フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第128回】アイビスの懇願

 あたし達は突如現れた存在に対し、危険信号を発していた。



 ついに現れたわね、アイビス! しかも、あんたから来るなんて、探す手間が省けたわ。



 見張りの門番の反応も速かった。
「アレク隊長、殿下に報告してきます!」
「うむ、よろしく頼む。」
 兵士がバイエルン城に駆け込むのを見届けながらもあたし達はアイビスに詰め寄った。
「どうせ8国王の血は神の手に渡ってしまったんでしょう。今更あんたを殺してもフィンブルの冬は止められないことは分かっているけれど、それでもあたし達はあんたを殺したくてたまらないの。」



 相当な覚悟はあるのでしょうね。ならば試させてもらうわよ。アレクがワイヤーロープを取り出し、それを受け取ったあたし達は即座にアイビスを縛り上げた。このワイヤーロープにはアレクが予め魔法をかけてあって、魔族が魔法を使って抜け出そうとしても抜け出せないようになっているの。そして、仕上げはリーゼルよ。リーゼルがウィザードロッドに魔力を込めて、アイビスの目の前に突きつけたわ。ウィザードロッドはあたし達に対しては普通のロッドに過ぎないけれど、アイビスのような魔族にとっては絶大な力を持つのよ。何と言ってもリーゼルは神官戦士なんだから。
「キャッ!」
 リーゼルがウィザードロッドをアイビスに近づけただけで、アイビスは気絶してしまった。白目を剥き、鼻水を出し、口から泡を吹き、更には失禁までしていたわ。女として絶対に見られたくはない姿をさらけ出していることは間違いなかった。
「ねえアレク、アイビスって、本当に覚悟を決めてきたんだと思うわ。あたし達がアイビスを縛り上げてからアイビスは一切抵抗していないのよ。アイビスだってこんな姿をあたし達にさらけ出したいとは絶対に思わないわ。」
 あたしの言葉にアレクも異存はないようだった。アレクはアルベルト達のもとへ駆けつけることにし、あたし達四人はアイビスの化粧直しをすることにしたわ。厳戒態勢は敷いているものの、アイビスの戒めは解いても良いだろうとアルベルトも判断したようね。
 城内の一画にて。
 フォルゲンもザウアーも驚きを隠せなかったみたい。それはそうよ。これから魔族と戦おうっていうときにその魔族が現れたのだから。
 しかし、リヒターはアイビスを物珍しそうに見つめていた。



「実は、そのロキ様の使いで来たのよ。バイエルン王国に、昔魔界に来たことのある人がいるから、その人を頼れって……。」
 次の瞬間、アイビスとは違う声が城の一画に響いた。



「ロキ様?」
「ロキ殿か? 50年ぶりじゃの?」
 ロキは、アイビスよりもリヒターに驚いたようだった。
「ん? そなたは私と会ったことがあると?」
「左様。尤も、50年前は使節団の中で再も若輩じゃった儂も、もういつお迎えが来てもおかしくない年になったがのお……」
 確かに、50年前のあたしも今のあたしもそんなに変わらないわ。でも、人間は50年経つと変わるわよね。
「そなたはリヒター殿か?」
「そうじゃ。50年前の儂とはだいぶ違うと思うがの。」
「リヒター殿がいてくれるなら、話が早い。単刀直入に言うが、我ら魔族は、現在危急存亡の危機に瀕しておってな。」
「50年前も同じようなことを言ってはおらんかったかの?」
「そのときよりも、状況は深刻だ。魔界……いやニブルヘイムに、突如神の軍勢が押し寄せてきた。」
 この先は長くなりそうだから、箇条書きにするわ。

  • 人間界から見ると、神と魔族は同盟しているように見えたが、魔族の族滅を防ぐため、一時的に相互不可侵協定を結んでいるに過ぎなかった。
  • アイビスが8国王全員の血を抜いたのも、魔族が神に協力していたからではないのかというアルベルトからの指摘があった。
  • 表面上はそうであるが、フィンブルの冬を起こすための触媒が揃ってしまったことで、神々が強硬手段に出てきた。
  • ロキの言い分としては、人間界にフィンブルの冬を起こさせる気など毛頭なかった。
  • 魔族が神に協力していたのは、魔族の族滅を防ぐこともさることながら、人間界に警告を与えるためでもあった。
  • 仮に、魔族が人間界にフィンブルの冬を起こすのであれば、人の血は必須ではないし、そもそも人間界にフィンブルの冬を起こしても魔族に何の利点はない。
  • その警告とは何かとリヒターがロキに質問する。
  • ロキによると、どうも神買いは、力を蓄えた人間たちを一度滅ぼそうとしているらしい。
  • この50年間、魔界はニブルヘイムと統合し、様々な問題を不断の努力で解消してきた。だが、最近、ニブルヘイムや神々の住むヴァルハラに直接干渉してきた者達がいる。
  • その者達とは、人間界では「マルクス教徒」とか呼ばれている者達である。マルクス教徒は神や魔界を自由に往来する手段があったようである。
  • マルクス教徒がトールやウルを唆し、現在魔界は内紛状態にある。この内紛を利用し、バルドルら神々もニブルヘイムに干渉してきた。
  • アイビスは、実はトールの命令によって行動していた。ロキが知ったのは最近のことだが、ニブルヘイムを統括する者として、知らなかったでは済まされない。
  • そのトールは、神々からニブルヘイムの統合を約束されたいたらしいが、バルドルやウルの裏切りに遭い、討伐されてしまった。
  • 神々は、人間など取るに足らない存在だと思っていたようだが、力を蓄えた人間達に討伐された神もいる。
  • 結果的に、神は人間達を警戒することとなった。
  • マルクスの教唆とは関係なく、本気で人間を一度滅ぼすつもりかもしれない。

