フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第56回】王妃と公爵の初対面

 あたし達は、バイエルン軍の本陣に急いだ。アルベルト達が「取り返しのつかないこと」をしないうちに、ニーナとロジーナをアルベルトに合わせなくちゃ。それが結果的にアレシア王国と交戦になったとしても、真相を知っているのと知らないのとでは雲泥の差よ。



 本陣がもうルテティア付近に移っているわ。相変わらず、アルベルト公爵はこういうことに早いのね。
「ロジーナ様、私はここまでです。アネット様にこのお手紙を渡しに行きます。それでは、失礼します。」
「ええ。よろしくね、ヴァレリー。」
 ヴァレリーはルテティアへ、あたし達は本陣へ、それぞれ向かった。
 本陣の中は相変わらずよねえ。アルベルトって、余程不祝儀敷きが好きとみえるわ。



 ちょっと待って。2階なんて、これまでの本陣にはなかったはずよ。気になるから、とりあえず2階に昇ってみましょう。
 2階では、一人の女性が料理をしていたわ。



 そうなの……って、それじゃあ、あたしはアレクと一緒に寝られないじゃないの! しかし、そう思っていたのは、あたしだけではなかった。
「♪な〜ぜに 彼(アレク)の腕で〜 眠っちゃいけないの〜」
 リーゼル・クリス・ソフィーの3人が同時に吉沢秋絵の『なぜ?の嵐』を歌い出した……って言って、このプレイ日記の読者さんで『なぜ?の嵐』がわかる方はいらっしゃるのかしら? ジパングで座布団と言ったら笑点と答える人が多いでしょうけれど、スケバン刑事と答える人も少なからずいると思うわよ。座布団を武器にする雪乃を演じたのが吉沢秋絵……って、話が脱線しちゃったけれど、ともかくアレクはあたしと寝るんだからね!
 改めて1階へ降りて、アルベルトの間へ。
「おや、あれはゲクランであろうか?」
 ニーナが呟いた。そうよ、その通りよ。折角だから、ゲクランにニーナの姿を見せてあげましょう。お城の偽王妃と違って、こちらは本物の王妃よ。



 考えてみれば、ゲクラン侯爵も偽者のアレシア王に振り回されていたのよね。でも、同情はしないわ。こいつの配下の兵士達はこいつのせいで死んでいったのだから。ゲクランに勝手に死なれたら、死んだ兵士達が浮かばれないわよ。
 さて、アルベルト公爵はあっちよ、ロジーナ、ニーナ。
「ロジーナ殿、ご無事でしたか。」
「アルベルト公爵、色々とありがとうございます。」
「ところで、そちらの方は……。」



「これは、ニーナ王妃でいらっしゃいましたか。それにしても、なぜここへ?」
「アルベルト公爵、礼を申すぞ。そなたの部下が、わらわを救出してくれたのじゃよ。」
 そして、ニーナはアルベルトにこれまでの経緯を説明した。
「ということは、今ルテティア城の玉座にいるアレシア国王は偽者で、モンスターが化けていると。確かに、そういう事情であれば、話は別です。ルテティア城への進軍はひとまず留保案件としましょう。」
「しかし、本当に王子は見えるのか。アレク達が城内に入れないようでは、モンスターを討伐することは不可能である。その場合、我々はルテティアへ寄せざるを得ませんぞ。」
 フォルゲン伯爵が手厳しいことを言った。確かに、フォルゲン伯爵の言っていることは尤もだけれど、多分大丈夫よ。
「ユーグが魔族の餌食になっておらぬのならば、まだ何とかなるはずじゃ。今はアネットからのつなぎを待つしかない。歯がゆいが仕方がないのう。」
 つなぎ……って、この人、ますますジパング出身の可能性が高くなったわ。少なくとも、ジパングに纏(まつ)わる人よ。
「じゃが、もし、ユーグが魔族に操られているのであれば、わらわ一人ででも乗り込み、たとえ魔族と刺し違えても、愛する息子だけは守る所存じゃ。」
「伯爵、王妃、ユーグ王子は本物ですよ。なぜなら、ユーグ王子だけは講和に対して肯定的でしたからね。しかし、その意見をあの偽者に一喝されて、王子が気の毒でしたよ。」
 アレクの話を聞いて、ニーナ王妃の顔つきが変わった。
「わらわの良人を殺したばかりか、わらわの息子までも手にかけようと言うのか……」
 ニーナの拳は震えていた。王妃の威厳にかけて、叫びたい気持ちを一心に堪えているのね。さぞかし辛いことでしょうね。



