眠れる竜ラヴァンス


 ここは、大いなる土地バルジニア。この地に深刻な危機が訪れようとしていた。
 遡ること三十年前、冥王モーレグの暗黒兵団がバルジニア一帯を征服せしめんとこの地を攻めてきた。しかし、ウェルドー国はバルジニア最強の部隊を率いて何とか暗黒兵団を撃退し、モーレグも北の地へ追放された。この戦いは、後に「灰色戦争」と名づけられた。
 「灰色戦争」に敗れたモーレグは、その後も何とかバルジニアを征服出来ないものかと、野心を燃やしていた。そして、長い年月の末、ついに伝説の暗黒竜アーリマンを蘇らせることに成功した。このような経過をたどって、数ヶ月前、モルレガルドにモーレグの前哨基地が建設された…。

 ウェルドー国では賢者たちの集会が開かれた。ある日、「灰色戦争」以来行方がわからなくなっていたベストファリアのオルセン老師――ウェルドーの大魔道師その人――からの手紙がきた。その手紙によると、バルジニアには暗黒竜アーリマンとは対照的な善なる竜ラヴァンスが眠っているらしい。ウェルドー国を救うには、眠れる竜ラヴァンスを蘇らせ、暗黒竜アーリマンと冥王モーレグを倒さなければならない。同封の古文書にあるアフラマズダの呪文書を練達の魔法使いに学ばせてオルセン老師を訪ねる、というのがオルセン老師からの指示であった。
 この任務の適任者として主人公が選ばれた。主人公は、このアフラマズダの呪文書の呪文を覚え、北の大城砦まで赴くことになった…。

 『眠れる竜ラヴァンス』は、「ドラゴンソング・レジェンド・シリーズ」(以下ドラゴンソングシリーズ)の第一巻目の作品です。著者は滝日省三氏です。
 「ドラゴンソング」シリーズは全三巻あり、この作品は第一作目にあたります。実は、この作品も「未完結作品」の部類に入ります。2007年10月19日現在は、まだこの一作目しか刊行されていません。
 物語の世界としては、ファンタジー世界にはよくある中世の科学&魔法の発達した背景という馴染みのある世界です。道中、森エルフのシーバッツやミンター、今は亡き肖像画のビブル、刀剣の職人アンバーダッシュ、女魔法使いカンパネラ、トカゲ王ラスムーゼン、力自慢のアームストロング、邪司教グレートスカルなど、さまざまな個性あふれるキャラクターが登場します。ルールや本文を読み進めて行くとわかるのですが、この作品はFFシリーズ、とりわけソーサリーシリーズの影響をかなり受けています。というのも、この作品の至るところにソーサリーシリ−ズに出て来た構造によく似た構造が出て来るからです。いくつか例を挙げてみます。冒頭の「アフラマズダの呪文書」にある「魔法使いの心得」は、ソーサリーの魔法の呪文の書に書いてあることと大体同じです。呪文JOTIFAを唱えるのに必要な“ロータスの実”は『魔法使いの丘』の73番に出てきた、黒いロータスの花から来ています。156番の崖登りに出て来るパラグラフの選択はソーサリー4巻『王たちの冠』の150番に出て来た「闇夜の間」そのものですし、モンドバ寺院入口の番兵リザードマン(445番)を倒すのに時間がかかり過ぎると応援を呼ばれてデッドエンド(239番)という場面も『王たちの冠』の577番に類似のデッドエンドがあります。モンドバ寺院の地下迷宮に潜んでいる衛兵ピンヘッドの追跡行(312番)は『火吹山の魔法使い』の「ザゴールの迷路」に出て来るワンダリングモンスター(161番)の構造と似ていますし、同じく地下迷宮の最初の十字路東にある中途半端な鉄格子(473番)は『王たちの冠』に出て来る牢獄の罠が思い出されます。また、地下迷宮の奥深くに潜んでいるグレートスカル(459番)に出くわして呪文DESKULを唱えたときのパラグラフジャンプの説明(544番)はソーサリー3巻『七匹の大蛇』の130番(蛇の指輪の説明文)とよく似ています。そして、ドラゴンの封土の守護神ザロスの間(399番)において呪文MANORAMARONAと「唱え間違える」ところは、ソーサリーの「こんな呪文は存在しない」にあたります。それから、普通の敵一体につき経験値1ポイントは『ドルアーガシリーズ』にも出て来たシステムです。よく言うと引用、悪く言うと剽窃・盗作と言ったところでしょうか。
 この作品のもう一つの大きな特徴として、イラスト内の謎解きが多いことが挙げられます。ビブルの問い(248番)、アンバーダッシュの問い(113番)、カンパネラの正しい護符(220番)、そしてドラゴンの封土への謎解き(451番)が主な謎解きです。また、277番の行商人(ケイブスパイダーの餌食になるところだった男)のアドバイスは325番のアームストロングのことを指します。これもある意味イラスト内の謎解きに属すると思います。著者も述べていましたが、イラストレーターの竜胆丈二氏は本当によくがんばったと思います。これらの謎解きはかなり難しいと思いますので、例のところで…。
 ただ、残念ながら、この作品においてもかなりの矛盾があります。例えば5番において「食料を全部消す」という指示の直後になぜ「食料を持っているなら休憩してよい」とあるのでしょうか。恐らく「持っているワケがないだろうが!」と思われた方も少なくないと思います。また、個人的な感想ですとところどころにおいて正しくない仮名を振っているのが気に入りません。例えば、313番や361番そして406番のように“理由(りゆう)”を“わけ”と仮名を振ったり、392番のように“戦利品(せんりひん)”を“おたから”と仮名を振るのは、少年漫画の悪いところを真似しているに過ぎません。尤もこれを言ってしまうと『火吹山の魔法使い』に出て来る“地下城砦(ちかじょうさい)”も“ダンジョン”と仮名を振っているので限(きり)がありませんが。せめて日本語の仮名くらいは正確に振りたいと個人的には強く思っています。これについては、ここでは論旨から外れますので『学術の部屋』にて…。
 今振り返ってみると、『ドラゴンソングシリーズ』は、当時既出の他の作品のよいところを筆者なりに取り入れている面があり、これは先駆者たちへの敬意とも取れるのですが、しかしその一方で「剽窃」あるいは「盗作」と謗(そし)られても文句は言えないな、という気もします。
 とは言え、最後のラヴァンスを目覚めさせるシーンはなかなかのもので、これはこれなりに楽しめる作品ではあるでしょう。

 ところで、ラスムーゼンの珍しい物好きという性格は私にも当てはまります。私がラスムーゼンだったらFFシリーズ18巻『電脳破壊作戦』や28巻『恐怖の幻影』といった、私が持っていないFFシリーズを所望したりします(あとは東京創元社から刊行予定だった『機竜魔の紋章』も)。昭和の時代から凡そ20年経った今では社会思想社版の「火吹山の魔法使い」もラスムーゼンへの贈り物としては良いかも知れません。

2007/10/19


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