  • 「つまり、神々も当初はフィンブルの冬を起こすつもりはなかったと?」
     アルベルトが再度質問した。でも、勝手な話よ。散々人間界を引っ掻き回して、今更「そんなつもりではない」なんて、自分勝手過ぎるわよ。

  • 人間界が戦争によって荒廃すれば、神々とて力を殺がれてしまう。これはニブルヘイムも然りである。
  • それならば、益々神は人間と戦う利点がないことにはならないかとリヒターからの指摘があった。

  • 「先程も言ったであろう。神を倒す力を蓄えた人間がいると。実際、フレイやヘイムダルはそなた達が斃したわけだ。」
     と、ここでアレクが反論する。
    「私達だって斃したくて斃したわけではない。向こうから攻撃されたから、自衛のため戦った。これは正当防衛だ。」
    「アレク、何を隠そう、神々の脅威とはそなたのことなのだ。」
    「ならば、私の命だけを全力で取りにくればいいだけの話であろうが。なぜ人間界全体を滅ぼそうとする?」
    「今後もそなたのような、神を倒す力を持った人間が現れる可能性もある。神々にとっては、脅威以外の何物でもないのだよ。」
    「いやいや。勝手に宣戦布告をしてきたのは神の方だろうが。神が人間に倒されたからって、人間を滅ぼすというのは道理が通らないだろう。」



     それじゃあ、神々の警告っていうのは「神に絶対服従する人間が最近生意気にも反抗しているから元通り服従しなさい。さもないとフィンブルの冬を起こすよ。」っていうことなの? 神々って、無私無欲かと思ったら、自分たちのエゴを剥きだしにしているじゃないの。
     そう言えば、神々って、自分たちの横柄な振る舞いを人間に返されたときにキ○ガイみたいに起こっていたわね。それも、そんな○チガイみたいな理由なの?
    「さっきから黙って聞いてりゃ、随分身勝手なことを言ってくれるじゃねえか。これだから、神ってのは信用できねぇんだよ。」
     ザウアーの言う通りよ。

  • 人間界では戦争が頻繁に起こるが、人間界が荒廃すれば神も魔族も力が弱まる。ヴァルハラも以前よりは力を失っているのは事実である。
  • その戦争の火種を作り、魔界・神界双方に干渉、教唆してきたのがマルクス教である。マルクス教の邪な志が、結果的に魔族と神の双方の弱体化を招いた。

  • 「マルクスの奴らめ。自分達で神と魔族を引っ掻きまわしておいて、挙句の果てには自分達の力まで失いおったか。」
     フォルゲンがため息をつく。
     これはある意味最悪のパターンね。誰も得をしない。尤も、戦争の大半の結末はそうなるけれどね。

  • ロキがアイビスをリヒターのもとに遣わせた理由は、ニブルヘイムにアレク達を派遣して欲しいからである。
  • オーディンは、バルドルら強硬派に拘束されたとの情報が先程ロキの耳に入った。
  • 神も強硬派ばかりではないし、一枚岩でもない。しかし、強硬派が力を持てば、人間界にも悪影響を及ぼすであろう。
  • 現に、フィンブルの冬の触媒は神の手元に揃ってしまい、残るはそのための“儀式”を実行するのみとなった。
  • その“儀式”にかかる時間は分からないが、少ないと見た方がよい。

  •  となると、答えは一つしかないわね。



    「うむ、魔界へ行ったことのあるじいが一緒ならば心強い。私も一緒に行こう。」
     こうして、あれよあれよの軍隊の編成となったわ。
     魔界へは、アレクとリヒターを筆頭に、アルベルト、フォルゲン、ザウアー、そしてバイエルンの親衛隊で……って、あたし達はどうするの?
    「エル、リーゼル、クリス、ソフィー。君達は留守番をしていてくれ。」
     どうしてよ、アレク!
    「君達は親御さんから預かっている身だからな。何かあったら取り返しのつかないことになる。」
     それって、あたし達の安全を思ってのことなの? それとも、自分の爵位の保身のためなの?
    「勿論、君達の安全を思ってのことだ。」
    「それなら心配ないわ。だって、あたし達はもう正規兵だから。自分で責任を取れる身分よ。」
    「……」
     あたしは、アレクにどこまでもついてゆくわ。
    「しかし……。」



     そして、リーゼルとクリスがアレクに歩み寄る。
    「それに……」
     リーゼルとクリスは、アレクに何やら耳打ちした。その言葉でアレクは、リーゼルとクリスに完全に言い負かされてしまったようね。
    「案ずるな、アレクよ。もし、想像以上の危険が彼女達の身に降りかかるようであれば、彼女達はこのロキの名に賭けてでも人間界に送り戻そう。」
     バイエルン王国で魔界の危険を知っているのはリヒターだから、あたし達はリヒターの指示には従うようアレクから注意があったわ。



     これにて、今日は解散となったわ。
     それから、リーゼルママのお店で東洋から珍しい武器が手に入ったとのことで、一度店に立ち寄るといいとアルベルトからの伝言があったから、そうしましょう。どの道、リーゼルやクリスやソフィーも魔界に行くことを伝えておかなければならないから。



     急展開? そんなのいつものことじゃない。
     でも、今度行くところは異世界だから、これまでとはちょっと違うかも……。


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    2022/09/12


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