ネバーランドのカボチャ男


 妖精の国ネバーランドには、3つの至宝がありました。永遠の若さが得られる魔法のリンゴ、尽きることのない神々の酒をたたえた聖杯、そして望み通りの夢を見させることのできるドリームロッド(夢の杖)です。
 しかし、つい最近キャメロット城の宝物倉が破られ、3つの至宝の中の1つであるドリームロッドが何者かに襲われてしまいました。占い師ハリー・ヴーは、知恵の神オグマから、ブーカ(猫妖精)のティルトこそがドリームロッドの奪還を可能にする唯一人の人物であるという託宣を受けました。早速ハリー・ヴーは、ネバーランド王マナナン三世と相談し、猫妖精ティルトに依頼の手紙と金貨を送りました。
 この手紙を受け取ったティルトは、身支度を整え、故郷ガラスヶ丘を出発しました。これから、ドリームロッドを取り戻す長い旅が始まるのです…。
 この、猫妖精ティルトこそがこの物語の主人公です。

 『ネバーランドのカボチャ男』は、『ネバーランドシリ−ズ』の外伝版です。著者は無論この人――林友彦氏です。
 猫妖精ティルトがまだ無名の若者だったころ、ネバーランドの至宝の1つであるドリームロッドがネクロマンサー(黒魔術師)のパンプキンマン(カボチャ男)の手によって盗まれました。この話は、ティルトがパンプキンマンからドリームロッドを取り返し、一躍“勇”名(有名)になったという、いわば『ネバーランドのリンゴ』の前日談というべき作品かも知れません。そして、勇名をはせたティルトに再びガラスヶ丘のリンゴやニフルハイムのユリを取り戻す依頼が届いたというところかも知れませんね。
 ゲームの内容ですが、このゲームはゲームブックではなくボードゲームです。社会思想社の『四人のキング』と同様、本は“マスターブック”という位置付けです。ボード上にあるコマを動かして、止まった地点の番地を読むという形式です。事件が起きた後、何も起こらないようにするためにマスを黒く塗りつぶすのは、『四人のキング』においてトランプを取り除くことを意味します(これについては後述します)。
 戦力ポイントや体力ポイントも最初は一律で、最初のサイコロの目によって左右されることはありません(冒険に出発した後はサイコロ運で左右されますが)。戦闘形式は『ネバーランドシリーズ』と似ていますが、こちらの攻撃が成功したら即勝利と、割合と単純化しています。しかも、特定の野菜を食べていると相手の攻撃力を1ポイント減らせるというボーナスもなかなかのものです。パンプキンマンと戦う前に食べておく野菜はもちろん――。
 今回は、経験ポイントに代わる「得点」という数値が出てきます。得点が一定の値に達すると、魔法のリンゴがもらえたり、戦力ポイントが増えたりします。魔法も登場します。但し、今回は「小さくなる魔法」と「大きくなる魔法」の2つだけですが。
 エスメレーが誘拐されるという話も健在で、今回も『ニフルハイムのユリ』同様、エスメレーは2回救出する必要があります。共に戦ってくれる味方ももちろん登場します。今回はライオン(地上)とグリフィン(地下)です。
 このボードゲームは結構時間がかかると思います。クリアまでの所要時間は、ソロプレイ(1人プレイ)ですと約1時間、マスプレイ(複数プレイ)ですと4人プレイで約2時間はみておくとよいかもしれません。ルールブックの巻末には、パズルブックとして23題のパズルがありますが、もしもマスプレイなどでパズルのストックが尽きた場合は、プレイヤー同士でなぞなぞを出し合うのもよいと思います。
 このボードゲームはなかなかの力作ですが、しかし、いくらか不具合な点も見受けられます。
 まず真っ先に不具合として挙げられるのは、「黒く塗りつぶしたマスには今後誰も入れない」というルールです。これは厳しすぎると思います。例えば、キャメロットの街(45番)でイルダーヌの剣をもらってしまうと黒く塗りつぶすことになり、ブランディガン河を大回りしないと到着できなくなります。これでは「他のプレイヤーを邪魔する」よりも、自分自身の首を絞める結果になります。もっと極端な例としては、キャメロットの裏通りにある定食屋(26番)です。ここも黒く塗りつぶすマスであり、これはもう言うまでもなく「幽閉」になります。ですから、「次にこのマスに入ったときには何も起こらない」というルールにした方がよいと思います(実際に私がマスプレイを行なったときは、このルールに変更しました)。
 また、コッドリープの街に初めて入るとき(地上18番)やドラゴンのノッカーの扉(地下77番)は、サイコロ運で当たる確率は6分の1以下です。この設定はかなり厳しいと思います。どうしてもサイコロ運が向かなければ、パズルで代用するという方法もあるかも知れません。
 しかしながら、これらの不具合もこの作品が優れているからこそ目立ってしまうものです。クリアしたときの達成感もまた一入です。

 ところで、プロローグを読んでみるとわかるのですが、カボチャ男がドリームロッドを盗んだ理由は何ともかわいらしいものではありますまいか。恐らく、世界中の人々がおいしいカボチャの夢を見たら、パンプキンマンはドリームロッドをキャメロット城の宝物蔵にこっそりと返却するに違いないでしょう。ドリームロッドを盗み出したのは飽くまでも手段に過ぎず、要は世界中の人々がおいしいカボチャの夢さえ見ればよいのですから。エピローグを読むと何だかほっとします。パンプキンマンの野望は、魔道師バンパーや魔法戦士メレアガントのそれとは違い、何とも平和的な野望だからです。
 ちなみに、私ALADDINはカボチャが好物です。特に、パンプキンスープが大好物です。

2008/12/09


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