フィンブルヴェトル物語(プレイ日記)



【第37回】補給部隊の殲滅

 ディジョン要塞の補給部隊入口には既にアルベルト公爵が到着しており、アレク一行と合流するべく待機していた。



「承知しました。」
「では、始めよう。全軍、敵補給部隊を攻撃せよ!」
 アルベルト公爵の号令とともに、ロールシャッハ軍は補給部隊へ突撃した。



 お前ら、言うことがもうパターン化してきているな。



「分かりません。しかし、カステン将軍……。」
 このカステン将軍という男、先程のゲクラン将軍とは違った意味でこれまた嫌な人相をしている。見るからに狡猾で、目を付けられたら最後、骨までしゃぶられるタイプだ。報告した兵士も、カステン将軍には騙されないようにしているのが見てとれる。
「慌てるな。ところで、敵の数は?」
「それが、およそ1000です。」
「1000じゃと…その程度の兵力で我らに立ち向かうだと? 敵は我らを飲んでかかっているのか?」
「しかし、これが相当の手練れで、我らが一方的に押されています!」
「ここを叩かれたら要塞を維持できぬ! 我らも出撃だ。」
「そうはいかん!」
 カステン将軍の目の前に現れたのは、アルベルト公爵だった。



 おおっと、アルベルト公爵を護らないと。ここは我らが相手して候。
「うむ、任せたぞ。」



 カステンとシュラールが同じ姿? 確か、シュラール将軍は頭がフサフサだったのでは。まあいい、甲冑を纏ったら区別なんぞつかんわ。
 アレク、リーゼル、クリスはカステンを集中的に、エルは葬送行進曲を唱える。いつものパターンだ。
 エルの葬送行進曲は先程よりも効果があり、何と兵士2人を斃した。
「この小娘が!」
 部下を殺されたカステンの怒りがエルに注がれた。



「キャッ!」
 エルの華奢な体がスキルの衝撃で吹き飛ぶ。相当な勢いでエルは地面に叩きつけられた。
「エル!」
 私は思わずエルに駆け寄る。だが、エルはそれを制す。
「大丈夫よ、アレク。私の癒しの歌を信じて。」
 そうか。その手があった。頼むぞ、エル。
 エルの言葉に勇気づけられたのは私だけではなかった。



 ブラインドの危機を切り抜けたクリスの目は以前よりも輝いていた。このスキルが決め手となり、ついに残るはカステンのみとなった。
「喰らえ、アース……あれ?」
 どうやらスキルポイントが尽きたようだな。
「ええい、かくなる上は……」
 カステンは、リーゼルに飛びかかる。カステンの汚らわしいスキルは敬虔な僧侶のリーゼルには効かなかった。その腹いせに、カステンは捨て身の攻撃に出たのだ。しかも、隠し持っていたナイフでリーゼルの右腕を深く切り裂いた!
「……!」
 リーゼルの視界が赤く染まる。唐突のあまり、リーゼルは自分の身に何が起きたか分からなかった。だが、自分の右腕を見て、リーゼルの右腕に激痛が戻ってきた。
「キャーーーーッ!」
 当の本人よりも、エルとクリスとソフィーの方が悲鳴を挙げていた。まずい。彼女達が動揺している。
「この腐れ外道めが!」
 私は反射的にカステンの首を刎ねていた。
 スキルを使わない肉弾戦のシュラールとは対照的に、スキルの尽きたカステンは圧倒的に弱かった。



