ニフルハイムのユリ


 北大西洋に面した、年中濃い霧に閉ざされている扇状の盆地がある。人間たちは、その盆地を『霧の谷』と呼んでいる。住民の多くは当時戦乱であったブリトン島を離れ、この地に移り住んだと言われている。この『霧の谷』は『ニフル(Nifl)ハイム(Heim)』とも呼ばれている。
 極寒の地ニフルハイムで妖精たちが暮らしていかれる理由は、コーンウォールから運んできた、一輪の白ユリの魔力のお陰である。
(ティグルワイズ著「異本・カルマルセンの黒書」より)

 ネバーランドのリンゴが盗まれた事件から1年が経過しました。
 その後は特にこれといった事件もなく、ネバーランドの妖精たちは平和な日々を過ごしていました。
 そんなある日のことです。
 ガラスが丘に住む猫妖精ティルトのもとへ、一羽のワタリガラスが一通の手紙を携えてやって来ました。差出人はコッドリープの市長で、有名な占い師でもあるハリー・ヴーからでした。それによると、ニフルハイムの宝である魔法のユリが、ゴブリンの王メレアガントの手によって盗まれてしまったとのことです。ユリがなければニフルハイムの人々は早晩滅びてしまいます。ニフルハイムの妖精ではとてもメレアガントには敵いません。頼みの綱はティルトだけなのでどうかメレアガントを倒して魔法のユリを取り戻して欲しいとのことでした。更に、ニフルハイムで恐ろしいのはメレアガントだけではありません。吸血生物グールーが大量に出没し、夜毎生き血を求めて徘徊しているそうです。グールーに傷を負わせられて死ぬと、その妖精もまたグールーになってしまうのです。いずれにせよ、ニフルハイムでの冒険も厳しいものになりそうです。
 この手紙を受け取った主人公ティルトは、前回の冒険で使用した武器を携えてメレアガントを倒す旅に乗り出します…。

 『ニフルハイムのユリ』は『ネバーランドのリンゴ』の続編です。著者は無論この人――林友彦氏です。
 林作品の特徴に関しては前回述べましたので、早速ニフルハイムの内容を分析することにしましょう。
 魔術師バンパーがティルトに倒されたということを知ったサクソン人は、ネバーランドを侵略するのはそう簡単なことではないと見ました。しかし、何としても例の“魔方陣”を本格的に作動させたいと思っていたサクソン人は、次に『霧の谷』と呼ばれる妖精の国ニフルハイムに目をつけました。ニフル(Nifl)はラテン語で霧を意味し、ハイム(Heim)はドイツ語で家を意味します。まあ“霧の住居”という感じでしょう。
 さて、ニフルハイムの伝説を調べたサクソン人は、ネバーランドの至宝リンゴに対してニフルハイムの至宝はユリであることを突き止めました。あのユリは“魔方陣”を本格的に作動させるのにどうしても必要です。幸いニフルハイムはネバーランドから離れており、流石のティルトもニフルハイムにまでは及ばないだろうと感じ取ったサクソン人は、早速ゴブリン王メレアガントとその配下をニフルハイムの地下に送り込みました。そして、ゴブリンたちはクナイホープの地下迷宮を完成させるや否や、フヴェルゲルミルの温泉にある魔法のユリを、ヒドラを使ってバジリスクから奪わせたというわけです。『ネバーランドのリンゴ』から『ニフルハイムのユリ』に至るまではこんな背景があったと想像するのも楽しいと思います。

