ドラキュラ城の血闘


 1912年4月1日付<ロンドン・タイムズ>の求人欄――この記事に目をとめたことが、そもそもの始まりだった。
「優遇・高報酬。杭を打ちこむだけの簡単な作業。経験不問 希望者は、EC52番地のヘルシング教授宅まで。」
 この記事を読んでついその気になった主人公が、ヘルシング教授宅を訪れると、既に5人の志願者がいた。細身の紳士クリストファー、天才少年スッピルバーガー、トランプ作りの職人アルカード、大英博物館際物展示室の責任者ボルヘ、そしてロンドン赤色憎悪会副会長のマッカーシー。
 実は“杭を打ちこむだけの簡単な作業”というのは、トランシルバニアに城を構え、夜毎人の生き血を吸うドラキュラの心臓に杭を打ちこむことだったのだ。
 主人公は辞退しようとした。しかし、時既に遅く、ヘルシングに差し出された紅茶に含まれている睡眠薬がその効果を表し始めていた……。

 『ドラキュラ城の血闘』は、J・H・ブレナン氏の作品です。
 J・H・ブレナン氏と言えば、まずグレイルクエスト(ピップシリーズ)を思い出させますが、この作品はグレイルクエストではありません。しかし、システムはかなりグレイルクエストと共通するところがあります。あの14行きも健在です。そしてまた、詩をつくるのが好きなあの魔神も……。
 グレイルクエストとの相違点は、生命点の呼び名と闘いの規則です。まず、生命点は血液点という名に変わっています。実質上生命点=血液点です。それから、今回の闘いは、交互に攻撃し合うのではなく、サイコロ2個を振って出た目を比較する方式になっています。出た目の大きい方が小さい方の目との差をダメージとして与えるわけです。また“弱点”というものがあり、相手の弱点の目を出すと、自分のサイコロの目が倍になります。例えば、主人公の弱点は4ですから、敵がサイコロで4を出すとそれは8になるわけです。
 ドラキュラ退治というと、GDFシリーズ第1巻『吸血鬼の洞窟』や学研のシミュレーションゲームブック2巻『妖怪の館』、同12巻『妖怪伝説』にも出てきますが、いずれもENDになったときの描写が恐ろしいのです。しかし、この作品はブレナン節だけあって、全体的に明るい描写なので、恐ろしい描写と言ってもせいぜい14行きになるくらいです。
 さて、冒険の内容ですが、ドラキュラを退治するつもりですから当然返り討ちに遭ってしまうことも――そう、自分が吸血鬼になってしまうこともあるわけです。この作品の大きな特徴としては『吸血鬼編』もあるということです。吸血鬼に噛まれると『吸血鬼編』に飛ばされます。吸血鬼になっても城の場所そのものは変わりませんが、状況が異なります。人間のときには貴重な品だった聖水やニンニク、十字架などは、吸血鬼になると不要どころか危険極まりない代物になるわけです。そして、吸血鬼になると当然目的も変わります。今度は、ヘルシング教授を倒すのが目的となります。『人間セクション』では明朝体だった字体も、『吸血鬼編』は字体が変わります。また『吸血鬼編』では3人称が「おまえ」表記となります。これも、主人が威厳のある存在という雰囲気を醸し出しています。できれば吸血鬼にはなりたくないものですが、しかし、吸血鬼にならないとクリアはできません。というのは、吸血鬼でないと手に入らない鍵もあるからです。人間と吸血鬼の両方を堪能して初めて真の冒険者(?)と言えるでしょう。但し、人間に戻れるのは3回までです。4回以上吸血鬼に噛まれると、人間には戻れなくなります。
 「ドラキュラ」を示唆する名前は、前述の学研シミュレーションゲームブック『妖怪伝説』115番にも出てきます。小学生だった当時、私は何故ドラキュラかわかりませんでしたが、この作品でこの謎が解けました。ソーサリー3巻『七匹の大蛇』において7人の精霊さんたちが女神リーブラを侮辱する文句や、「赤坂」は“逆”から読んでも「赤坂」というのがヒントです。
 この作品には2種類のエンディングがあります。人間でクリアすると「恐怖の報酬」、吸血鬼でクリアすると「血の収穫」となります。

 この作品には、様々な名前のパロディがあります。ブレナン自身のパロディを初め、FFシリーズのS・ジャクソン、グーニーズの主題歌を歌っているシンディー・ローパーなど、様々な名前が出てきます。人間編の「恐怖の報酬」ではタイタニックの話が出てきますし、吸血鬼編に出てくる「カトルストンパイ」というのは、童謡“くまのプーさん”に出てきます。
 グレイルクエストとは一味違ったブレナン節を楽しめる作品です。

2012/10/12


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