ファイアーロードの砦


 アロウェン姫を見事救出した主人公は、ロマーク公爵とアロウェン姫の結婚式の主賓として招待された。初めてベックフォードを訪れたときとは天と地ほどの差だ。結婚式では主人公の活躍譚が長い時間をかけて語られ、主人公はロマーク公爵とエスガロン伯爵から莫大なる報酬を手渡された。もはや、主人公はこれ以上冒険を続ける必要もなくなった。主人公が公爵と伯爵に請われてもう一度冒険の旅を話すことになるまでは…。
 主人公は、公爵と男爵の話し合いなどほとんど耳に入っていなかった。その話し合いの内容とは、ファイアーロードという黒魔術師のことについてだった。ファイアーロードが、自分の砦の周囲を通る商人を次々と襲っている。男爵はこれまでに何度も偵察部隊を砦に差し向けたが、帰ってきたものはごくわずかだった。生きて帰った者の報告によると、砦の入り口に到達する前にファイアーロードが突如出現し、次の瞬間大地から炎が吹き上げ、部隊はほぼ全滅したという。砦の入り口を突破するのは不可能である。となれば、態(わざ)と捕虜になって潜入するしかあるまい。しかもファイアーロード程の強力な魔法に立ち向かうとなると、剣の使い手でもあり魔法の使い手でもある者が潜入するより他ないだろう。潜入するのにふさわしき人物は……と、公爵と男爵はアロウェン姫を救い出した英雄――主人公の方を振り向いた。
 主人公は、これまでの苦労が一挙に蘇る思いに陥った。何しろ、せっかく手に入れた富と名声を楽しむ暇もなく、ファイアーロードの砦に潜入する羽目になったのだから…。

 『ファイアーロードの砦』は、ユニコーンシリーズの下巻です。なぜ上巻で得たアイテムを下巻に持ち越せないかがここでわかります。主人公は捕虜の身から始まります。どんなに優れた武器や防具、アイテムを持っていても、捕虜の身となれば全部取り上げられるからです。それならば、最初から何も持たない方がまだましでしょう。主人公は、最初4通りの姿(商人、護衛、書記、御者)を選択できます。どの姿で捕われの身になるかで冒険の出だしが若干違いますが、どの姿で潜入してもきちんとクリアできるようになっています。しかし、上巻『魔王の地下要塞』とは違い、最初は無防備のスタートとなりますので、この点では上巻よりも難しいかもしれません。無論、途中で装備を手に入れる機会はありますのでご安心ください。
 迷宮の項目の下に描かれている地図は今回も健在で、しかも砦内だけですから、上巻よりも地図を描きやすいと思います。また、今回はとある文句を見たことがあるかないかで交通整理がされています。キーワードは「用心せよ、さもなくば死あるのみ(291番)」です(笑)。
 今回は時間制限(日数制限)はありません。飽くまでもファイアーロードを倒してベックフォードまで凱旋するまでが今回の冒険です。但し、ファイアーロードを倒さずに砦を脱出しようとすると、ファイアーロードのお得意の炎の魔法で破滅を迎えます…。
 上巻『魔王の地下要塞』と同じく、砦内の警備兵(今回はオーク)には気をつけなくてはなりません。オークたちに捕まる度に、危険度は確実に増します。1回目はまだ闘技場の闘士になるだけですが、2回目は砦の拡張工事の奴隷人足として働かせられ、3回捕まると死につながります(但し、冒頭で護衛に変装していた場合は1回目を飛ばして2回目からになります)。無駄に騒ぎを大きくせぬが吉です。
 今回もまた、前回と同じく様々な魅力あふれるアイテムが登場します。魔法の武器や防具はもちろん、魔法の回復薬やその他の宝物などもたくさんあります。また、今回は鍵の類を集めるのも一興です。尤も、セサミの呪文で代用しても構いませんが…。
 そして、上巻と同じくまたもや複数の項目の使いまわしが出てきます。これについては、上巻と同じ感想とだけ述べておきましょう…。
 冒険を進めていくうちに、ファイアーロードがなぜこれだけの力を持っているかが分かってきます。悪魔と契約でもしない限りは得ようのない力の源が…。ファイアーロードの力の秘密がわかるまでは、ファイアーロードに敵意を表さない方が賢明でしょう。むやみに魔法を披露しない方が身のためであり、まして、ファイアーロードに向かって呪文を唱えるなどもっての他です。

 この冒険のエンディングですが、主人公はドラゴンを引き連れてファイアーロードの砦を脱出します。これ以上のことは、最後の500番を見てのお楽しみということにしましょう…。訳者あとがきの冒頭文「あなたはゲームブックという、時間と空間を越えて移動するマシンに乗って、イマジネーションの世界へと旅立ちます。」という表現もなかなかのものです。


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2007/01/01


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