シャドー砦の魔王


 主人公は、ララッサの勇猛果敢なヴァラフォール王の精鋭、近衛隊の戦士だ。
 その地位についていれば、生活も人望も充実するようなものだが、しかし、7年前からヴァラフォール王の弟アヴェロックの苛政により、近衛隊までもが圧政の手先として市民から蛇蠍の如く嫌われていた。更に数ヶ月前、ヴァラフォール王が死んだという知らせが届いた。
 ある日、主人公はララッサを離れる決心をした。そしてその夜、主人公は馬に乗り、ララッサを出発した。
 2〜3日後、深い森に差し掛かった。そして森のきれたところに建った一軒の丸太小屋に立ち寄った。
 丸太小屋の中には、お百姓のおかみさんと、もう一人いた。主人公は、もう一人の姿を見て驚いた。なんと、その姿こそは、死んだとばかり思われていたヴァラフォール王その人ではないか!噂は間違っていたのだ。王は老いさらばえてはいるものの、ここにこうして生きていたのだ。
 王は、主人公にこの7年間に起こった出来事について語りはじめた。
 弟アヴェロックは、シャドー砦の城主アーケイン・ダークローブによって、魂のない奴隷――吸血鬼にされてしまっていたのだ。ヴァラフォール王は辛うじてこの丸太小屋のおかみさんに救われたものの、ダークローブの魔法により力と生気を奪われ、今の老いた姿になってしまったのだという。
 主人公は王から任務を託される。ヴァラフォール王の剣を携えてシャドー砦へ赴き、アーケイン・ダークローブを討伐するという任務を。おかみさんからお守りの指輪をもらい、主人公――ララッサ第一の勇者はいざシャドー砦への道を旅立っていく…。

 『シャドー砦の魔王』は、GDFシリーズ第二作目です。著者はオリバー・ジョンソン、訳者はマジカル・ゲーマーの各氏です。
 GDFシリーズに出てくるモンスターは、かなりFFシリーズと共通するところがあり、それがこの作品にも出てきています。例えば、240番に出てくるグールもFFシリーズのグールと同じく、4回負傷すると体が麻痺してしまいます。
 そして、沼地の老人に親切にするか否かで、この後の冒険の難易度も違ってきます。特に、アーケイン・ダークローブの手先であるゾンビ・ホークをゴールデン・ホーク(黄金の鷹)に変えたか変えなかったかで、シャドー砦内の難易度は大違いです。
 内部の仕掛けもなかなかのもので、中でも「糸玉」の発想(174番)が秀逸です。確か、これはギリシャ神話に出て来る、ミノス王の迷宮内にいるミノタウロスを倒すときに使われたものだったと思います。糸玉をほどいて迷宮の奥へ進み、用が済んだら糸玉をたどって帰ってくればいいわけです。
 また、この作品には色々ユニークなキャラクターが出てきており、彼らがこの作品に関してなかなか渋い味付けをしています。シャドー砦前の宿屋では、自分の鎧が錆び付いて一年以上も座りっぱなしでいるスナウトのステントリアンがいます(一年以上も座りっぱなしでは普通に立ち上がった瞬間に疲労骨折すると思いますが)。また、シャドー砦内では呂律の回らないトカゲ男のスピッター(128番)やしゃべるブロンズの甲冑戦士(67番)、寝ぼけている魔女(172番)とその魔女に呪われているドワーフ(43番)など、非常に個性豊かなキャラクターに出会います。
 砦の中で行なわれていることも、流石は「あの恐ろしいところ(284番のステントリアン)」だけあります。人間の肉を食べるグールの晩餐会(102番、241番)や、人間の血をワイン代わりに飲む吸血鬼達の酒宴(256番)など、ここが人間にとってシャドー砦がいかに恐ろしい場所かを知る一番の場面でしょう。しかも、人間の肉や血をたった一回飲食しただけでゲームオーバーというのが恐ろしい(?)ところです。
 最後も気を抜けません。終盤に登場する、黒髪の女性の亡霊が曲者です。サー・シルベスタスの名を騙る悪霊の言うことを信じてしまうと…。
 しかし、これだけ魅力的な要素が詰まっていながら、ストーリー性には乏しい面があると思います。もともと主人公は、ララッサを捨てるつもりでララッサを後にしました。そして、ヴァラフォール王の思い上がった遠征により主人公を含むララッサ中の人にまで多大なる迷惑が及んだのにも関わらず主人公は強引にシャドー砦へ行かせられます。そして、元兇のアーケイン・ダークローブを倒しても、ダークローブが本当に滅びたかどうかわかりません。最後の「この下のどこかで、あなたの王も目をさますだろう、傷がいえ、活力を取り戻した状態で。王はあなたをともなって都にのぼり、正しい治世をしくことだろう。そのときこそ、わがララッサの地に、正義と真実がよみがえるのだ!」という言葉も、最後だけ強引に取り繕った感を免れません。
 そうは言うものの、冒険そのものは「GDFシリーズの任務もの」として十分楽しめます。FFシリーズの任務ものとはまた一味違った作品です。

 ところで、GDFシリーズに出てくる『失われた魂の城』『ファラオの呪い』及び本作品の翻訳者であるマジカル・ゲーマー氏ですが、私は彼が日本人かどうかわかりません。もしかすると、外国人でしょうか。いや、それにしては翻訳が日本語の文法にぴったりですし…やはり日本人なのでしょう。
 鈴木直人氏もそうなのですが、案外ゲームブック関連の著名人には謎だらけの人が多いのも事実です(笑)。

2006/04/30


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