ドラゴンバスター

ドラゴンバスター

　ニブルヘイムの山々に初雪が降った。その山々に巣窟を築き、隙あらば王国ローレンスを乗っ取ろうと企むドラゴンがついに行動を開始したのだ。突如雷雨とともに現れたゴールデンドラゴンが現れ、ローレンス第二王女セリアをさらおうとした。これを阻止せんと、セリアズを隊長とするローレンスの親衛隊が立ちはだかったが、ゴールデンドラゴンの前に斃れ、セリアは誘拐されてしまった…。
　翌日、ローレンス城の使者はすぐさま親衛隊長セリアズの第一子であるクロービスのところに早馬を飛ばした。使者はクロービスに、セリアズの死とクロービスの幼馴染でもあるセリアの誘拐について話した。途端にクロービスの全身に怒りと憎しみが湧き起こった。父を殺し、愛するセリアを拐かしたドラゴンに対する怒りと憎しみを。これらの感情は、ゴールデンドラゴンの死を以ってしか収まらぬ。
　クロービスの任務は言うまでもなかった。ドラゴンを倒し、王女セリアを無事助けることだ。
　…このクロービスこそが主人公である。

　『ドラゴンバスター』は、ゲーム会社ナムコが1987年に製作したファミコン版のアクションゲームです。しかし、元来はアーケードゲーム(ゲームセンターにあるテーブル型ゲーム機)として1985年に既に登場していたのですね(私はこのことを全く知りませんでした)。『ドルアーガの塔』や『ゼビウス』そして『ワルキューレの伝説』などと同様、ナムコのテレビゲームが東京創元社にてゲームブック版となった作品のうちの一つです。
　ゲームブック版『ドラゴンバスター』の著者である古川尚美氏は、本書の154番で“バルキリー・ナヲミ”の名前で登場します。
　テレビゲーム版と同じく、このゲームには魔法も登場します。巻物によって魔法を覚えられるという点も共通しており、魔法を覚える毎に魔力ポイントがどんどん上昇し、より有利になります。魔法の処理はパラグラフジャンプで行われ、これもまた新しい試みとなっています。
　物語もテレビゲーム版と同じく、ドラゴンに誘拐された王女セリアを主人公クロービスが助けに行くという内容です。ドラゴンも数種類おり、それぞれがかなりの強敵となっています。但し、テレビゲームのような一方通行型ではなく、双方向型のゲームとなっています。
　双方向型の最大の問題点である“同じ場所を二度以上通る場合の処理”も考えられています。一度倒した敵と次に闘うときは敵の戦力ポイントを(倒した回数+1)倍するという恐ろしいアイデアが埋め込まれています。これではどんなザコ敵でも無限に倒すことは不可能であり、能力値を桁違いに増やすという裏技を阻止しています(敵が極端に強くなりすぎるという難点もありますが)。
　2番において「上着が汚れていたら店には入れてもらえない」という発想もなかなか面白いものです。身だしなみに気を遣う女性ならではの発想ですが、これはもう一工夫入れてほしかった点もあります(後述)。
　こういった良い点も、このゲームにあるにはあるのですが、しかし、私個人としてはこの作品に対する全面的な評価は良くありません。
　この物語の難点としては、プレイしていくうちにだんだん腹が立ってくるということです。
　まずは、ローレンス王国の人々があまりにも不親切で卑劣極まりないことです。居酒屋での賭博で勝ち過ぎると金貨を巻き上げられたり、宿屋では碌な目に遭いません。スタジアムでの観客は誰も彼も自分勝手な輩ばかりです。上着の汚れを落とすにはクルトの泉(418)に行くかもしくはアイテムショップ(128番)で新しい衣服を買うしかありませんが、回数が限られており、これも腹立たしさをより一層引き立たせています。
　次に、双方向型ゲームブックでありながら一度入ってしまうとクリアまで外に出られないという場所があります。アルバトロスマウンテン(33番→53番)がそうです。ローレンス王国にいる女装したシダの話を聞いていない状態でアルバトロスマウンテンに入ってしまうと悲惨です。必要な手がかりが足りないと「ツマリ(行き詰まり)」の状態となり、それ以上進展しなくなります。先へは進めず、と言ってローレンスにも戻れず、永久に“阿呆”山に幽閉されてしまうことになります。また、シーガルマウンテンに閉じ込められているバルキリー・ナヲミを攻撃した場合にも「ツマリ」が出て来ます。
　そして、何よりも個人的に『ドラゴンバスター』のエンディングが大嫌いです。嫌いな部分を以下引用します(特に赤字部分)。

　しかし、彼女の婚礼の話も遠からず出てこよう。相手は、どこかの国の王子にちがいない。身分が違うのだ。見つめ合うことはあっても、英雄と称えられても、これから先、決して人生を共にすることはできない。

　身分が一体何なのでしょうか。身分が人を造るのではなく、人が身分を造ったに過ぎません。せっかく苦労してクリアした結果がこれか、と落胆した憶えがあります。「凱旋＝諦め」という図式にしてしまっている場面には幻滅です。私がクロービスならば、セリアと駆け落ちして、二人で放浪の旅に出かけるでしょう。まるでドラゴンクエストⅠのエンディング(主人公がローラ王女と一緒にローレシア城から放浪の旅に出る場面)です。

　さて、この『ドラゴンバスター』の主人公は男性ですが、2004年に創土社よりリメイク版として“女性版”の『ドラゴンバスター』が発刊されました。リメイク版の方は、私の腑に落ちぬ部分がだいぶ改善され、そこそこ楽しめる作品となっています。その名は…

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2007/01/15

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