フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第61回】アレクの陞爵(しょうしゃく)

 アレクは、フォルゲン伯爵に声をかけた。
「おお、アレク。戻って来たか。」
「はい、つい先程。」



「陞爵……ですか。」
 アレク、「しょうしゃく」って、何なの?
「しょうしゃく(陞爵)とは、簡単に言うと『伯爵などの爵位の地位を得る』という意味だよ。『陞』が難しかったら『昇』と言い換えても構わない。アルベルト公爵、フォルゲン伯爵、ラインマイヤー子爵、ゲクラン侯爵など、爵位にも色々と地位があるけれど、爵位を得られたらいつでも女王陛下と会える身分になれる。」
 じゃあ、大出世じゃないの、アレク。このプレイ日記を始めてから3年経つけれど、アレクもバイエルン王国には必要不可欠な存在になれるんでしょ。何で、そんな顔をするの? 嬉しくないの? 「しょうしゃく」は。
「ピラミッドも高いところほど落ちるときには痛いのと同じで、爵位を得たからには責任が生じる。ジパングのトランプゲームの『大富豪(大貧民)』も、大富豪が『都落ち』すると、大貧民に転落してしまうからね。」
「卿らしい例えだな。だが、心配ない。儂も、初めて爵位を得たときは、少し怖かった。だが、そんな私も一応伯爵を続けられているからな。」
 そうよ、アレク。影が薄くたって伯爵になれるんだから。
「ん? エル殿、何か言ったかな。」
 あ、いえ、何でもないです……。



 さあ、いよいよアレクの「しょうしゃく式」ね。アレクだけだと思っていたら、リーゼルとクリスとソフィーとあたしまで玉座に呼ばれちゃった。まあ、何も疚しいことはないから、多分いいことで呼ばれたんだわ。



 ここで、女王陛下がフォルゲン伯爵の話を遮った。
「う〜ん、そもそも、拝謁(はいえつ)って何だっけ?」
「拝謁というのは、身分の高い人に会うのを謙(へりくだ)って言う言葉ですが、そのようなことも知らずに女王陛下をなさっていたのですか……」



 女王陛下って、こんな人だったっけ? あたし目線で女王陛下に会うのは初めてだから、視点が変わると見方も変わるのは仕方がないけれど、……というよりは、作者の悪ノリの可能性が高いわ。
「そう言えば、私宛に手紙が届いたのよ。女王としては、国民の意見を広く取り入れなくちゃいけないのよ。」
 そう言って、女王陛下は手紙を読み始めた。



「って、それ、あんたが書いたんでしょ!」
 リーゼル・クリス・ソフィーの3人が異口同音に言った。あらやだ、どうして分かっちゃったの? 実は、前々から思っていたのよ。
「この国って、一個人の手紙がちゃんと女王陛下に届くのね。ジパングの徳川吉宗の目安箱だって、全部がきちんと吉宗に届いたわけじゃなかろうに。」
 なんで、みんな、そんなにジパングに詳しいの? ここはドイチュでしょ。
「その一夫多妻制の話は、戦争が落ち着いてから採決することにして、まずは、講和条件の話を……。」
 フォルゲン伯爵が話を元に戻した。まあいいわ。一夫多妻制の話が女王にも伝わったんだから。
「まずは、アルベルト公爵、あなたの講和条件の腕前は畏れ入りましたわ。私ではこうはいかなかったんですもの。まずはお礼を言わせてください。」
「もったいない御言葉です。」
 アルベルト公爵が女王陛下に返答した。
「尚、これに伴い、アレク卿達の尽力を称えることを……え〜と、何でしたっけ?」
 すかさず、大臣が助け舟を出す。
「論功ですよ。」



 ちょっと、この人、本当に女王陛下なの? 国王が亡くなってから久しくて、生理的欲求でも溜まっているのかしら? それとも、作者の悪ふざけ?
 以下、危なくなってきたので、大臣が女王陛下の代理で論功行賞を執り行った。バイエルン王国とアレシア王国の大喧嘩講和条約を締結させた論功について、面倒だから箇条書きにするわね。

