動物もこの幌馬車の中に逃げ込んで助かったのがせめてもの救いじゃったのう。」
     自分に襲いかかる敵に対しては容赦はないが、根は慈悲深く心優しい錬金術師だった。私は錬金術師に別れを告げ、次の人物を探した。
     森エルフの酋長とまじない師とは、例の魔法の水晶の鏡でやり取りをすることができた。
    「酋長殿、モルガーナを討伐できました。」
    「おお、お前さんか。」(この返事はこれで3回目だ)
     森エルフの酋長とまじない師、そして配下の6人の森エルフが水晶玉に映っていた。
    「お前さん、モルガーナを倒しただけでなく、あの森の盗賊どもも退治してくれたそうじゃな。改めて御礼を申し上げる次第である。」
     こうして、私は大半の人への報告を終えた。あとは、枯葉の谷へ瞬間移動するだけだ。枯葉の谷を水晶玉に映してみると、中庭の一角に石碑が立っていた。それはケヴィンを偲んでヘヴァーが建てたものだった。そうだ、ここへワープしよう。私は、ケヴィンの石碑を一心に思い浮かべた。
    「ZED!」
     次の瞬間、私は枯葉の谷の中庭にいた。目の前にはケヴィンの石碑がある。俄かに後ろから声がした。
    「おお、我がいとこではないか!」
     声の主は詮索するまでもなく、枯葉の谷の領主ヘヴァーその人だった。
    「ヘヴァー殿、お蔭でモルガーナを討伐できました。この角笛をお返しします。本当にありがとうございました。」
     そう言って、私はヘヴァーに角笛を返した。
    「何を言う。礼を言うのはこっちの方じゃ。貴殿はこの枯葉の谷やアリオンは勿論のこと、クール大陸全土の災厄を祓ったのじゃ。ケヴィン様の葬儀は慎ましやかに行われ、御遺体の埋葬も手厚く行い申した。尤も、ケヴィン様の性格を汲むならば、特別扱いをせず他の領民と同じように埋葬されることを望みあそばされると思い、枯葉の谷の墓地の一角に埋葬した。」
     私はケヴィンの石碑を抱きしめていた。肉体こそ死んだが、ケヴィンは私達の心の中に永遠に生き続けるだろう。ヘヴァーは護衛とともにそんな私を見守っていた。やがて、私はヘヴァーの方を向いた。
    「ヘヴァー殿、何から何までありがとうございます。ケヴィンも草葉の陰から喜んでいることでしょう……」
    「いとこよ。今夜は私の城で泊まっていかんかね? ピグミー・オークどもはもう出んから大丈夫じゃ。」
     私はヘヴァーの言葉に甘えることにした。翌朝、私はヘヴァーに別れを告げた。そして……
    「ZED!」



     懐かしいアリオンの城壁が見えてきた。前方には迎えの兵士の姿が見える。
    「ご領主様、お帰りなさいませ!」
    「私の留守中、この国を支えてくれた皆に感謝します。」
     そう言って、私はアリオンの城門をくぐった。領民総出で私の帰還を祝ってくれた。すぐさま私を交えての長老会が開かれ、私の留守中に不慮の事故で亡くなったアイフォー・ティーニンの後任者を選出すべく、話し合いが進んだ。本当はケヴィン・トゥルーハンドこそ後任者にふさわしいと思ったが、ケヴィンが既に亡くなっているのは周知の事実だった。当面は長老会の会長(最年長者)が暫定的にアイフォーの後任者を務めることになった。いずれ発覚するかもしれないが、今は私が魔法を使えるようになったことは誰にも言わないでおこう。魔術師の長老会の方々に知られると色々と面倒なことになることは必至だ。今の私はSUSやHOW、TELなどで裏切り者を判別することができるし、正当な理由による領民達の不満や訴えもこれらの魔法である程度察知できる。だが、使うときは必要最小限度に留めておきたい。ケヴィンのような諫言役がいない今、以前よりも隙につけ入る輩が現れやすいことは事実だ。ケヴィンの死を無駄にしないためにも、私はこのアリオンを平和な国にする義務があるのだ。
     私は、アリオンの歴史書に新たに加筆を行った。相思相愛のヴァシティとジュジャが紆余曲折の末ついに結ばれたこと、そしてケヴィン・トゥルーハンドによって枯葉の谷とアリオンに国交ができたこと。
     ケヴィンは私の心の中で生き続ける……。

