フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第50回】アレシア国との交渉

 あたし達は、再びアルベルト公爵の前に立った。



 講和に限らず、交換条件というのは一方通行では成り立たないのよね。
「アレシア側が我らの案を突っぱねる可能性もあるのでな。それで、アレク達には、使者となるついでに、ルテティアの様子も見てきてほしいと思ってな。」
 う〜〜〜ん、フォルゲン伯爵の言うことが当たりそうで怖いわ。でも、そういった「自分にとって最悪の事態」を想定するのが「正しい読み」なのよね。自分の都合の良いところばかりを考えるのでなくて、自分の都合の悪いところを考えるのも大事だわ。マイナス思考は必ずしもマイナスではないのが真理よ。
「では、行ってまいります。」
「うむ。頼んだぞ。」



 アレクは、ルテティアは初めてだったっけ? ならば、あたし達について来なさい。ルテティアへは南回りで行くのよ。北側は近道だけれど、それだとアレシア軍との激戦地区の真っ只中を通り抜けることになるわ。
「よく知っているね、エル。」
 当然よ。誰を助けるためにあたし達がルテティアへ行ったと思っているの?
 あんただけよ、知らないのは。



 あら、アルザス城への橋が直っているわ。復旧工事が行われたのね。でも、今はルテティア城へ急ぎましょう。



 ルテティア城の入口は、前回と同じように、門番が立っていた。
「待て、お前達止ま……あ!!」
「これはこれは下っ端の門番さん。またおいできて光栄ですわ。通してくれるかしら。」
 ちなみに、上のソフィーのセリフだけれど、赤字の部分は誤植ではないわよ。わ・ざ・と。誰がこんな嫌な奴に逢いたいものですか。
「この小娘が。てめえのせいで、俺はあの後フォルゲン似の上官にぶん殴られたんだぞ。それも新米兵士達の目の前で。」
「それは、よかったわね。」
「全然良くねえよ! 殴られた箇所がまだ痛むんだぜ。」
「あたし達を通さなかった罰よ。これに懲りて、今回は通してくれるわよね。もし、通してくれなかったら、今度は公開処刑あたり行くんじゃない。あはっ。」
「笑い事じゃねえ!」
「おい、やめろ。」
 両脇の門番が「下っ端の門番」を制し、何やら耳打ちをした。途端に「下っ端の門番」がにやけ顔になってきたわ。何か企んでいるわね。
「もう一度聞くが、お嬢さんは誰を訪ねてきた?」



「う、アネット……さん。……まあ、いいだろう。そして、貴殿は。」
 相変わらず自分より下っ端と思っている人にしか威張れないのね。アネットに対しても嫌々ながら「さん」付けしているのが見え見えよ。でも、今回はお城へ入れそうね。アレクもいることだし。
「バイエルン王国からの使者だ。アレシア王への親書を持っている。城まで通してもらいたい。」
「うむ、本物のようだな、よし、私と一緒に城に来てもらおう。」
「承知した。だが、こんなに大勢で城へ行く必要もあるまい。それにご時世、三密は避けたいものだ。城へは私一人で赴き、彼女達はアネット殿の家に行くことを了承願いたい。」
「わかった。」
「アレク、よろしくね。」
 城内ではどこに聞き耳があるか分からないので、ルテティアへ入る前に、待ち合わせ場所を城の外に決めておいたわ。
 さて、あたし達がアネットの家に向かおうとしたとき……
「ロジーナ殿。」
 アネットの家から何やら声が聞こえてくるわ。
「あなたをスパイ容疑で逮捕します。」
 ロジーナが逮捕? なぜ?
「ママ!」
 アネットがロジーナに駆け寄ろうとするのを、あたし達は必死で止めた。
「アネット、今あなたが出て行ったら、叔母様だけじゃなくてあなたも捕まってしまうわ。少し様子を見ましょう。」
 やがて、兵士達がロジーナを連行した後、あたし達はアネットの家に急いだ。
「お嬢様!」
「ヴァレリーさん。」
 確かこの人は、ロジーナの従者よ。何があったのだろう?
「お嬢様、全て私の責任です。ごめんなさい! ワーーーッ!!」
 そう言って、ヴァレリーはその場に泣き崩れた。その眼には涙があふれかえっている。ジパングのKAZUなんとかという遊覧船のカツラダセイイチだかカスラダセイイチだかいう社長の土下座はどう見てもパフォーマンスだけれど、ヴァレリーのアネットに対する謝罪が本心からであることは誰が見ても明らかだった。
「落ち着いて話してください、ヴァレリーさん。何があったんですか。」
「はい。実は、私が一人で温泉から戻ったとき、城の兵士になぜロジーナ様と一緒でないかを聞かれて、それで、バイエルン軍の本陣に行ったと言ってしまったんです。それが軍の本部に伝わってしまって、ロジーナ様が逮捕されてしまったのです。勾留先はニース温泉の洞穴になるだろうと、城の兵士達が言っていました。」
 さっき「下っ端の門番」の顔がにやけていた理由がわかったわ。あわよくば、あたし達も捕まえて一網打尽にするつもりだったわけね。ヴァレリーは悪くないわ。悪いのは、アレシア軍よ。でも、あたし達だけの力では何にもできないわ。取り敢えず、アレクと合流しましょう。
「大丈夫よ。ロジーナさんは、アレクに頼んで必ず助け出すから。何と言っても、ロジーナさんはアレクの命の恩人なんですから。」
 あたしはヴァレリーにそう答えた。ヴァレリーの思いつめた表情がいくらか和らいだようだった。
「ソフィー、あなた達もここにいては危険だわ。ルテティアの外へ出る抜け道があるから、そこから出て行きましょう。」
 そう言って、アネットはあたし達を抜け道に案内した。
 間一髪だった。あたし達がルテティアの外へ脱出したのと同時に、城の兵士達が再びアネットの家へ向かっているところを見た。
 大変なことになったわね。ひとまずは、アレクの帰りを待ちましょう。



