フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第49回】女王陛下の使者

 あたし達は、この任務の中心人物とも言える人達の前に立っていた。正面にはアルベルト公爵、そしてその横にはフォルゲン伯爵、ザウアー将軍、パウラ隊長が控えていた。少し離れて、拘束されたゲクラン侯爵がこちらを睨みつけていた。ふん、睨みつける以外できないのね。もし、あなたが過去に女性を弄んだことがあるならば、今すぐにでもその女性の恨みを晴らしてやるわ。
「さて、アレク達が今朝からイチャついていた件だが……」
 アルベルト、あなたまでその話をするの? もういいでしょ、その話は。



「だからあ、あんたのは逆ギレっていうのよ。」
 リーゼル・クリス・ソフィーが異口同音に言った。
「まあ、そういうことは、2人きりになったときにするがよい。」
 公爵は意外にも肯定的だった。
「アルベルト公爵、要塞の話を。」
 フォルゲン伯爵が促した。流石は年の功、話題の転換を心得ているわね。



 前から気になっていたんだけれど、何でみんな最初はディジョン要塞を言い間違えるわけ? しかも伏字で。これも作者の陰謀なの?
 アレク達はもう慣れているらしく、淡々と話を進めていたわ。
「ここさえ陥落すれば、アレシアもバイエルン王国攻略のを拠点を失います。となると、彼らも講和条約に調印する他はないと思われますな。」
「フォルゲン伯爵の仰ること、余もそう思います。講和条件その他諸々については、陛下にお伺いを立てているところ。明日には使者が戻ってくることでしょう。」



「ラインマイヤーです。陛下からの書状を持って参りました。」
 このラインマイヤー子爵っていう人が使者なの?
「ご苦労。しかし、随分早いな。」
 公爵も驚くほどの早さということは、この子爵、かなり有能のようね。世襲でなく、実力で爵位を得た人は、何かしらの取り柄があるのは間違いないわ。
「早馬を飛ばしてまいりました。」
「うむ、卿はもう、身体の具合は良いのか? ルーシ帝国との戦いで負傷したであろう?」
「今はもう問題ありません。」
「それは良かった。」
「さて、それでは陛下からの書状を読ませてもらおう。」
 アルベルト公爵が女王陛下からの書状を読み上げ始めたわ。



 何なの、この書状の書き出しは?
「女王陛下まで、あの要塞を○ロモンだと思うのか……。」
 アレク、あんたもそう思っていたの? あたしもよ。
 書き出しはまだかわいい方で、読み進めていくと、とても一国を統治する者の認める書状とは思えない文面だった。とりあえず、アルベルト公爵が最後まで読み上げる。



「ヤケクソな手紙って、陛下自らが認めている……。私が留守の間に何があったのだ? それにしても、何という無茶振りを。」
 フォルゲン伯爵が気の毒に思えてきたわ……って、ちょっと、女王ったら、この書状をあたし達にも読まれることを意図して書いたのかしら? 何でカールがあんなに我が儘か、理由がわかったわ。この親にしてこの子ありってことね。でも、カールって、今はバイエルン王国と国交のない他国の軍隊に入隊させられているんじゃなかったの? ああ、それは機密事項だから書いていないのね。



「これを読む方の身にもなって欲しいものだが、陛下からの書状はこれにて終わりである。ふぅ……。」
 公爵がため息をつく。
 女王陛下も、王国主宰の美人コンテストで最優秀賞に選ばれたばかりに故人に見初められて王妃になってしまったのね。政略結婚に比べたらまだましなんでしょうけれど、王族に入ってからは実家の家族や友達とも離れ離れで、孤独だったのね。でも、これも運命と言えば運命よ。王国の一部の権力者のせいで引き起こされた内部紛争で命を落とした人達もいるんだから。陛下はそれを忘れちゃいけないと思うわ。クリスの叔父さんも含めてね。
「それで私がこの書状の使者になったというわけか。」
 ラインマイヤーが頷いた。
「それでは、ラインマイヤー子爵。そなたは早速、ソロモ○……ゲフンゲフン、じゃなくディジョン要塞の指揮を執ってもらいたい。」