    〔最終STATUS(現在の値/原点)
     技術点 ……… 10(+1*)/10 墓鬼の剣(*技術点+1で原点を超えても可)
     体力点 ……… 16/22
     運点 ………… 9/11
     金貨 …… 5
     食料 …… 5
     飲み薬 …… ツキ薬(原運点+1まで回復)
     装備明細 …… 剣、革の鎧、ザック、ザクロ石の指輪、鉄の笏(支配する者はただ1人であるべし)、銅の鉱石の塊、つるはし、スナタ猫の牙(11匹の龍の模様と8個のリンゴの種)、女神コランバラの石像、剣歯虎の鉤爪、ヘヴァーの角笛(邪悪な敵の技術点-1)、宝石入りの首飾り、回復の水薬(体力点が最大6点回復する)透明人間マント耐凍薬、宝珠(21は支配者の支配をあらわす数字)、雪靴
     メモ …… ガーリンを呼び出す場合は100へ進む、ジュジャのいる場所は『地面じゃないけど支えられる、水じゃないけど流れられる、空気じゃないけど噴き出せる、火じゃないけど爆発できる』場所、ジュジャを探す詩『迷うべからず、さまようべからず、常に真ん中の道を行け』、乙女の谷(208ページ『時間のない国――入るには樫の木を、出るにはリンゴの木を――』)、3つの扉に行き当たったら木の扉から入る
     RIP … 1.死の湖で触手に湖底へ引きずり込まれる(109)、2.クリア必須アイテムをサイコロ運によって素通りさせられる(393)

    * * * * * *

     ゲームブックプレイ日記『仮面の破壊者』をここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
     この作品における批判の概要については、このページで述べていますので、ここではプレイした感想を述べたいと思います。
     まず、このゲームブックプレイ日記の冒頭で述べた「このゲームに成功できるという保証はない」というフレーズが「まったく新しい出来事」かどうかを本書以前(FF01〜FF22)と本書以降(FF24〜)で比べてみることにしましょう。例えば、FF09(雪の魔女の洞窟)では「成功の保証はない」、FF15(宇宙の連邦捜査官)では「君が成功するかどうかは、まるでわからない」とあります。また、FF30巻(悪霊の洞窟)では「成功の可能性はきわめて低い」とあり、どれも同じに思えました。少なくとも私の読解能力では「このゲームに成功できるという保証はない」というフレーズが「まったく新しい出来事」だという意味がさっぱり分かりませんでした(毎度のことですが、意味の分かる方は掲示板までお願いします)。
     このゲームブックを初めてプレイした当時は、ただ各項目番号を進めて戦闘やその他サイコロを振る場面を主とした読み方だったために、背景の想像に欠けている面が多々ありましたが、こうして挿絵も載せるくらいじっくり読むと、味わい深いものを感じることができました(たった3パラグラフで死ぬ場面も再現しました)。また、道中に出てくる品物も、21世紀に入ってから20年以上経過している現代でも手に入らないものばかりで大変魅力的でした。
     しかし、これらの魅力的な描写も、理不尽なシステムの構造により台無しというのもまた事実です。ロビンの他の作品(電脳破壊作戦、恐怖の幻影)も理不尽なシステムなのか、あるいはこの作品だけ理不尽なのかはわかりませんが、いつかプレイしてみたいとも思います(以前国会図書館でFF18巻とFF28巻を読んだことはあるのですが、国会図書館の閲覧システムの関係上ゲームブックプレイ日記を書くのはそう簡単なことではないことに気づきました)。
     本プレイは社会思想社『仮面の破壊者』(邦訳版)を基に著述しましたが、ストーリーの展開上、一部各能力点やアイテムの得失などが前後している場合があります。また、一部設定を変更している場面があります。以上の点をご理解・ご了承・ご容赦くださるようお願い申し上げます。




    2024/05/04


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