スーパーブラックオニキス


 時は9月30日、1人の赤毛の戦士が呪われた街ウツロの外に広がる砂漠を大股で歩いていた。
 この男の名はテンペスト。いつか“ロト”や“ギルガメス”といった有名な英雄になることを夢見ている。このテンペストこそが主人公である。
 主人公の故国は、大きな戦により滅亡。唯一の生き残りとして敵軍の目を逃れた。自分でもなぜあの強力な敵陣を突破できたかは分からない。自分の潜在能力に、自分自身まだ気づいていないのである。
 ついに、主人公テンペストは呪われた街ウツロへ到着した。ウツロに降りかかる呪いのせいで、ウツロの街には一日中雨が降り注いでいる。噂によると、秘宝ブラックオニキス――莫大な富と永遠の若さをもたらす宝石――がこのウツロの地下に潜んでいるらしい。これまで、腕に覚えのある冒険者達が数多くブラックオニキスを手に入れんと挑んだが、成功した者は皆無である。未だ嘗て入手に成功した者がいないブラックオニキスを手に入れれば、主人公も“ロト”や“ギルガメス”に並ぶ英雄となるだろう。
 しかし、主人公はまだ知らなかった。もしブラックオニキスがこのまま見つからなければ、この国は10月20日に破滅を迎えるということを。

 『スーパーブラックオニキス』は、日本のゲームブック作家として名高い鈴木直人氏の作品です。
 この作品は、『魔界の滅亡(ドルアーガシリーズ第3巻)』の718番に出て来た『ウツロの街』が舞台です。
 鈴木作品は『双方向型』が多く、この『スーパーブラックオニキス』も同じ場所を何度も行ったり来たりできます。
 主人公の他にも、盗賊バムブーラ、魔術師シモン、そして僧侶タラミスといった仲間が魅力的です。彼ら3人は、いずれも暴君マサイヤに指名手配されており、堂々と街を歩けません。ですから、ウツロの街は通常主人公1人で歩くことになります。
 タラミスは1人しかいませんが、バムブーラとシモンは3人おり、それぞれ長所と短所を持っています。バムブーラ特有のパラグラフジャンプにも差がありますし、シモンの能力や魔術力にもかなり差があります。どのバムブーラもしくはシモンにするかで、冒険の難易度がかなり違ってくるでしょう。これについても、ウツロの街にヒントがあります。誰が一番有能で誰が一番劣っているかは各人によって評価が違うと思いますが、一般には<B−4>より右のチェックが多いほど有能なバムブーラ、そして<C−4>より右のチェックが多いほど有能なシモンとされているようです。
 ドルアーガ三部作と同じく、ウツロの街や五つの迷宮及びブラックタワーは、完全な地図が作れるようになっています。レベル3の迷宮で『マッパー』を手に入れると、地図の作成が比較的楽になると思います。さて、ウツロの街はどのくらいの広さでしょうか。鈴木直人作品に出てくる距離の単位に「ブロック」があります。この「ブロック」は5m×5mです。そして「スクエア」は4ブロック×4ブロックですから、1スクエアは20m×20mです。そうすると、ウツロの街は東西8スクエア×南北12スクエア、つまり東西160メートル×南北240メートル。相当小さい街ですねえ。
 内容ですが、さすがに鈴木作品だけあって各イベントが600パラグラフに濃密に収まっており、実質700〜800項目くらいあるような気がします。
 しかし、難点もいくつかあります。
 まずは、一旦迷宮に入ると体力を回復する手段が極端に少なくなるのが難点です。この冒険には食糧や体力回復薬の類が出て来ないので、タラミスと出会うまでの迷宮(レベル1〜3)では、途中で体力を回復する手段が一切ありません。
 次に、この冒険では一旦戦闘に入ると敵から逃亡することが出来なくなります。尤も、その代わりに敵は一撃で死んでくれるのかもしれませんが。
 また、シモンに体力がある限りは、たとえどんなにシモンが危険な状態でも(例:体力1)シモンは過労死するまで魔法を使い続けなくてはならないのも腑に落ちません。私は、シモンを死なせたくはないため、体力が1になったら彼を戦闘から外しました。使えるだけ使って、後は見殺しというのはいただけません。尤も、作者の意図としては「シモンを戦闘に参加させるかどうかは読者の任意」なのかも知れませんが。
 とは言っても、基本的なシステムはしっかりしているので、これが作者の「意図的」なものという捉え方もなくはないのですが。

 その他、私が少し悩んだ(?)ことを列挙してみます。結構馬鹿馬鹿しいのですが(笑)。
 もしも80番で主人公一行が岩山に行かなかった場合、タラミスはそのまま火あぶりの刑に処されます。この場合は一体どうなるのでしょうか。誰か他の僧侶の火あぶりか、さもなくばタラミスは何度でも甦る…とか?
 また、第3版(1989年4月14日)以前のものは、192番(レベル3迷宮でマッパーがある番号)の途中は文章がさかさまになっています。当初私はこれも何かの演出かと思っていたのですが、今考えてみると、これって単なる印刷ミスだったのですね(笑)。

 『スーパーブラックオニキス』の設定の日付通り、本当に9月30日にプレイを開始して、10月20日までにプレイを終わらせると臨場感あふれる作品となります。ちなみに、私は毎年9月30日〜10月20日をオニキス期間と呼んでおり、毎年オニキス期間になると、必ず『スーパーブラックオニキス』をプレイします。秋の長雨にはぴったりの作品です。この点を考慮するならば、初版発行日を9月30日にして欲しかったところです。
 ちなみに、初版発行日は18年前の今日となっております。

 さて、この『スーパーブラックオニキス』にはどうやら続編があるらしいのですが、その続編は未だ刊行されていません。著者は、よもや忘れてはいませんよね?あとがきに「わたしはぐうたらなので、あまり期待しないで待って欲しい」とありますが、一体いつになることやら…。この「ブラックオニキス」の他にも、続編があるはずなのに未刊行というのも数多くあります。それは、また順を追って解説します。


 もうひとつ……私は最初「ブラックオキニス」と呼んでいました(笑)。

2005/12/24


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