 いた! アレクだわ。
「ああ、エルか。」
「アレク、どうだった。」
「どうだったもこうだったもないよ。親書は私の目の前で破り捨てられた。交渉は決裂したよ。フォルゲン伯爵の読みは正しかった。いや、正確過ぎるほどだった。」
「そう、大変だったわね。こっちも大変だったわよ。」
「それはどういうことだ?」
 あたし達は、ロジーナがアレシア軍に逮捕されたことをアレクに伝えた。
「お願い、アレク。ロジーナを助けてあげて。ロジーナはあんたの命の恩人でしょ。」
「よし、わかった。だが、それは、アルベルト公爵に交渉決裂を報告してからだ。今は使者の任務を果たすべきだし、公爵ならば良い知恵があると思う。いずれにせよ、本陣に急がなくてはなるまい。」
「うん。わかったわ。」
 あたし達は本陣へ急ぐ。そしてアルベルトの元へ戻ってきた。



「見事に決裂しました。」
 そう言って、アレクは交渉のときの様子を語った。
 


「それで、私が『この決断がアレシア王国にとっての致命傷にならないことをお祈りしますよ。』と念を押したら『それ以上言うと、お前の首を刎ねてバイエルンに届けるぞ』と、国王は仰せられました。まあ、こっちは毎日が殉職日と心得ていますから、そんな脅しは痛くも痒くもありませんけれどね。それに、一度は刺客の毒矢で本当に殉職した身ですし。」
 その言葉に、アルベルト公爵、そしてザウアー将軍までもが黙り込んだわ。
「そうか、やはりな。」
 やはりって、アルベルト、あなたはこの交渉がうまく行かないと思っていたの? ということは、この後の策を考えているということね。
「ところで、アレクはアレシア王をどう思ったか、率直な意見を述べてもらいたい。」
「どう思ったもこう思ったもありませんよ。ひどい奴です。かつてのナチス党のヒトラー並みの独裁者です。自分たちが置かれている状況も理解できない。ただ強がっているだけなのか、それとも最終手段があるのか。実の息子である王子――確かユーグ王子でしたっけ――の意見にも耳を貸さない。ユーグ王子だけはまともな人でしたね。あんな父親の息子として生まれたユーグ王子が気の毒でしたよ。王子に対して、それ以前に実の息子に対して、それも他国の使者の前で言うセリフじゃありませんよ、あれは。」
「なるほど。こうなったら仕方があるまい。アレクの言ったように、本陣をルテティアに寄せて、精鋭部隊を仕掛けよう。」
「早速、進軍の準備に入りやす。」
「そうしてくれ、ザウアー将軍。そして、アレクよ、他に何か気になることは?」
 今こそロジーナのことを言うときよ、アレク。
「以前、私を治療してくださったロジーナ殿がアレシア軍に逮捕され、ニース温泉の洞窟に幽閉された模様です。」
 パウラの表情が俄かに曇った。
「お姉さまが、どうして。」
 ソフィーがその理由を話した。
「ロジーナ叔母様の付き人がルテティアに戻ったとき、ロジーナ殿がバイエルン軍の本陣に行くことをルテティアの兵士に言ってしまったんですって。」
「なるほど、スパイ容疑で逮捕されたわけか。」
 フォルゲン伯爵の言葉に、アレクが続けた。
「そういうことです。彼女は元々バイエルン王国の人らしいですね。しかし、アレシア王の態度と言い、ロジーナ殿の逮捕と言い、何かつながっているのではないかと。彼女を救出したいのですが。」
