フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)
【第59回】大喧嘩講和条約
アレクは、ルテティア城で起きた出来事を、アルベルトに報告した。
「アレクよ、無事に終わったようだな。」
「はい。そして、ユーグ王子も連れて参りました。」
「公爵、お気遣いありがとうございます。」
「そして、ゲクラン侯爵もそのままお返しします。」
ゲクランにかけた、舌を噛み切れない魔法も解いたらしいわね。
途端に、アルベルトは怖いほど真顔になってユーグとゲクランの方を向いた。
「さて、この戦争の終結をせねばなりませんな。ユーグ王子、改めて貴国との講和をしたいと存じますが、如何でしょうか。」
「ええ、勿論です。アレシア王国としては、バイエルン王国との講和を望みます。」
「承知しました。これについて、意見のある人は挙手を願います。」
間髪を入れず、アレクが挙手をした。
「この際、講和条件まで詰めるべきと考えます。」
「講和条件? 元々講和自体、バイエルン側から提案があったこと。これを機に相互不可侵とすれば、それで良い話ではないか?」
ユーグの返答に、アレクは不満げな表情を浮かべた。
「王子、お言葉ですが、仮にもバイエルン王国側は講和条件の提案を一度は拒否されたのですよ。覚えていらっしゃいますよね。バイエルンからの親書を、偽者とは言え『国王』に破り捨てられたことを。」
ここで、ゲクランが口を挟んだ。
「おい、お前ら、調子に乗るなよ。」
ゲクランがその言葉を発するやいなや、ザウアーがゲクランの元につかつかと歩み寄る。そして、ゲクランの胸倉をつかんだ。
「調子に乗っているのはてめえだろうが。今度アレクの話の腰を折ってみろ。てめえの首を折ってやるからな。」
ゲクランもザウアーに見張られていたのが効いていて、ザウアーに対しては萎縮しているようだったわ。
「よせ、ザウアー。」
「けっ。」
ザウアーはゲクランをつかんでいた手を離し、ゲクランを睨みつけながら戻って来た。
「アレク。邪魔してすまん。話を続けな。」
「はい。まず、王子は、今の状況を理解していますか?」
アレクの主張としては、もし、アレシアの講和条件が相互不可侵のみとするならば、バイエルン軍をアレシアに寄せるべきらしいわ……って、アレク、まさか?
あたしは思わず口を挟んだ。
あたしの言葉に、クリスとリーゼルも続けた。
「アレク、あなた、恩を仇で返す気なの?」
しかし、アレクは引き下がらなかった。
「ロジーナには個人的に感謝している。だが、これは国同士の争い。そういった私情が入っていたら講和は成り立たない。武力というのは、発動されないことに意義がある。一度発動させてしまったら、それを止めるには、何らかの代償を支払わなければならない。現に、アレシアがバイエルンに攻め入って、バイエルン王国の国民が死んでいる状態にある。これを、突然『相互不可侵になりました』なんて言われても、バイエルンの国民は納得しない。そうしたら、国内で暴動が発生して、バイエルン王国の存亡に関わることになる。」
じゃあ、ロジーナ達を殺すってこと?
「何よ、この人でなし! 軍人よりも前に、人であるべきでしょ!」
あたしの口から反射的に、アレクに対する抗議の言葉が出ていた。あたしの心から何かしらの感情が爆発していた。咄嗟の出来事に、本陣にいる全員が沈黙し、誰も口を開こうとはしなかった。
「あんたがそういう口を利けるのも、誰のお蔭だと思っているの? あたし達だけの力じゃ、あんたを助けられなかったから、敵国の兵士であることを承知で、ロジーナがあんたを治療したんじゃないの。あたし達があんたを助けるために、どれだけ苦労したか分かっているの? 聞くだけ無駄よね。分かっていないから、そういう口を利くのよね。こんなことなら、助けなければよかった。
あんたなんか、そのまま死んじゃえば良かったのよ!