 そう言って、ニーナはアルベルトにひれ伏した。その目には涙が光っていた。
「王妃様、お手をお上げください。」
 王妃の土下座にはアルベルトも度肝を抜かれたようだった。一国の王妃たる者が、公爵とは言え他国の人に頭を下げるばかりではなく、土下座までするとは。
「王妃様、お気持ちはよく分かりました。実は、私もアレシア王の返答次第では、今すぐにでもルテティアと交戦するつもりでした。本陣をルテティア付近に移したのが何よりの証拠。しかし、ロジーナ殿や王妃様から事情を聞いた今、ルテティアとの交戦はしないつもりです。取り敢えずは、つなぎを待ちましょう。」



「それは良いが……罠ではなかろうか?」
 フォルゲン伯爵は飽くまでも偽者の可能性を想定しているのね。確かに、フォルゲン伯爵の見方は大事よ。でも、ただ否定しているだけじゃあ先へ進めないわ。
「仮に、罠だとしても問題はありませんよ、伯爵。そのときは、我が魔法で吹き飛ばすだけの話ですから。」
「フォルゲン伯爵、オレも一緒にいきやすから、安心してくだせえ。」
「いや、ザウアー、お前が来ると話がややこしくなりそうだから、ここで留守番を頼む。王妃とロジーナ殿の護衛はアレク達と私に任せてもらいたい。」



 ザウアーのため息に、みんな笑っていたわ。
「では、明朝テントにお伺いしますと、アネット殿に伝えてください。」
「承知いたしました。では、私はこれで失礼します。」
 そう言って、アネットはルテティア城へ帰って行った。
 そして、朝になった。
「ザウアー将軍は、ゲクラン侯爵の監視を頼む。そなたが適任だからな。」
「へいへい、分かりましたよ。」
「まあ、そう怒らないで。では、出発することにしよう。」
 ザウアーの不満そうな表情には思わず笑ってしまったわ。
 あたし達は、本陣から外に出た。



 目の前に、昨日まではなかったテントがあるわ。見るからに怪しいテントだけれど、明らかに怪しいと思われることが怪しくなかったりすることもあるのよね。



 こうして、あたし達は順々にテントの中に入って行った。
 フォルゲン伯爵似の門番がソフィーの姿を見た途端、門番はソフィーに駆け寄った。
「ひっ! 何か御用でしょうか。一応、私も招かれた一人なんですけれど……。」
 ソフィーの心の中には『自分は対象外』という気持ちがあったのかもしれない。でも、門番の反応はソフィーの思っているような悪い反応ではなかった。
「ソフィー殿、先日は配下の者が無礼を働き、誠に申し訳ない。今はルテティアも厳戒態勢故、配下の者もあのような態度を取ってしまったのであろう。とは言え、ソフィー殿の言い分はその言葉通りである。仮にそなたがロジーナ殿と無縁であったとしても、配下のそなたに対する態度は年端も行かぬ子供たちに接する態度ではない。配下の不手際は上官の私の責任である。この通り、ご容赦を。」
 そう言って、門番はソフィーに深々と頭を下げた。門番の謝罪の勢いに、ソフィーも押され気味だった。
「あ、いえ……その……、私は大丈夫ですから。いつも、ルテティアの警備、お疲れ様です。」
 そう言って、ソフィーは門番に礼をしてテントの中に入った。
 ロールシャッハ城の大臣を「バカ」呼ばわりしていた頃のソフィーとは雰囲気がまるで違うわ。ソフィーも大人になって来ているのね。


← 【第55回】へ | 【第57回】へ →


2022/05/11


直前のページに戻る

『フィンブルヴェトル物語』のトップに戻る

電源系ゲームプレイ録のトップに戻る

トップに戻る


(C)批判屋 管理人の許可なく本ホームページの内容を転載及び複写することを禁じます。