ドラゴンの目


 ここは、アクタンの街の高名な大学、真実の光アカデミー。エルダー王国で魔法使いの位を修めた主人公は、晩餐会の賓客として招待されていた。やがて晩餐が終わると、コストゥリオ先師が評議会を代表して主人公をアカデミーに招いた本当の理由を述べた。
 はるか千年の昔、タリオスという強大な都が栄えていた。しかし、タリオスは何週間にも渡る大地震と大津波により、そのほとんどは海面下に没してしまった。今日のタリオスは、ただの廃墟に過ぎない。アカデミーは、このタリオスに少人数の考古学調査団を送りこんだ。そしてつい最近、この調査団の団長であるジールー導師とその助手たちが、最強の魔力を持つと言われる伝説の至宝“ドラゴンの目”を発掘したとの知らせが入った。“ドラゴンの目”を安置した箱の周りには数々の呪いや魔法の罠が仕掛けられており、それらを解除せずして開けるのは自殺行為に等しい。“ドラゴンの目”を無事に持ち帰るためには、練達した魔法使い――例えば主人公のような――の力が必要であるとのことだった。
 主人公がタリオスまで船で行く手はずや、タリオスに着いてからのジールー導師とその護衛達による“ドラゴンの目”までの道案内といった過程は既に整っている。どうやら、これまでに引き受けた仕事に比べたら、危険などほとんどないようだ。そしてそれ以上に、主人公の頭の中には十世紀もの間失われていた伝説の“ドラゴンの目”をこの目で見ることでいっぱいだった。主人公は二つ返事で承諾した。
 しかし、主人公はまだ知らなかった。海底都市に棲む“ミュー”と呼ばれる史上最凶の集団もこの“ドラゴンの目”を狙っているということを。

 『ドラゴンの目』は、GDFシリーズ5巻です。著者はデーブ・モーリス氏、訳者は大森望氏です。
 GDFシリーズによく出てくる地名――3巻にも出てきた都市アクタンがまた出てきます。
 今回は、GDFシリーズでは初の魔法が登場します。主人公は出発時に12種類の魔法を覚えています。これらの魔法はバルサス方式で、それぞれ冒険中に一度しか使えません。これらの魔法は使用する度に新たに魔力を蓄えなくてはならず、冒険に出ている間の短い期間では十分に蓄えることが出来ないからです。従って、最初のうちからいい気になって使ってしまうと、後々本当に必要なときに使えず泣きを見ることになります。といって出し渋っていると、結局最後まで使わず終(じま)いとなったり、あるいは使う機会もないまま死を迎えたりすることも十分あり得るわけです。「今こそこの魔法を使うべきとき」を見極めることこそが真の魔法使いの技量の一つであることは疑いようもありません。
 『ドラゴンの目』は、GDFシリーズ第一作『吸血鬼の洞窟』と似た構造があります。『吸血鬼の洞窟』ではサファイアに触れたときに「未来を見ることのできる罠」が作動しましたが、この作品ではグルームビル達の「運命の針」(15番)で「砂時計」(226番)に触れたときに「未来を見ることのできる罠」が作動します。戻される場所も「どうしても避けられない戦い」の場面(『吸血鬼の洞窟』では発狂したエルフ、本作品ではジールー導師の四人の護衛)に統一されています。前作品に出てきた罠を別の形にして使い回すのもまたモーリス氏の卓越した技と言えるでしょう。
 内容ですが、流石は12種類の魔法が用意されているだけあり、冒険の難易度は前作『失われた魂の城』のそれを更に上回ります。何よりも必須アイテムの入手が困難なのです。常にギリギリの状態で、高度1m(!)での低空飛行を余儀なく続けさせられるも同然です(なんという比喩…)。この魔法(特に炎のトラ)がもう一度使えたらなあと思ったのは私だけではないはず!で!す!クラーケンを倒した後の宝箱(271番)の中身は、どれか一つだけではなく全部持って行ってもいいくらいではないかと思います。この宝箱の品物は、持って行かれるアイテム数が一つと二つでは大違いです。
 この冒険に出て来る敵もまた強敵揃いです。前述のクラーケン(24番)を始め、闇の怪物(27番)、歩哨蟹の集団(60番)、四本腕の神像(91番)、海の騎士(156番)、ナックラヴィー(204番)、絶望の女神リジア(240番)、血の悪鬼(252番)、マンティス卿(276番)、青銅の像(300番)など、一歩間違えれば命取りになる敵のご歓待(?)です。ジールー導師のいる執政官の宮殿へ行くにあたっては二通りの方法がありますが、いずれを取っても途中の関門で出くわす敵もいます――海の騎士(156番)、ナックラヴィー(204番)、絶望の女神リジア(240番)のいずれかには出くわさなくてはならないのです(私的には、ナックラヴィーを倒した後に何の賞讃の言葉がない(50番→183番)のは不満ですが)。魔法でないと切り抜けられない敵も多く、最後のピラミッドの頂上におけるミューの隊長との一騎討ちでは、恐らくサイコ・バリアの魔法は残っていないことだと思います。…しかしこれらの敵は、残酷だが卑劣な敵ではないのと、必ず倒す手立てがあるという点ではまだかわいい敵です。卑劣かつ倒す手立てがないあの憎きオウムに比べたらまだましです。私に言わせれば、『ドラゴンの目』の最大の敵は、ミューでもなければ青銅の像でもなく、ましてナックラヴィーやリジアでもありません。オウムです!
 東京創元社刊行のGDFシリーズは、難易度順に並べてあるとのことですが、私は6巻『ファラオの呪い』よりも『ドラゴンの目』の方が難しいと思います。項目数がGDFシリーズ最多の310項目というのもありますが、それよりも増して、『炎の神殿』にも出てきた「アイテム欠如によるゲームオーバー」が2箇所もあるからです(うち一つ(114番)は、あのダモンティールよりも憎きオウムの仕業ですが)。

 さて、私が主人公だったら、一つだけ“ドラゴンの目”を私利私欲に使いたいと思います。その用途とは、(↓以下白黒反転↓)

例のオウムを見つけ出し、炎のトラに殺させて焼き鳥にすることです!

 主人公とジールー導師、そして二人の護衛を一瞬でアクタンにテレポートさせる力を持っているくらいですから、ドラゴンの目を使えば探し物を見つけることくらいわけないと思いますが(この用途に使いたいと思っているのは私だけではないはず…です!)。

2006/08/15


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