  • アレクは準男爵に陞爵
  • リーゼルは神官戦士正規兵に昇格
  • クリスはヴァルキリー正規兵に昇格
  • ソフィーはスカウト正規兵に昇格

  •  そして、エルフの歌姫のあたしには、欲しいものを女王陛下お願いできるんだって。欲しいものは、もちろん、アレクよ!
    「エル、その気持ちは嬉しいが、私の“進呈”は、この物語をクリアしてからにしてもらいたい。必ず返答はするから。」
     え〜〜っ。今すぐがいいのに。
    「エル、楽しみは最後にとっておいた方が喜びも一入(ひとしお)よ。」
     また3人が異口同音に言った。まあ、それもそうね。
    「ところで、アルベルト公爵。」
    「はっ。」
    「アレク達へのらん……いや、論功はこれでよいかしら?」
    「はい。見事な論功行賞でした。」
    「じゃあ、これで謁見は終わりでいいですわね。」
     アルベルトはこれまでにないほどの俄かに厳しい表情になった。
    「いいえ、私はこれからが本題です。」
    「どうしたんですか、そんなに怖い顔をして。」
    「私は、この内戦の責任を取らなくてはなりません。私への処分は如何なるものなのか、勅令を賜りたい。」
     やはり、アルベルトは執行猶予つき死刑を忘れていなかったみたいね。でも、そんなこと誰も望んではいないはずよ。
     みんなが女王陛下の言葉を待つ。
    「殿下は、アルザスを解放し、そして我が国に新たな領土を獲得していただきました。アレシアとの講和条件も締結していただきました。つきましては、ロールシャッハとアルザスをお治めいただけませんか?」
     そうよ。何もアルベルト公爵が死刑になる必要はないじゃないの。だって、内乱を起こしたのは、ロールシャッハやバイエルンの国民は『偽者のアルベルト』または『魔物』という認識しかないのよ。あなた本人が内乱を起こしたなんて、誰も思っていないのよ。内乱で亡くなってしまった方やその遺族も、この結果に100%とはいかずとも60%以上は納得しているのよ。他の人の意見も箇条書きにまとめるわ。

  • ここ最近、東のルーシ帝国、西のアレシア王国との戦いで、兵士が払底している
  • 名将、それ以前に人徳者であるアルベルト公爵の処刑は、王国としての戦力の低下は勿論、それ以前に世論が許さない
  • 対アレシア戦が終わり、マルクス教徒の本拠地を根絶するには、アルベルト公爵の力が必要不可欠である
  • 軍隊のため、否、国民のためにも、アルベルト公爵は処刑するべきではないというのが結論である

  •  これだけ言っても、アルベルト公爵はそれでも腑に落ちない表情だった。もう我慢できないわ。
    「アルベルト公爵、あなたは自分が死刑になればそれでいいと思っているかもしれないけれど、それって『独善的な』『独り善がりの』判決じゃないのよ。あなたが死刑になったら、ここにいる人たちや国民がどう思うかを考えたことがあるの? あなたを良く思っていない人はいるかも知れないけれど、それは個人的な問題であって、国民のほとんどが公爵の死刑なんか望んでいないはずよ。あなたが本当に罪の意識を感じているのならば、死んでお詫びじゃなくて、生きてお詫びをしたらどうなの? その方が、国民も喜ぶわよ。」
     あ、言っちゃった……。その場にいた全員が静まり返った。
     暫しの沈黙の後、アルベルト公爵は私の方を向いた。さっきよりも一段と怖い表情だった。
    「お嬢ちゃん、いや、エル殿……あなたの言葉で私は目が覚めた。どうやら、長い間の監禁生活で、判断力が鈍っていたようだ。女王陛下の勅令通り、私はロールシャッハとアルザスを治めることで罪滅ぼしをします。そして、この内乱による戦没者への供養を年に一回は定期的に行います。」
     そして、アルベルト公爵は女王陛下に向き直った。
    「女王陛下、ありがたき御言葉、肝に銘じます。」
    「公爵、誰に向かって言っているのですか。その言葉は私じゃなくてエル殿に対して言うべきですよ。」
    「そうでした。……エル殿、忝(かたじけな)い。エル殿のその言葉、終生忘れ得ぬ。」
     そういうアルベルト公爵の目に涙が……。いつもは冷静沈着なアルベルト公爵も、罪一等を減じる判決に感慨深いものがあったようね。
     因みに、アルベルト公爵の死刑判決を一転させたのは、フォルゲン伯爵とアレクサンデル・イザーク・フォン・アイヒホルン準男爵、つまりアレクの2人の“策略”だと、アルベルトは後に言っていたけれど、あなただって死刑は嫌なんでしょ、本当は? 自分を支持してくれている人が一人でもいるならば、その人のために自ら死を選んじゃいけないわよね。
    「それでは、これにて謁見は終わりぬ。」
     大臣が宣言した。
    「待って、大臣。それじゃあ、謁見が終わらないんじゃないの?」
     女王陛下が思わず口を挟んだ。
    「陛下、御言葉ですが、終わらない場合は『未然形+ぬ』、即ち『終わぬ』と言います。今、私は『終わぬ』と申し上げました。これは『連用形+ぬ』で、この場合は完了を表しますから、『終わぬ』=『終わった』という意味なのです。」
    「何だかよく分からないけれど、じゃあこれで終わりってことでいいわね?」
    「………………」
     流石の大臣も、言葉を失ったようね。本当にこの人、頭大丈夫なの?
    「女王陛下、これにて失礼します。アレク、階下に戻るぞ。話がある。」
     そう言って、フォルゲン伯爵は急ぐように一階に降りて行った。
     あたし達も女王陛下に別れの挨拶を済ませ、伯爵の元へ……。