「アレク、無論そなたの言動に異論はない。ただ、一つ気になることがある。ロジーナ殿はなぜ牢獄ではなく洞窟に幽閉されたのだろうか。……そう言えば、彼女は有名な薬師と言ったな。ということは、国の上層部とも何かつながりが……。」
 そうよ。あの「下っ端の門番」も、ロジーナには敬意を払っていたわ。ロジーナの娘のアネットにも敬意を払わざるを得なかったみたいね。パウラが思い出したように言った。
「そう言えば、昔、大病を患った王妃様の治療をして、それ以来王妃様のお気に入りになったって、姉が言っていたわ。」
 そんな人をスパイ容疑で逮捕、勾留するの? 恩を仇で返しているようなものじゃないの。
「アレク、アレシアの王妃とは話をしたのか?」
「いいえ、話すどころか、王妃の方を向くことすらできませんでした。国王が一方的にしゃべり出して、こちらの言うことに一切耳を貸さない。ユーグ王子の意見に対しても一喝して黙らせました。普通の企業だったらモラルハラスメントやパワーハラスメントで訴えられるレベルです。」
「うむ、やはり気になる……。アレク、今夜はもう遅いから休んで、明朝、ニース温泉へ行ってくれぬか。もしかしたら、何か分かるかもしれぬ。ロジーナ殿を救出したら、直接私のところに来るよう伝えてほしい。」
「承知しました。」
「私がロールシャッハ城の地下牢に幽閉され、私の偽者がロールシャッハを動かしていたのだ。そのことを思い出すと、嫌な予感がするのだ。私の杞憂かもしれないが、このまま進軍したら、取り返しのつかぬことになるかもしれぬ。」
「そのロールシャッハとアレシアが同盟し、共同でバイエルンを攻める約定があったとしたら、アレシアの国王も実は偽者という可能性も否定できませんぜ、殿下。」
「その通りだ、ザウアー。アレシア国王は、私の知っている国王とは大きく違う。この件、どうもつながっているとしか思えぬ。」
 そうだったのね。さっきアルベルトがアレクに「率直な意見を述べてほしい」と言った理由は、先入観なしでアレクの意見を聞きたかったからなのね。それをアレクは本当に率直に述べたわ。だから、アレシアに対する攻略法が確立しているのよね。こういうことは、一人ではできないことだわ。だから、組織というものができるのよね。
「では、出立は明朝にて。必ずや、ロジーナ殿を助け出します。ロジーナ殿の救出こそが国益にも私の恩返しにもなりましょう。」
「アレク隊長、よろしくお願いします。」
 そう言って、パウラとソフィーはアレクに頭を下げた。彼女達の目には涙がにじんでいた。
 文字通り、彼女達は『泣き寝入り』したわ。
 大丈夫よ、ロジーナは必ず助かるんだから。



 修道院の方も大迷惑よね。彼女のためにもロジーナを助け出さなくては。



 ニース温泉って、ここだったの? あたし達が初めて来たときは「ルテティア南東の温泉」としか説明されていなくて、名無しの温泉だったじゃない。これまでに出てきた温泉はイザール温泉とこの温泉だけだから、何となくここがニース温泉かなあという気はしたんだけれどね。もう、作者さんたら。



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2022/04/30


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