「リーゼル! 大丈夫か。」
 私はリーゼルのもとへ駆け寄る。辛うじて右腕切断は免れたものの、相当な出血だ。
「アレク、ここは私に任せといて。」
 エルが癒しの歌を唱える。リーゼルのことはエルに任せて、私はアルベルト公爵とザウアー将軍の方へ向かった。
「よし、あらかた敵は叩いたな。」
「野郎共、逃げる兵は追わなくていいぞ!」
 補給部隊は、どちらかというと事務員の要素が強く、戦場の最前線で戦うことのできない兵士がなる傾向にあるようだ。逃亡兵がアレシアの本拠地に逃げ込めば、アレシアの軍法会議にかけられて即刻処刑だろう。残忍無比な組織においては敵前逃亡は裏切りと同じ行為に違いない。処刑されたくなければ逃亡兵はアレシアとは無縁の存在になることだろう。いずれにせよ、逃亡兵がこちらの隙を狙って逆襲してくるという可能性は0と考えて差し支えない。
「さて、アレクよ。ご苦労だったな。我らは本陣を設営せねばならぬが、それまで休んでいていいぞ。そちらのお嬢さんを早く医務室へ。」
 ありがとうございます。先程カステンの卑劣な攻撃で怪我をしたリーゼルの様子も知りたいところだ。
「それにしても、しこたま物資をため込んでいやがるな。」
「フッ、では我らがありがたく使わせてもらおう。」
「恐らく、殿下も山賊をやったら、相当稼げるんじゃねぇですかい?」
「ザウアー将軍がそう言うのなら間違いないだろうな。」
 この二人、本当に信頼し合っている。ザウアー将軍も、相当つらい過去があったに違いない。アルベルト公爵は、ザウアー将軍の過去を知りながら、その腕前と人柄を買ったのだろう。過去はどうあれ、ザウアー将軍はザウアー将軍でしかない。それはみんな同じか。
「さて、アレク達は少し休むが良かろう。ザウアー将軍は私と一緒に来てくれ。」



 私は、改めてリーゼルのもとに駆け寄る。リーゼルはエルの癒しの歌によって腕の傷がだいぶ治っていた。だが、エルが疲れ果てているようだ。
「クリス、ソフィー。私は、リーゼルを連れて医務室に行く。2人はエルを連れて先に宿舎へ行っていてもらいたい。」
 癒しの歌を唱えたとはいえ、リーゼルの怪我はまだ完治していない。そして、疲れ果てたエルを早く休ませなくてはならない。
「はい、隊長。」
 いつもだったら、リーゼルが私を独占したなどと騒ぐのだが、今回は2人とも聞き入れた。
 私は医務室でリーゼルの腕の状況を見る。エルの癒しの歌の効果は確かだった。下手をすると右腕が腐敗して切断せざるを得ない状況だったのに、傷がだいぶ浅くなっている。
「隊長、私、怖かった。私の右腕、もうなくなったかと思った……。」
 リーゼルの目から涙がとめどもなく溢れてくる。右腕に激痛が走ったときも泣かなかったリーゼルが泣いている。
 私は、自然とリーゼルの頭と肩に手を置いた。リーゼルはそのまま私に倒れ掛かるように私の胸に飛び込んできた。
 こういったとき、どうすればよいかは人によって、そして状況によっても異なるであろう。だが、私はクリスとソフィーを抱き締めたときと同じように、何も言わず、泣きじゃくるリーゼルの頭と背中を撫でさすった。リーゼルも少女から大人の女性に変わりつつある。
 性的や官能的といった意味合いが入らず、ただ男女が抱き締め合うという行為はお互いを精神的に成長させる。特に、涙を流しながら抱きしめ合うと、より一層強くなる。抱きしめ合うことによって、喜びも悲しみも分かち合うことができるからである。
 正の感情も負の感情も全て受け止め合える異性こそ生涯の伴侶にふさわしい。前回、クリスとソフィーを抱き締めたときにそう思い、そして今回リーゼルを抱き締めて、それを確信した。
 一方、エルを寝かしつけたクリスとソフィーは、彼女達もそのまま床に就いた。先はどうあれ、今は休むことが先決だ。
 (次は、エルが隊長に抱き締められる番かな。)
 クリスとソフィーは、眠りに落ちる前にそんなことを考えていた。
 半刻(1時間)後、泣きながら私の胸の中で眠りについたリーゼルを抱き上げ、医務室から宿舎へ向かった。そして、リーゼルを空いているベッドに寝かせ、私は別のベッドで眠った。



「うん、行こう行こう。」
 彼女達が大人になっていっているのは確かだが、こういった少女のときめきのような仕草を見ると、なぜか安心する。
 さて、その本陣とは……。


← 【第36回】へ | 【第38回】へ →


2021/12/19


直前のページに戻る

『フィンブルヴェトル物語』のトップに戻る

電源系ゲームプレイ録のトップに戻る

トップに戻る


(C)批判屋 管理人の許可なく本ホームページの内容を転載及び複写することを禁じます。