 前回に引き続き、今回もヌーが登場します。ヌーは心強い小さき味方です。冒頭の金貨1枚くらいは惜しまず払った方が、後々お釣りが来ます。
 システムも、前作『ネバーランドのリンゴ』よりも更に変化に富んだ内容となっています。
 まず、前作に比べて地上部分での冒険が豊富です。前回は1000項目中実に半分以上の項目が地下迷宮という恐ろしい構造になっていました。しかし、今回は前作ほど迷宮に項目を割いていません。一本道が多く、前作ほどは迷いません。
 次に、今回は必ずエスメレーを救出しないとクリア不可能になります。しかも、今回は一度ならず二度も救出する必要性が出てくるのです。前回は、ひねくれ者のノームから魔法の鍬をもらえば、必ずしもエスメレーを助けなくてもクリア出来ました。しかし、今回はそうはいきません。
 それから、前回と違って今回は地下迷宮と地上を自由に行き来出来るのです。『ネバーランドのリンゴ』では、一旦蜃気楼城に入ってしまうともう後戻りは出来なくなりました。しかし、今回は一旦地下迷宮に入ってもまた地上に戻れるのです。
 魔法も新たに3つ登場します。牙の魔法と霧の魔法と狼に変身する魔法です。前作『ネバーランドのリンゴ』に出て来た魔法もそのまま使えます。しかし、前作をプレイしていないと使えない魔法が3つ(巨大化、キスをして相手の姿を元通りに戻す、透明化)あるのが難点です。まあ、これは前作をプレイした人だけの特権といったところでしょうか。但し、ニフルハイムで覚えた新しい3つの魔法は『ネバーランドのリンゴ』では使用できません。
 共に戦ってくれる味方も、更に魅力的なキャラクターが登場します。前作では、一緒に戦ってくれる味方はライオン(ネバーランドのリンゴ213番)と狼(同99番)だけでした。しかし、今回はエルクやプルーグといった妖精の味方が現れます。
 今回の最終ボスはゴブリンのメレアガントで、バンパー同様やはり魔法使いです。FFシリーズのゴブリンのイメージからすると、ケルト神話のゴブリンは相当大柄ですから少し違和感があるかもしれません。尤も、ゴブリンが悪玉であることに変わりはありませんが。
 そして、今回一番厄介な敵と言えば何といってもグールーでしょう。FFシリーズやGDFシリーズに出て来るグールーは、4回負傷したらもはやこれまでです。ニフルハイムのグールーは負傷回数に制限はないものの、後が大変なのです。グールーの汚い爪でやられると、血が止まらなくなってしまいます。この出血は普通の方法では止血することは出来ず、聖堂にある緋色の絹布もしくは聖水を使わないと止めることはできないのです。そして、出血が止まるかティルトが死ぬまでは1項目進むごとに体力ポイントを1点ずつ減らさなくてはならないという厳しいペナルティーが科されるのです。
 こうした、前作『ネバーランドのリンゴ』との比較も結構面白いと思います。
 しかし、この『ニフルハイムのユリ』ですが、前作同様クリアできなくなる致命的な部分があります。それは、ヤガー婆さんにバジリスクの鱗を手渡して眠り薬を造ってもらった後に「すぐにクナイホープに行くか?」と聞かれて「いいえ」と答えるとクリア不可能となります。「いいえ」と答える際にキーNo.20の値のチェックがされますが、これは単にヤガー婆さんと出会ったのは初めてか否かを区分けしているに過ぎません。これは、436番ですぐに「キーNo.4の値を60にする。」という指示を出すべきでしょう。また、グールーから受けた負傷に関する処理は、もう少しパラグラフを節約出来ます。これについてはここで書くと長くなりますので、例によって研究室の方にて…。
 しかし、1000項目もあると、構造に抜けが出てくるのも仕方ないかもしれません。コンピューターシステムでいうところの“バグ”です。実際に自分でテストプレイをすることが重要なのは、プログラムでもゲームブックでも同じということでしょう。

 『ニフルハイムのユリ』の季節は冬、しかも大雪の降っている情景ですから、この作品を雪の降りしきる冬にプレイすると、より臨場感が増します。私も『ニフルハイムのユリ』をプレイするときは、よく雪の降っている窓の外を見ながらします。幻想的な情景がより一層醸し出される秀作です。

2006/06/26


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