」
言っているうちに、自然と涙が頬を伝う。それでも、あたしの言葉は止まらなかった。涙声になりながらも、アレクに対する言葉は自然に発していた。クリスも、リーゼルも、ソフィーも、パウラも、バイエルン本陣内にいる女性は、皆すすり泣いていた。
「でもね、あの矢はあんたにじゃなくてあたしに向けられたものだったから、本当はあんたじゃなくてあたしが死ぬ運命だったのよね。あなたの言う通り、あたしはこれ以上アレクの軍にいてはいけないわ。あたしはエルフの村に帰ります。アレク、今までありがとう。あなたと一緒にいられた日々は幸せでした。あなたに助けてもらったこの命、大事にします。さようなら、愛した人。」
そう言って、あたしは席を立った。王国の軍人とエルフの村人の恋は、所詮叶わなかったのね。でもね、これでいいのよ。アレクと結ばれたって、どうせアレクは殉職するんだから。愛する人を失う悲しみが、少し早まっただけよ。本陣から立ち去り、エルフの村へ帰ろうと……え、足が動かない。どうして? 考える暇もなく、あたしの目の前が真っ暗になった。
目を覚ますと、あたしは本陣2階のベッドにいた。周りにはクリス、リーゼル、そしてソフィーがいた。
「目が覚めた?」
リーゼルがあたしに優しく微笑みかける。何であたしは、ここにいるんだろう。クリスとソフィーが話を続けた。
「エル、あなたは気を失ったのよ。相当疲れていたみたいね。パウラ隊長の指示で、あたし達3人であなたを2階まで運んだのよ。」
「アレク隊長が下で待っているわよ。あなたに謝りたいんだって。」
アレクがあたしに謝る? ああ、思い出したわ。講和会議中、アレクと大喧嘩したのよね。
クリス・リーゼル・ソフィーに支えられながら階段を降りると、階下にはアレクが待っていた。アレクは沈痛な面持ちをしていた。
「エル、さっきは言い過ぎた。ごめん。ユーグ王子への講和条件を、最後までみんなと一緒に聞いてくれないか。」
えっ、講和はもう成立したんじゃないの?
「あなたの体調が良くなるまで、講和会議は一時中断って、公爵と王子の話し合いで取り決めたの。」
パウラが説明してくれた。
「そうなのね。ありがとう、クリス、リーゼル、ソフィー。そして、他の皆さんも、ありがとうございます。」
みんな、あたしを待っていたのね。じゃあ、アレク、あなたの話を聞かせて。
「エルよりは少し長く王国の軍にいる者の立場から言わせてもらうと、さっきの話は『もしアレシア国とバイエルン国が一旦交戦してしまったら、たとえ個人的には味方であったとしても国としては敵どうしになってしまう』という意味だったんだ。無論、私だってロジーナ達を殺したくはない。そんなことをしたら、国として勝ったとしても、私自身としては破滅を意味する。それこそ、エルの言う通り、私は人でなしになってしまう。だからこそ、ユーグ王子には『相互不可侵』以外の講和条件を呑んでもらう必要があるんだ。その流れでユーグ王子に提案しようと思っていた矢先に、エルがロジーナをどうこう言うから、講和条件の流れが悪くなって、それでつい私も感情的になってしまったんだ。私も、これまで軍の多くの仲間が戦死してきた中を生き抜いてきたんだ。それを全否定されるとちょっとね……」
アレクの話を聞いているうちに、また、あたしは涙を流していた。さっき流した涙は悲しみと絶望の涙だったけれど、今度の涙は、お互いの誤解が解けた嬉しさと安堵感の涙だった。そうだったのね、アレク。こちらこそ話の大事なところで余計な口出しをしてごめんなさい。
「あたしがゲクラン侯爵だったら、とっくにザウアー将軍に殺されていたところね。」
あたしは泣き笑いながら言った。忽ち、ザウアーは困惑の表情を見せた。
「お嬢ちゃん、何でオレに振るんだよ!」
バイエルン側の人たちはみんな笑っていた。
「もういいや。お前ら、笑いたければ笑え!」
ひとしきり笑った後、アルベルトが口を開いた。
「さて、話を再開しようか。2時間ほどの休憩を得られたと思えばよい。ユーグ王子もアレクも、お互いに考えがまとまったように思える。」
「恐れ入ります。ユーグ王子、先程のエルと私の言い争い、何と見た。アレシア国王が私からの最初の講和条件を呑んでいれば、この言い争いは起こらなかった。我々だけは、この戦争犯罪人が本物のアレシア国王ではないことを知っている。だが、戦争犯罪人はアレシア国王の偽者でしたという説明では、バイエルン王国の国民は勿論のこと、アレシアの国民ですら到底承知しないことは火を見るよりも明らかですぞ。」
アレクの提案した講和条件は次の通りだった。
相互不可侵(これはユーグ王子も示していた)
バイエルン王国への、この戦争に対する公式的な謝罪
バイエルン王国へ、ディジョン地方及びロレーヌ地方の領土割譲
バイエルン王国へ、総額100億マルクの賠償金
互いの俘虜の交換
互いの国に協力した同国人に対する一切の処罰の禁止(処罰しない、処罰させない)
互いの国による貿易の促進
この講和条約は、バイエルン王国女王及び、アレシア王国王子の間で調印
「これだったら、私も納得します。如何でしょうか、ユーグ王子。」
「アルベルト公爵は、アレク卿の講和条件をどう見ますか。」
「アレクの示す通りで結構です。今アレクが口頭で述べた内容にして、仮の講和条約を締結したいと思いますが、如何でしょう。」
「ということだが、どうかね、アレク。」
「公爵がこの戦に関する全権代理を受けている以上、公爵の決定には従います。ただ、賠償金の額は今ここで決めていただきたい。100億マルクが高額であるならば、いくらならば出せるのか。ジパングの江戸時代ではありませんが、アレシア王国を生かさず殺さずバイエルン王国に支払える額は一体いくらなのですか、ユーグ王子。」
「明日ですね、承知しました。」
アレクは漸く合点がいったような表情を取り戻した。いつものアレクの表情に戻ったわ。なんか、初めて見る感じ。
「ところで、アレク。講和条約が成立したら、一度城に来るが良い。そなたに良いものを渡そう。」
「楽しみにしております。」
何だろう? ユーグがアレクに対してだから、悪いものではないことは確かなんだろうけれど……。
「それでは、賠償金を除く部分の講和条件はこれにて成立する。賠償金については100億マルクで成立見込とし、明日ユーグ王子との再協議により正式に決定する。この講和条約は、アレシア王国ユーグ王子とバイエルン王国女王陛下代理人アルベルトとの双方の合意によって調印する。」
アルベルトが高々に宣言した。
これで、ロジーナもアネットもヴァレリーもニーナ王妃も、ううん、双方の国民がこれ以上血を流さずに済むわ。そう思った途端、あたしは気が抜けてまた意識を失ってしまった。
あたしが目を覚ましたのは夜だった。また2階……いいえ、ベッドの側にはアレクがいたわ!
