フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第77回】王族の哀しみ

 あたし達は、ラツィオ前国王と対峙していた。前国王は、昨日よりは落ち着きを取り戻しているようだった。



 そう言う王の拳は震えていたけれど、それでも前王の立場として言うべきことはきちんと言っていたわ。
 アレクは一言も口を開かなかった。こういうときは、何も言わないのが正解よね。
「子供たちの父としては誠に遺憾であるが、王族として今はルーシ帝国の脅威に対処せねばならぬ。」
 前王の隣に座っている前王妃がすすり泣いていたわ。それはそうよね。
「ところで、卿達はバイエルン王国の使者であったな。そなた達がラツィオを訪れた理由はビアンカ王妃から聞いておる。王妃はエドアルド……いや国王の身に危険が迫っていることをアルベルト公爵から聞いておったようじゃ。その、アルベルト公爵から聞く手段というものを貴殿はお持ちかな。」
 とそのとき、アレクの「携帯電話」が鳴った。アルベルトったら、あたし達の会話を聞いているみたい。でも、あたし達が何をしているかまでは分からないみたいだから、「ここぞ」というタイミングで鳴るようにセットしてあるんでしょうけれどね。



 そして、アレクは前王に「携帯電話」の使い方を説明した。前王といえど、こんな機械に触ったことなんかないから、初めは戸惑うわよ。



 前王ジルベルトと公爵アルベルトとの会話内容を例によって箇条書きにするわ。

  • アルベルトは妹ビアンカにも話した内容をジルベルト陛下にも話した
  • ルーシ帝国との共闘には前王も賛成で、山道の復旧を急ぐよう手配する
  • 混乱を避けるため、フィンブルの冬は国民にはまだ知らせないでおく
  • 王家の血を抜かれたのはクラフク、バイエルン、アレシア、ラツィオと、これで半数になる
  • アルベルトからジルベルトへ、アレク達がラツィオ王国の隣国レオンへ渡航する許可証発行の申し出がされる
  • ジルベルトはそれを承諾し、加えてジルベルトからの親書もアレクに持たせることになる
  • レオン国王にはアルベルトから直接(携帯電話で)話をする予定である

  •  これまではバイエルンを中心に近隣諸国へ行き来するのが主な行動パターンだったけれど、ここからはしばらくバイエルンから離れた場所を旅から旅へと訪れるパターンだわ。作者さんの言っていた「長旅」とはこのことだったのね。
    「アレクよ、この“携帯電話”とやらは便利じゃのう。」
    「ええ。離れているところでも話ができますから。しかし、相手の都合を考えて使わなくてはなりませんがね。アルベルト公爵に頼めば、陛下の分も作ってもらえるのではないでしょうか。」
    「うむ。使い方をまず教えてもらわねばならぬが、バイエルンに戻った暁にはアルベルト殿によろしくお伝えくだされ。」
    「承知いたしました。」



     はなおしって何?
    「エル、これは“はなおし”ではなく“かおう”と言って、ジパングの公家や武家などが書いた文書の最後に書いたサインのことだよ。現代のジパングでいうハンコのようなものかな。」
     ふうん。
    「アレク卿、すまぬが、上の階の王妃から許可証をもらってきてはくださらぬか。その間にわしは親書をしたためるのでな。」
    「承知いたしました。」
     あたし達は一瞬で3階の王妃の間へ。王妃の顔は曇っていた。それはそうよね。
    「アレク卿、まずは私の夫、いえ、国王の仇を討っていただき、ありがとうございます。これが許可証です。どうぞ。」
    「はっ。」
    「ところで、今兄と話ができますか?」
    「少々お待ちください。」
     アレクの方からアルベルトに電話をかけるのは今回が初めてだわ。向こうからかけてくるのだから、こっちからかけるのもアリよね。



     エリーにせよビアンカにせよ、国王の配偶者となった以上、国王亡き後は自分が王政を握るということよね。これって気苦労が絶えないことかもしれないけれど、それも天命と言えば天命よ。ビアンカの息子が成人して新国王になるまでは、ビアンカが女王として国を治めなくてはならないわ。愛する人を亡くした哀しみの感情を思い切り吐き出せたらまだ救われるわ。でも、それすらままならない身分なのよね。今はビアンカを一人にしておきましょう。気持ちの整理をする時間は誰にでも必要よ。
     あたし達は、ビアンカをそっとしておいて2階へ戻った。



     アレクはジルベルト陛下から親書を受け取った。
    「道中気をつけてな。」
    「道中気をつけて。」
     先程まですすり泣いていた前王妃も、少し落ち着いたようだった。ジルベルト前王よりも前王妃の方が辛いわよね。何しろ、自分が命がけで産んだ子なのだから。
     あたし達はラツィオ城を去り、城下町ジェノヴァに戻って来た。
     ジェノヴァでは、エドアルド王の死で持ち切りだった。亡くなった直後だからかもしれないけれど、多くの国民が故エドアルド王の死を悼んでいたわ。一年くらいしたときに、故エドアルド王の本当の評価が分かるものよ。これはジパングにも言えることだけれどね。
     エドアルド王と弟の葬儀はビアンカまたはジルベルト前王あるいは前王妃が喪主になると思うわ。あたし達はレオンへ行かなくちゃ。



     橋の近くに兵士が立っていた。
    「待たれい。規則なのでな、許可証などがあったら見せてもらおう。」
     アレクは黙って許可証を差し出した。
    「王妃様からの……これは使者殿、失礼いたした。お通りください。」
     こうして、あたし達はレオン王国の領地に入った。



     あら、この船に乗るのかしら? 確か、レオン王国に渡航って言っていたわよね。
    「エル、今はその港には行かないよ。」
    「えっ、どうして? だって、さっきアレクが渡航って言っていたじゃない。」
    「それは、誤解を招く言い方だった。ごめん。ジパングは島国だから、どこの国へ行くにも“渡航”となってしまう。だけれど、ラツィオからレオンは陸続きだから“渡航”ではなく“入国”と言った方がよかったかもしれない。レオン王国は、この港から北にあるから、そっちへ行こう。」
     アレクの言う通り、北へ行ってみると……



     あったわ。ここがレオン王国ね。北東に見えるのがニース温泉だから、山道が開通すれば、アルザスとの行き来がかなり楽になるわね。
     さあ、レオン王国に入りましょう。



     レオンの城下町を一通り訪れたけれど、特に変わったところはなかったわ。武器屋も見たけれど、残念ながら今のあたし達の装備の方が調っているわ。
     さあ、レオン国王に会いましょう。


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    2022/07/10


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