夜の馬


 魔族の平民である主人公は、名声を求めて放浪の旅をしていた。
 ある日、主人公はアドスの森でシデマドを倒した。所持金が底をついていた主人公は、シデマドの巣穴を探していた。そして、主人公はペンダントを見つけた。主人公がペンダントを首にかけたとき、どこからか声が聞こえた。語りかけてきたのは、なんとペンダントだった!
 ペンダントは、アルスの商人ユテクと名乗った。三日前、商品を大量に仕入れたユテクは故郷リードスに戻ろうとした。そのとき「夜の馬」とも呼ばれるサマオーンに襲われたのだという。ユテクを元の姿に戻すためには、サマオーンを倒さなくてはならない。そして、サマオーンを倒すためには太陽石を手に入れる必要がある。サマオーンを倒したとなれば、主人公の名声も故郷に届くであろう。
 こうして、主人公は夜の馬を倒すために太陽石を手に入れることになった。主人公とユテクの旅がいま始まる…。

 『夜の馬』は、茂木裕子氏のオリジナルストーリー「魔界物語」の第二弾です。
 おおまかなシステムは前作『ベルゼブルの竜』と同じです。今回は、それに加えて「種族」「使用する剣」「外見値」「記憶のある名前」が出てきます。そして、戦闘システムも、攻撃レベルが9・10と新たに加わります。
 「種族」は、主人公の魔族としての種族です。前作『ベルゼブルの竜』の主人公は人間でしたが、本作品は魔界の魔族が主人公です。アルス、狼獣人、グラスランの3つのうちから1つを選ぶことになります。どの種族を選んでもきちんとクリアできるようになっていますので、一度クリアしても別の種族で挑戦するとよいと思います。「外見値」は文字通り外見の美しさです。外見値に関する対応も差別と言ってよいほどで、例外(外見値が低い方が良いことが起こる)もたった一場面しかありません。もしも外見値のサイコロの目が悪かった場合は狼獣人にすると良いと思います(実際私は外見値を決める際にサイコロで1が出てしまい、狼獣人にしました)。「記憶のある名前」は一種の“フラグ”です。
 それでは、各場面について見ていくことにしましょう。
 既にダオラムの街から冒険は始まっているのです。最初にどこへ立ち寄るかによって終盤の手がかりを得られるか否かが決まってきます。『ベルゼブルの竜』と同じく、最初に大きな都市が出てきて必要な物を仕入れ、旅に備えるといったパターンも健在です。
 各太陽石(赤・黄・白)を手に入れるにはそれぞれ危険を冒さなくてはならず、強力な太陽石になればなるほどその危険度も増します。最後の“陽の光呼びし呪文”は、予言者ディプロテンから黄金の杖をもらい(410番)、招霊粉を使って<いにしえ>のハルダストンを呼び出し(94番)、そして杖に刻まれた古代魔族語を解読してもらえば(637番)わかりますが…。実は、これだけでは不完全で、手がかりがあと1つ必要なのです。
 スレイバー鉱山の「特定の末尾でのパラグラフジャンプ」(119番)は、恐らくソーサリー第3巻『七匹の大蛇』からヒントを得たのだと思います。他の作品にも出てきたアイデアの再現というのも乙なものかも知れません(尤も「剽窃」という見方もなくはありませんが)。
 太陽石や“陽の光呼びし呪文”を用いてザミーラとドルトスを倒すとエンディングです。
 しかしながら、私個人の茂木作品への全体的な評価は否定的なものと言わざるを得ません。
 まず、悲惨なキャラクターが多いのが挙げられます。中でも悲惨だと思われるのはコカ村の隻眼の男とテトラ村の病魔たちです。
 コカ村の隻眼の男はクランアルスです。髪の色が混ざり合い、左右の目の色が異なるという外見だけで「アルスの出来損ない」という烙印を押されるのです。「外見値」という数値が、「魔族は外見だけで判断する」ということを物語っているような気がしてなりません。
 テトラ村に棲んでいる腐敗病の病魔パーフリンジェンスとヌバ熱の病魔アンセリーナの“2人”は、ただ“2人”で平和に暮らしたかっただけで、別に闘いを望んではいませんでした。魔族に襲い掛かる理由も自分たちの宝である白い太陽石を守るために過ぎず、その証拠に病魔たちは立ち去る機会を与えています(124番)。それにも関わらず多くの「善良なる」魔族が「悪辣たる」病魔によって殺されたという噂が勝手に流れ、“2人”は「悪者」にさせられてしまったのではないのでしょうか。本当に悪いのは病魔たちではなくて太陽石を狙った連中だと思うのは私だけでしょうか。ちなみに、私はコカ村の宝物倉にある黄色い太陽石で姉サマオーンのザミーラを倒し、弟サマオーンのドルトスは“陽の光呼びし呪文”で倒しました。
 そして、否定的な何よりの理由は「身分が高い」=「能力値が極端に高い」という図式です。
 私が茂木作品を好めない理由としては「身分格差」が強すぎる面があるからです。前作『ベルゼブルの竜』ではこれが顕著に出ており、能力値を表記せずに「相手は身分が高いから勝ち目はない」と勝手に決めつけているパターンがほとんどでした。この作品でも「平民には無理」という決めつけが多々見られます。プロローグから既に、サマオーンの呪いを解く方法の一つ目が「無理」とあります。これは「魔力を持たないきみには無理」という言い方にするべきです。「平民には無理」という表現1つで既に否定的な面が強く出ます。209番のアルファ・ルファとの会話でも「支配階級者と知らずに馴れ馴れしい態度をとって青くなった」とありますが、アルファ・ルファは「支配階級者」として接してもらうことは微塵も望んではいません。561番の「魔族の平民のくせに」というルーシーザの言葉は思い上がり以外の何物でもなく、「サマオーンは倒せても森の女王ルーシーザには無条件で負ける」という展開は腑に落ちません。また、250番では、黒アルスのベルンザルツが登場しますが「彼が頭を下げて頼みごとをするのはよほどの理由があるに違いない」というだけで十分ではないでしょうか。「貴族である彼が頭を下げて…」などという表現はかえって邪魔です。
 とはいえ、前作『ベルゼブルの竜』では味わえなかった、「最終ボス(サマオーン)を倒してクリア」という達成感を味わうことができます。その点では『ベルゼブルの竜』よりは“まし”になっています(しかし、飽くまでも“まし”というレベルです)。エンディングは、ユテクが元の姿に戻るという「予想通り」の展開ですが、それと同時にユテクが立派な人物――貴族だからという意味ではなく、ユテク自身の人柄が立派――であることがわかります。
 “陽の光呼びし呪文”に必要なあと1つの手がかりや、その他の謎解きの詳細は研究室にて(いつものパターンです)。

 私が個人的に気に入っているキャラクターは、腐植魔のノブクネブクです。もしも私が主人公だったら、クリア後ノブクネブクに会いに行きます。鼻をつまんで会いに行かなくてはならないのが唯一の難点(?)ですが…。

2008/09/16


直前のページに戻る

トップに戻る


(C)批判屋 管理人の許可なく本ホームページの内容を転載及び複写することを禁じます。