 確かに。その方が敵を欺けるわね。歴史的な出来事の例で言うと、現在では「負の遺産」と呼ばれているかつての強制収容所に収監された捕虜たちが脱出トンネルを掘っている際、ばれないように「トム」とか、トンネルを人の名前で呼んでいたって聞いたことがあるわ。ソロモン要塞って言った方が、ディジョン要塞の攻略と参謀や諜報部隊に気づかれにくいと思うわ。しかも、ソロモンって伏字にしないで言ったのはラインマイヤーが初めてだしね。
「なるほど、その方が分かりやすい。それにしても、陛下は伏字の箇所をいちいち変えて書状に認めていたというのか。陛下も作者も結構神経を使っただろうな。」
 アルベルト公爵が言葉を続けた。
「続いて、講和については私に委任された。至らぬところもあるが、皆、よろしくお願いします。」
 アルベルト公爵なら安心ね。半年以上も地下の独房に閉じこめられて(閉じこもって?)いながら精神を保っていられたのだから、これほどの適任者もいないわ。
「では、これから講和条件の草案を書くことにしよう。そして、ルテティアへ書状を持って行く使者だが、これは……アレクよ、頼めるか。」
「私ですか?」



 そうよ、アレク。あなたがこうして立っていられるのも、ロジーナのお蔭じゃないの。ロジーナも姪のソフィーに会いたいと思うわ。今度はあなたがロジーナの役に立つ番よ。
「なるほど、ソフィー殿の叔母上がいらっしゃるのか。では、アレク、頼むぞ。」
「はあ、承知しました。」
 何、その間の抜けた返事は。でも、いいわ。これで決定ね。
「それから……」
 と言って、アルベルトはゲクランの方を向いた。ゲクランは猿轡をはめられ、後ろ手に縄で縛られ、その上に胴体を縄でぐるぐる巻きにされているという状態だわ。およそ侯爵らしからぬ扱いに、ゲクランの目には敵意が込められていることは明らかだった。
「苦しそうだな。今猿轡を外してやる。」
 そう言って、アルベルト公爵は魔法の力でゲクランの猿轡を外した。
「くそっ、アルベルトめ。俺からは何も得られないぞ。俺が舌を噛み切れば……」
 ゲクランはそう言って舌を噛み切ろうとする。しかし、それは叶わなかった。ゲクランの上下の歯は麻痺して動かなかったのだ。ザウアーが言葉を続ける。
「俺は何もしちゃいねえぜ。恐らく、殿下の魔法だな。おめえが舌を噛み切ろうとすると、おめえの口は動かなくなる。安心しな。食事はできるだろうから。おめえの生殺与奪は殿下次第ってところだな。」
 アルベルト公爵はやはりすごいわ。
「とりあえず、アレク達はゆっくり休むが良い。私はフォルゲン伯爵とともに講和条件の草案を作成する。」



 あ〜よく寝た。今回はアレクのベッドに行くことはなかったわ。この内部紛争が解決して、アレクと挙式をあげたら…ゆっくりと……。
 あたし達は公爵の間へ。
 それにしても、公爵はいつも早起きね。いつ休んでいるのかしら。
 そういえば、ゲクランが何か言いたがっているみたいね。言いたいことがあれば言ってごらんなさいよ。



 確かに、それはそうね。でも、大丈夫よ。アレシアで相当な地位にあるあなたが捕虜になってから数日経っているけれど、誰一人助けに来ない、あるいは来られないのだから。あなたに逃げられない限りはこの秘密がアレシアに洩れることはないのよ。アレクを酷い目に遭わせた刺客の末路はあなたも知っているでしょ。そう言えば、あなたが勝手に舌を噛み切らないように、アルベルト公爵があなたに魔法をかけているのよね。つまり、あなたは自決することもできない。ざまあって感じよね。
 そうは言っても、あなたの言うことも一理あるわ。良いことを教えてくれてありがとう。



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2022/04/24


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