時の鍵の伝説

時の鍵の伝説

　悪の化身ゾウナを討伐せしめんとするワルキューレの後を追いかける主人公は、ついにアファ王の眠るピラミッドまでたどり着いた。道中、３人の仲間に出会うことができた。漁師ニスペンとその連れの女戦士アテナ、そして盗賊サンディである。
　アファ王の剣と、ピラミッド内にあった正多角形の宝石をかき集め、ヘヴンズ・シットの本拠地に潜り込んだ。ワルキューレはヘヴンズ・シットの首領アジズ・バン・アブドゥール・ラハムの厳しい尋問により、既に瀕死の状態だったが、主人公たちの加勢により間一髪助かった。そして、ついにワルキューレと共に戦うことになったのだ。そして、主人公たちはヘヴンズ・シットの首領を追い詰めた。しかし…。
　アジズ・バン・アブドゥール・ラハムがその正体を明かした。なんと、アジズの正体は悪の化身ゾウナであった！ゾウナは恐怖で立ち尽くしていたサンディを捕らえ、そのまま姿を消した…。実は、本物のアジズ・バン・アブドゥール・ラハムは既にゾウナに殺されており、ゾウナがヘヴンズ・シットの首領に化けてワルキューレを待ち受けていたのだった。せっかくワルキューレと出会ったのに、サンディがゾウナに連れ去られてしまった。
　だが、いつまでも嘆いているわけにはいかない。ニスペン、アテナ、そしてワルキューレとともに、サンディを救出する―それが唯一の方法である。
　ついに、ワルキューレとともにゾウナを討伐する旅が始まるのだ…。

