フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第63回】訓練場からの生還

 マーヤは、あたし達の姿を見た途端、安堵の表情を浮かべた。



「マーヤ、無事だったか。」
「はい。私は無事だったんですけれど、ヤコブがケガをして……。」
 これまでの恐怖と緊張がいっぺんに解けたのか、マーヤの頬に涙が流れていた。
「アレク隊長、すみませんでした。」
「そんなことより、早くここを脱出しよう。」
 ヤコブはリーゼルの呪文で幾分か回復したようだが、それでも恐怖心からか足が動かなかった。ヤコブはアレクが背負うことにし、マーヤはリーゼルとクリスとソフィーに支えられる形で訓練場を脱出した。幸いにも敵は出なかった。





「はい。」
 二人とも、フォルゲン伯爵に叱られるのが余程怖いと見え、怯えた表情を隠し切れないでいた。
 やがて、伯爵は厳かに口を開いた。
「2人とも、まず、訓練場へ行くまでに何があったかを聞きたい。」



 同い年の人が自分より先に進んでいるのを見ると、自分が後れを取っているから、それを取り戻さないといけないというその気持ちは分かるわ。でも、それは無謀よ。自分たちの手に負えないことはするべきではないわ。命を大事にしなくちゃ。



 ヤコブもマーヤも、ついにその場で泣き出してしまった。
「そうか。よくぞ無事に訓練場から戻って来た。まずはそれだけで何よりだ。2人とも、今日はもう家に帰って、ゆっくり休みなさい。」
 フォルゲン伯爵は、2人を責める素振りは一切見せなかった。
 2人が家に帰るのを見届けた後、アレクがフォルゲン伯爵に問いかけた。
「伯爵、なぜ勝手に訓練場に行ったかの理由を問い質すとか、もう勝手な真似をするな、とか、そういう一言があっても良かったと思いますよ。」
 伯爵から返って来た言葉は意外なものだった。
「アレク、卿の言いたいことはわかる。確かに、そう言うのは簡単だ。じゃが、もし、儂が感情を表に出してしまっては、2人を恐怖で支配しているに過ぎなくなる。」
「と、仰いますと。」
「仮にじゃな。もし、あのとき、儂が……



など言ったとする。この時点でもう儂の負けなのだ。」
「それは、なぜです? 伯爵の仰ることは正論ではありませんか。」
「今の言葉は、あの子たちの身を案ずるよりも、儂自身の立場を案ずることを優先しているのだ。あの子たちに何かあったら儂は爵位を剥奪されてしまうという己が保身を顕著に出していることになる。そもそも、あの子たちが勝手に訓練場に行った理由も、結局は訓練場の管理監督不行き届きによるものだ。その責めは当然儂が負わねばならぬ。儂が爵位を持っている限り、あの子たちが何をしようとも、最終的な責任は儂に降りかかるのだ。それが嫌ならば、儂は伯爵になどなってはいかんのだ。」
 それって、アレクがあたしに言ったことじゃない。それが、今度は伯爵がアレクに言う形に……。他の人はともかく、アレクだけは絶対に今の伯爵の言葉に反論できないわ。だって、アレクが自分で言ったことなんだもの。穏やかな、それでいて確実にアレクを論破する伯爵の口調にアレクは絶句した。
 今まさに、アレクはかつて発した言葉がそのまま自分に返ってきているのね。あたしも言動には気をつけなくちゃ。
「それにな、あの子達とてバカではない。儂が言わなくても、あの子達は訓練場の怖さを身をもって知ったことであろうし、二度と自分たちの手に負えないような無茶なことをしてはいけないのは、骨身に沁みていることであろう。ならば、儂が態々言う必要はあるまい。儂があの子たちに余計なことを言えば言うほど、あの子たちは儂の目の届かぬところで何かをするようになる。そうすると、今度こそ本当に取り返しのつかぬことが起こり兼ねん。」
「伯爵のあの子たちに対する思い、肝に銘じます。」
「うむ。他に、訓練場で変わったことはないか?」
「そう言えば、コンバットエンジェルがいました。一応、仕留めましたが……」
 アレクのその言葉を聞いた途端、俄かに伯爵の表情が変わったわ。



 ちょっと、フォルゲン伯爵、ヤコブとマーヤに対しては一言も大声を出す素振りはなかったのに、コンバットエンジェルという言葉を聞いた瞬間、アレクに対して怒鳴り声でって、どれだけコンバットエンジェルに対して敏感なの?
 伯爵のそんな顔、初めて見たわ。だって、いつも無表情なんだもん。



 そして、あたし達は城を後にし、アレクの家に向かった。
「今日は、論功行賞とかで疲れたなあ。休もうか。」
「は〜い。」
 アレクの家には、ベッドが5つあるのよ。何でかはもうわかるでしょ? そう、その通りよ。
 あたし達がアレクを取り囲むようにして寝たことは言うまでもないわ。

「みんな、おはよう。」
 あたしはアレク達に朝の挨拶をした。





 もう伯爵のところにいるのぉ。
 相変わらずこのゲーム、展開が早いわね。


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2022/06/06


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