     はあ〜、疲れた。でも、今日はいいことがあったわ。アレクは準男爵に陞爵して、リーゼル、クリス、ソフィーも正規兵へ昇格。あたしはいずれアレクと……うふふ。アルベルト公爵への処分は死刑ではなくロールシャッハとアルザスを治めることになって、本当にみのりのある日だわ。
    「アレク、いや、アレク準男爵よ。今日はご苦労であった。今後は、いちいち儂に言わなくても、そなただけで女王陛下に会うことができる。女王陛下との会話は儂へ報告する必要はないが、女王陛下との会話の公言は差し控えるようにな。」
    「はっ。」
     アレクが準男爵になっても、アレクはアレクよ。あたしはアレクに対する接し方を変える気はないし、アレクもあたしにこれまでと同じ接し方をして欲しいでしょうし。
    「さて、マルクス教徒討伐軍は既に編成を始めており、明日には準備が整うであろう。その前に、アレク準男爵に頼みがある。」
    「伯爵、『アレク』でいいですよ。『準男爵』なんてまどろっこしい。」
    「そうか。」
     フォルゲン伯爵からの依頼も長くなりそうなので、例によって箇条書きに(このところ、箇条書きを多用している気がするのは気のせいよ)。

  • バイエルン城の地下に、兵士の訓練場がある
  • 訓練場は閉鎖していたが、対アレシア戦が片づいたので、戦闘要員を育成するために最近開放した
  • バイエルン軍で捕まえたモンスターを放っているので、訓練場というよりはダンジョンという方が正しいかもしれない
  • 訓練場に騎士見習いが2人入ったが、なかなか出てこない
  • 見習いとは言え、親御さんから預かっている身故、失うわけにはいかないので、様子を見てきて欲しい

  •  モンスターを放っているなんて、ジパングのウィザードリィ外伝Wやディンギルの『練武場』みたいじゃないの。もしかして、作者さん、ウィザードリィ外伝Wを意識して訓練場を造ったのかしら?
    「承知しました。そして、その騎士見習いとは一体、誰なのでしょうか。」



     知らないわよ! でも、ソフィーは知っていたみたい。
    「ヤコブは私達と同じ年だけれど、マーヤは今年、見習いになったばかりじゃない?」
     ソフィーが困惑の表情を見せたわ。ちょっと無謀な試みなのかも。
     バイエルン城の秘密がまた解き明かされるのね。ヤコブとマーヤっていう子たちを助けにいかなきゃ。



     あら、2階への道と訓練場への道が開かれているわ。まずは2階へ。
     2階は、女王陛下達の間になっていたわ。見方を変えると、陛下達も城という名の牢獄に監禁されているようなものよね。



     プレイ開始から61回目で、漸く女王陛下の名前がエリーって分かってよかった。名無しの女王陛下ではあまりにもかわいそうだもの。エリー女王も未亡人で、相当溜まっているのね。でも、女王陛下という身分上、亡き国王以外の男性と性的関係を持ってしまって、それがバイエルンの国民に知られたら、女王は民衆の怒りを買って火あぶりとか打ち首とか……ううん、石打ちの刑になっちゃうかも。女王陛下も一人の大人の『女』だから、性的な欲求を解消する手段を得てもいいと思うのよね。他人に迷惑をかけなければ、女王陛下が一人きりのときに性的な欲求を解消してもいいのに。
    「エル、訓練場に行くよ。」
     アレクに言われて、あたしは我に返った。まあ、エリーもニーナも性的欲望を自分自身で満たす手段を得ているのならばいいんだけれどね。



     訓練場に着くまでに3年かかったけれど、遅れた分は後で取り戻せるわ。これも天命よ。
     アレク準男爵初のダンジョンよ。


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    2022/05/29
    2022/06/02 一部修正


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