　『時の鍵の伝説』は、『ワルキューレシリーズ』の第３巻です。この巻で完結となります。第３巻にあたる本作品は、ピラミッドの出口～ゾウナの本拠地までです。いよいよワルキューレと共にゾウナと決戦するときが来ました。そして、結末です。
　第３巻の流れは、まずピラミッドを出て例の「善い魔法使い」に出会います。そして子供だけで守っているウェルシュタットの街を通り抜け、海峡を渡ります。ここで、嵐によって持ち物のほとんどを失います。かなりもったいない気がしますが(ゴブガブの王冠も荒波の藻屑と消えます)。ここで持ち物のリセットというところでしょうか。そして、富の国へ行き、いよいよゾウナとの対面です。そしてさらわれたサンディも…。
　今回は“パーティコントロール”という新システムが登場します。この“パーティコントロール”は、これまで四人で行動していたパーティ(仲間)を、主人公＆ワルキューレとニスペン＆アテナという範囲内で分離することができるシステムで、これは、ウィザードリィのギルガメッシュの酒場や、ドラゴンクエストⅢのルイーダの酒場を思わせます。これまでのゲームブックでは、いったんパーティを組むと、別行動を取るということができませんでした。しかし、本作品はそれが可能になりました。これはなかなかのアイディアだと思います。項目数が６０３の中でもさほど項目数を取らずに、パーティ分離ができるというのは当時では画期的なことだったと言えるでしょう。動かしているパーティによって起こる出来事もだいぶ変わってきます。
　メガナイトという金属から、腕利きの鍛冶屋が伝説の「スーパーソード」を造り上げるというのは、実はドラゴンクエストⅢ(1988年、ENIX)にも出てきています。闇の国アレフガルドのマイラの村に住んでいる腕利きの鍛冶屋が「オリハルコン」から「王者の剣」に作り変える点と酷似しています。
　第２巻で登場したクラウドロングやスミシーとも再会します。但しゾンビとしてです。東アフブルグで敵の矢に斃れた彼らは、ゾウナの手によってゾンビとして甦ります。あまり好ましくない再会ですが…。
　ニスペンとアテナ対バーゴンとの戦いで、ニスペン達が危なくなった場合、第２巻へ飛ばされます。この巻の「巻を越えての飛び先」は４４３番だけですが、しかし、このテレポートは結果的に第１巻の８７番まで飛ばされることになります。主人公の「魅力」ポイントは７になり、この数値では、間違いなく２巻の２８７巻行き(ワルキューレに仲間を断られ、アテナにテレポートの魔法で飛ばされる)になるからです。
　ここで、この巻の部分部分における私の個人的な感想を述べていきます。
　まず、第３巻からのスタート時、４３４番で棺の蓋を開けるとグールが出ますが、これは禁じ手です。なぜなら、ワルキューレの各能力ポイントがまだわかっていないからです。ここで得られる経験値も到底１０には及ばず、５回倒さないと１０にすることはできません。ちなみに、第２巻ではグールなど出現せずにすぐにマジックエンハンサーを手に入れることができます。
　つぎに、ウェルシュタットの街における子供の兵士たちの駆け引きですが、これも変に記述をひねって「戦わずして信頼を得る」選択にたどりつきにくくしています。４５番で「合言葉は知らない」と言った主人公たちに「ならばこの街から出て行け」と兵士たちが迫るところまではよいのですが、その後の選択肢がお粗末です。「兵士たちを説得するのをあきらめる」のではなく「言われた通り街を出て行く」という選択肢にするべきです。そうしないと、やりとりの結果が非常にわかりにくくなります。
　それから、富の国の平原(２６番)に着いたとき、ドトリガーに食料を与えると全部食べられ、しかもドトリガー使いラハベの助けが得られなくなります。戦おうとした場合のみラハベの助けが得られ、平和的に解決しようとした場合はラハベの助けを得られず、スーパーマントを手に入れるためにはアテナのテレポートの魔法に頼らざるを得ないというのはあまりにも理不尽です。「戦うだけが能ではない」ということを一貫させるべきだと思います。
　そして、なによりも不満な点は「エンディング」です。
　第１巻のエンディング、第２巻のエンディングと比べて最終巻である本作品のエンディングはあまりにも短く、拍子抜けしてしまいます。ゾウナを倒すために共に戦ってきた仲間である主人公たちをさしおいてすぐに神の国に帰るのは早すぎるのではないのでしょうか。仮にもワルキューレが神の子ならば、世界を救った主人公たち１人１人が故郷に凱旋するのを見届けてから神の国に帰るのが主人公たちに対する礼儀ではないでしょうか。私が筆者ならば、アテナの凱旋→サンディの凱旋→ニスペンの凱旋→主人公のマベルラへの凱旋を経て、主人公と主人公の両親、友人のヤッシムをはじめとしたマベルラの町民全員に見送られてワルキューレが神の国へ帰るようなエンディングにします。「終わり良ければすべて良し」という言葉がありますが、その裏としては「終わり悪ければすべて悪し」なのです。第１巻、第２巻のエンディングが良かっただけに、これは非常に残念です…。
　『ワルキューレシリーズ』の大きな特徴としては、昭和から平成にかけての刊行だと思います。これも一種の“時”の伝説です。
　この「ワルキューレシリーズ」をプレイしてから、私は「死」の意味について考えるようになりました。人々が「死」を恐れる最大の理由は「未知への恐怖心」からだと思います。「死」の世界は未知の世界であり、しかも一度この世界へ旅立つと、もう戻って来ることはできません。また、「死」に伴う苦痛もあるかと思います。「死ぬ」ことに苦痛を伴わなければ、自殺をする人が今の数倍は出てくるのではないのでしょうか。よく漫画などで「不老不死の薬」が出てきますが、自分だけ不老不死になっても、それは永遠の孤独以外の何者でもないと思います。自分の愛する人が次々と亡くなり、次の世代に愛した人々も次々と亡くなり、その次の世代も…。こうしてみると、「死」というのは全ての生物にとって、必要不可欠なものなのかも知れません。

　ところで、第２巻及び第３巻の初めに出てきた、神の子ワルキューレをも金縛りにできるほどの力を持つ「善い魔法使い」の正体は一体誰だったのでしょうか。各巻の「あとがき」は、全て著者が「魔法使い」風な語りをしています。そのことから推測すると、「善い魔法使い」の正体は著者だったという見方が一番妥当でしょう。

←　『ピラミッドの謎』　｜

2008/10/14

直前のページに戻る

トップに戻る

(C)批判屋　管理人の許可なく本ホームページの内容を転載及び複写することを禁じます。