パンタクル2


 ぼくの名前はメスロン。森の国シャンバラーの故セフィロト王の次男。
 ある日ハシーシュ煙草を買いに行ったぼくは、途中でパンタクルをなくすという大きなヘマをした。パンタクルがないとぼくは何の魔法も使えない。おまけに、なくした場所というのはぼくの家バルカン修道院までは、パンタクルならわずか5分足らずで行かれるところだけど馬だと5日はかかる場所だった。ぼくは馬を買い、野宿をした。悪いことは重なるものだ。普段野宿なんかしないぼくは風邪を引いて森の中に倒れこんでしまった……。
 そんなついていなかったぼくを介抱してくれたのは、ぼく以上についていなかったファジー族だった。ファジー族というのは猫に似た小さい種族で、そのファジー族のオーバーリーフ長老の話によると、ファジー族の森の神殿にあるウェイブヒルの三冊の魔法の書が秘密結社ドルイド教団の手の者によって盗まれてしまったらしい。ドルイド教団とは世界の黒魔術を支配する強力な集団で、恐怖で世界を支配しようという野望を抱いている。ファジー族の敵う相手ではないが、それでも彼らは魔法の書を取り戻すべくドルイド教団の本拠地であるアマルティアまでやって来たという。
 ぼくは、ファジー族の代わりにウェイブヒルの魔法の書を取り戻す役を引き受けることにした。3日間も病気のぼくを看病してくれたファジー族には何としてもお礼がしたい。それに、普段からドルイド教団のやり方には腹が立っていたし。
 こうして、ぼくはウェイブヒルの三冊の魔法の書を取り戻すべく、アマルティアに潜入することになった…。

 『パンタクル2』は、鈴木直人著『パンタクル』に次ぐ魔道士メスロンの第二弾です。
 これまでの鈴木作品を振り返ってみると、鈴木作品には何らかの形でメスロンが登場します。『ドルアーガシリーズ』『パンタクル』そして『ティーンズ・パンタクル』と、なんと過去5作品に登場しているのです。もともと魔道士メスロンは東京・飯田橋のガード下で靴磨きをしていた鈴木直人氏の元に現れた(『悪魔に魅せられし者』のあとがきより)という話ですからメスロンは鈴木直人氏の分身といっても過言ではないでしょう。
 さて『パンタクル2』ですが、『パンタクル』と比べて全体的に雰囲気がガラリと変わっています。それは、主人公の表記方法が「あなた」という読者主体の三人称表記ではなく「ぼく」という主人公主体の一人称表記だからです。前作『ティーンズ・パンタクル』から始まった、この一人称表記こそ鈴木氏が最もやりたかったスタイルではないかと思います。メスロンの目線から物を見た文章になっているので臨場感あふれる内容になっています。「ブレナン節」ならぬ「メスロン節」「鈴木節」と言ったところかも知れませんね。
 今回は、アマルティアという地下要塞が冒険の舞台です。7つのエリアに分かれており、一階層ずつクリアしていくことになります。今回も、林作品でいうところの「キーNo.管理」として「経験記号」が登場します。これもまた精密な構造となっています。そして、新登場する経験値として“B経験値”があります。このB経験値は、逆に主人公メスロンを弱らせるもの(毒、怪我など)であり、決してためてはいけない経験値です。決してためてはいけないというものの、結構たまるものであり、B経験値が10ポイントずつたまるとどんどん弱っていく仕組みとなっています。
 『パンタクル2』は、これまでの鈴木作品の冒険の数々を物語っている面もあり、過去に登場した名前がチラホラと話に出てきます。『ドルアーガシリーズ』にも登場したあのミツユビオニトカゲも健在です。しかし、今回は手に入る機会も限られており、全部で2回しか手に入る機会はありません。蘇生するパラグラフに「生き返るときはいつも不安だ」とあるのは、恐らくこの作品で何度も最初からやり直しをしている人向けの言葉だと思います。
 途中の手がかりもまた満載で、ここでは全ての言葉に意味があります。これについてはまた研究室の方で調べることにしましょう。
 魅力あるキャラクターもたくさん登場します。反乱軍のリーダーであるアゾット、猫のポッポレイポ、骸骨のウェイブヒル八世、そしてゾンビのアバドンですが、今回一番忘れてはならないのは“常にタイミングの悪い”男オトアップ氏ですね。オトアップ氏は、ドルアーガシリーズ3巻『魔界の滅亡』や『スーパーブラックオニキス』に出てきたパオト氏の分身らしいですね。PAOTOを逆さに読むと…
 『パンタクル』以降の鈴木作品の戦闘方法はFFシリーズの戦闘ルールを踏襲しており、これはこれでよいのではないかと思います。今回出てくる武器戦闘の“同時に襲いかかってくる複数の敵との戦い方”は、まさしくFFシリーズの踏襲の極みです。但し、今回は鬼麻呂ではなく普通の武器を持って戦うことになります。それも「あまり良い武器は出てこない」そうです。そう、今回は「魔法戦闘」が主となっているのです。
 今回は、メスロンの知っている15種類の魔法は使えません。その代わり、ドルイドの魔法を一つ一つ覚えていくことになります。戦闘欄にメモする数字で交通整理している構造は鈴木作品ならではの秀逸な構造です。
 この作品で敢えて難を言うと、蘇生したときに「B経験値を0に戻す」という指示があっても良かったのではないかと思います。B経験値を減らせる機会も途中では2回しかなく、しかも減らせる合計は30ポイントです。最後の510番でB経験値を全部減らせますが、あまり意味はありません。
 とは言えさすがは鈴木作品、次にどんな仕掛けが出てくるか予測出来ません。この作品をつくるのに相当苦労したことは間違いないと思います。

 さて、『パンタクル2』は、『スーパー・ブラック・オニキス』と同じく次作品があるような終わり方なのですが、しかし『パンタクル3』は無期未刊状態となっているようです。その代わり、21世紀の初頭に登場した創土社版の『チョコレート・ナイト』があります。

2007/07/15


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