「エル、気がついたか。」
アレク? どうして?
「他の3人は2階で寝ているよ。エルだけ私と一緒に寝ることになった。今日は色々な意味で修羅場だった。中でも、最大の修羅場は偽者との戦いではなくエ……」
アレクがその先を言う頃、あたしはもうアレクの腕で眠っていた。吉沢秋絵がこの光景を見たら、羨むに違いないわ。知らないけれど。
因みにこの条約は、アレクとあたしの大喧嘩を経て締結したことから、通称「大喧嘩講和条約」と後世に伝えられることになる……って、これじゃアレクとあたしの大喧嘩が晒されることになるじゃない! もう少しましな通称はなかったの、管理人。恥ずかしいわ。(管理人注:ありませんでした。)
冷静になって考えてみれば、ロジーナはアレクの命の恩人で、アレクはニーナ王妃の命の恩人かつ故アレシア国王の仇討ち後見人の恩義があるのよね。ユーグがアレクの講和条件を呑まなかったら、社会的通念上ユーグが非難されるのは明らかよ。周りの国中から冷たい目で見られる前に、同国内でユーグが暗殺されることだって起こり得る。じゃあ、これって、承諾前提の講和条件じゃないの。なあんだ、そうだと分かっていたら、あんな大喧嘩する必要なんてなかったわ。もう、アレクったら。
バシーン!
「痛っ、何で腕を叩くの?」
昨日の大喧嘩が嘘みたいね。一瞬でもエルフの村へ帰ろうとした自分が信じられないわ。
今のアレクとあたしのことを、雨降って地固まる、または……あれ、犬も食わない喧嘩って、何だっけ? 教えて、クリス、リーゼル、ソフィー。
「知りません! 知っていても、エル、あんたには絶対に教えないから!」
3人は異口同音に答えた。『なぜ?の嵐』を3人同時に歌っていたとき同じくらい息が合っていた。何よ、ケチね。
ルテティア城に行く前に、みんなの話を聞いてみた。まずは、アルベルトから。
更に、アルベルト公爵は続けた。
「アレクよ。ユーグ王子がエル殿とアレクの仲を羨ましがっていたぞ。あれだけお互いの意見がぶつかり合って、それでいて回りがサポートしてくれる。王子がアレシア国王に即位した際には後の有事平定の手本にするとな。ユーグ王子がアネット殿の逆鱗に触れたときの対処法を、2人の言い争いから学んだそうだ。」
「ルテティアを目前にしてオレの出番が全くないとはなあ。それはそうと、アレク。昨日お前らがあんな大喧嘩をするもんだから、オレと一緒にいた配下たちがすっかりビビッちまって、解散した後『大将、怪我はありませんでしたか?』って言われたんだぞ。オレは何もしてねぇしされてもいねえって。オレがこんなに動揺したのは、殿下に打ちのめされたとき以来だぜ。いや、あの時の方がまだましだった。理由はどうあれ、あれはお前が悪い。お嬢ちゃん方を大切にしろよ。さもないと、罰が当たるぞ。」
ザウアーったら、意外にビビりなのね。パウラはにこやかな表情をしていた。
「アレクもエルも、仲直りできてよかったわね。戦が回避されたなら、それが一番よ。実の姉を手にかけるという事態を回避できて、本当に良かったわ。」
最後はフォルゲン伯爵からよ。
「アレクよ、ご苦労であった。わしは先にバイエルン王国に帰る。
また影が薄いとか陰口を叩くなよ。
公爵を迎える準備をしなくてはな。」
「フォルゲン伯爵、お気遣いなく。私は内乱の処分を待つ身ですから。」
そう言えば、アルベルトも死刑の執行猶予期間中だったわよね。
良かったわ。確かに、戦場に男女はないけれど、現場を支えるスタッフ達の身の安全は確保しなきゃね。
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2022/05/22
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