Chocolate Knight(チョコレート・ナイト)


 ぼくの名前はポポレイポラ。森のファジィ族で一、二を争う勇者で、この物語の主人公だ。
 ぼく達が住む森の近くのお城に、いつもぼくたちに食べ物を入れたバスケットを残していってくれる美しいお姫様が住んでいた。
 そんなお姫様にある日不幸がふりかかった。お姫様の父君つまり王様が病に倒れたらしい。そしてお姫様のもとへ悪名高いコーシュマル城の城主ジェットフィンガーから一通の手紙が届いた。その手紙によると、王様の病気はジェットフィンガーが調合する「びゃくしんたん」という薬でないと治すことはできないらしい。そして「びゃくしんたん」を調合する条件としてお姫様がジェットフィンガーに縁談を申し込んできたのだ。おのれジェットフィンガーめ。お姫様を自分のものにするために王様に呪いをかけるとは許せん!早速ファジィ族の長老たちの間でお姫様の窮地を救わんとする会議が開かれた。誰かがファジィ族の使者としてコーシュマル城に赴き、ジェットフィンガーに「びゃくしんたん」をもらい受けお姫様との縁談を破棄するよう話し合うということだった。この大役を引き受けたのはぼくの他にも6人いた。しかし、ぼく以外の6人は全員挫折し、ぼくだけが残った。こうなっては大変だ。早くコーシュマル城へ行かないとお姫様が早まったことをしないとも限らない。
 こうしてぼくは、お姫様を助けるべくコーシュマルの町へ向かった……。

 『チョコレート・ナイト』は鈴木直人氏の作品です。前作『パンタクル2』の刊行から10年の月日を経て2001年12月に創土社から刊行されました。本来は『パンタクル2』の次作品として東京創元社から刊行される予定でしたが『パンタクル2』が刊行された頃からゲームブックの売れ行きが悪化したために刊行されなくなったという話があります。この『チョコレート・ナイト』は創土社の酒井武史氏の熱意で刊行に至ったそうです。
 内容ですが、鈴木作品初の「完全一方通行型」です。『ティーンズ・パンタクル』も「一方通行型」ですが、後半の洋貝台の街並を歩く場面は「双方向型」の部分があります。それに対しこの作品は「完全一方通行型」となります。この冒険の目的は「お姫様に結婚を無理強いしたコーシュマル城の城主ジェットフィンガーを倒す」とはっきりしていますが、どちらかというと途中にあるパズルを楽しむゲームブックといった方が適切かもしれません。冒険前に技術点や体力点といった数値や出発時のアイテムなどを記す「アドベンチャーシート」なるものはなく、普通のメモ用紙に「番号のメモ」と「記号のメモ」を記す欄を作るだけですぐに1番から始められるようになっています。戦いのルールは必要な場面できちんと説明してあり、基本ルールのページと今の項目番号を行ったり来たりすることなく楽しめるようになっています。描写の主語が時々変わり、主人公のポポレイポラの目線からだけではなく敵の目線から見た場面も表しており、主人公一辺倒にならない秀逸さが出ています。
 ところどころ出ているパズルの種明かし(謎解き)はパズルを解いた後にきちんと載っています(詳しく載っていない作品については研究室にて)。
 鈴木作品ならではの「死」の番号は健在ですが、今回は必ずしも1番に戻る必要はなく、一種のセーブ機能があります。これは「一旦クリアした謎を無駄に繰り返し解かずにすむ」という筆者の心遣いと思われますが、実はこの機能は中途半端と言えなくもありません。これについては後述します。
 なんといっても見所は最後のジェットフィンガーとの戦いです。これはお互い36マスのうちから隠れているマスを探し当てるというゲームで、よくできています。このシステムは単純計算をして108項目は必要であり元々項目番号を取られるところだと思いますが流石は鈴木システム、うまく処理してあります。ただ、398番に「多くても8回で仕留められる」とありますが、私がジェットフィンガーだったら7回以内でポポレイポラを仕留められます!これは気づかない人の方が多いので研究室には掲載しません。このネタはある種の「切り札」として保存しておきたいので「7回以内で仕留める」方法についてお問い合わせの方は私宛てにメールを送ってください。「答え合わせ」という形で返信したいと思います。
 秀逸な点が目立つ一方、残念ながら問題点もいくつかありましたので列挙します。
 まず、初版の悲しき性ですが『パンタクル1.01』と同じく誤植の山(それもかなりの量)です。それから、前述したように4番に着いたときの「D」の数の処理が甘い点もあります。「D」の数でセーブ先を振り分けているのであれば、デッドエンドパラグラフ(4番へ直行する番号)において「D」の数を指定すべきです。また、165番では「トーンのかかった豆電球は消えている」という記述がないとわかりにくくなります。
 とは言え流石は10年ものです。34番にある「面倒臭くないゲームブック」の完成版と言っても過言ではないと思います。ゲームブックのシステムとしては初心者向け、パズルとしては上級者向けという「パズルゲームブック」となっています。

 ところで、ポッポレイポとポポレイポラは、明治製菓の「♪チョッコレイト〜チョッコレイト〜チョコレイトは〜め〜いじ〜」というCMから来たという噂ですが…。確かにポポレイポラの仲間(エンゼル、カバヤ、ロッテ、メージ、シスコ、ナビスコ)は全部お菓子関連の名前ですからねぇ。

2007/07/31


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