ネバーランドのリンゴ


 大ブリテン島のはるか西方海上に、どの海図にも載っていない島がある。ブリトン人達は、その島をアバロン(リンゴの島)と呼んでいる。アバロンのリンゴは、一口食べると永遠の若さを保てるという伝説がある。アバロンの王アーサーは、かつて自分の祖国であるブリトンを異邦のサクソン人から守ったものの、彼自身も深手を負い、このアバロンへ移り住んだと言われている。ブリトンの魔道師マーリンは予言をしている。アーサーは今アバロンで長い眠りについているが、やがて傷癒えし時にサクソン人を滅ぼし、かつての天下泰平のブリトンが蘇るであろうと。
 あれから半世紀。
 未だアーサーは眠りから覚めてはいない。密かにアバロンに侵入してきたバンパーというサクソンの魔道師が、異境の妖精たちを従えアバロンを征服しようと色々な企てを講じていた。最近、アバロンの妖精間でいざこざが起こっているのは言うまでもなく異境の者たちの仕業である。そして、未だ嘗て起こりえなかったアバロン――またの名をネバーランド――最大の危機が刻一刻と差し迫ってきた。

 ある日、ガラスが丘に住む猫妖精ティルトのもとへ、一通の手紙が届きました。差出人はコッドリープの市長で、有名な占い師でもあるハリー・ヴーからでした。それによると、ネバーランドの宝である魔法のリンゴが、サクソンの魔道師バンパーの手によって盗まれてしまったということです。リンゴがなければネバーランドの人々は早晩滅びてしまいます。ネバーランドのアーサー王が未だ目覚めぬ今、頼みの綱はティルトだけなのでどうかバンパーを倒してリンゴを取り戻して欲しいとのことでした。
 この手紙を受け取った主人公ティルトは、先祖伝来の武器を携えてバンパーを倒す旅に乗り出します…。

 『ネバーランドのリンゴ』は、初の項目数4桁(1000)を達成した世界最大のゲームブックと言われる作品です。著者は林友彦氏です。
 林作品には、いくつかの特徴がありますので、まずそれらを分析してみることにしましょう。
 林作品は、典型的な「双方向型」作品で、同じ場所を行ったり来たり出来ます。「サソリ沼の迷路」でも述べました通り、「双方向型」はパラグラフの使い回しが利く反面、一度通った場所や一度取ったアイテムなどの処理が面倒なきらいがあります。しかし、著者の林氏はこれを非常に画期的な発想で解決させました。それがキーNo.(ナンバー)管理です。
 このキーNo.管理により、読者が過去に迷い込むことを防ぐことが出来たのです。「サソリ沼の迷路」にしても、同じ場所を通ったときの処理はせいぜい「前にもここに来たことがあれば」となっているだけですし、鈴木作品にせよ「但しこのアイテムを既にここで手に入れているならここでは何も取れない」となっている程度です。しかし、林作品はこれらの処理を圧倒する処理方法が組み込まれています。それこそがキーNo.管理です。
 そして、主人公は3人用意されています。確かに、1000項目という長丁場では、最後のいいところまで行っていきなり「デッドエンド」となっては最初からやり直すにも大変ですし、気力もなくなることでしょう。そこで、二回までならば死んでもよいことになっています。しかし、主人公が何人残っていても取り返しのつかぬミスをしたりすると、即座にデッドエンドとなることもあります。
 戦闘方法も、敵の攻撃力は予め決まっており、主人公がサイコロを振ってそれに達するか否かでどちらがダメージを受けるかという単純かつ明快ですし、呪文も数字で処理されており、これも非常に分かりやすいものとなっています。
 そして、何といっても林作品最大の特徴と言えば、本文が丁寧語で書かれているところです。これは、絵本の中にいるような感覚を醸し出し、恰も妖精の世界にいるような雰囲気を十二分に出しています。
 さて、この項目数がなぜ1000もあるのかですが、実はこの作品、第一部と第二部に分かれています。第一部は他のゲームブック作品と変わらない地上での冒険ですが、第二部の蜃気楼城の迷路は、なんと1000項目のうちの約半分もの項目を使っているのです!無論、手がかりはありますが、それも今考えると「完璧」なものではありません。1ブロックずつ丁寧に書かれており、途中でウンザリした声も多いようです。
 しかし、そうは言っても、ところどころに考えさせる謎もありますし、巻末に著者直々の解答と解説もあります(実は、私の作成した『凶兆の九星座』の謎解きの文面は、林氏の文体を参考にさせていただきました)。
 その他のことは…ここでは書き尽くせませんので、研究室の方で詳しく述べることにしましょう。

2006/03/11
(2006/07/03 粗筋を加筆)



直前のページに戻る

トップに戻る


(C)批判屋 管理人の許可なく本ホームページの内容を転載及び複写することを禁じます。