紅蓮の騎士

紅蓮の騎士

　ここは富と平和に満ち、今を盛りと栄えるアムスタリア王国の首都、シュタットベルン城。この王国には“四天王”と呼ばれる四人の騎士がいた。
　青竜の騎士ラウドルップ、白獅子の騎士ヴァードム、黒鷲の騎士ブランカーノ・ジュニア、そして紅蓮の騎士グロム・ディードである。
　ある朝、アムスタリアの四天王が国王バナポルトⅣ世に召集された。
　国王バナポルトⅣ世によると、昨夜何者かがシュタットベルン城の宝物庫に忍び込んだ。しかし、盗まれた物と言えば、金銭的価値などほとんどないであろうはずの翡翠(ヒスイ)の首飾りのみである。もっと高価な金銀財宝は全く手をつけられていない。
　宝石泥棒と必死に戦い、そして殺されたうちの一人であるバルメイスの傍らには、血塗れになりながらも最後の力を振り絞って彼が書き残したと思われる血文字の布があった。その血文字から、四人の容疑者が浮かび上がった。そこで、四天王が一人一人各容疑者を追うこととなった。
　国王は何やら思案していたが、やがて口を開いた。ヒスイの首飾りを盗み出した犯人を捕らえることに成功した者に、アミナ姫を娶らせるというのだ。四天王の目の色が変わった。あの月見草のように可憐な美しいアミナ姫が自分の妻となったら…。
　四天王たちは、誰もがアミナ姫との婚礼を胸に、四人の容疑者を追って行った。
　しかし、シュタットベルン城を出発してから数日後に容疑者と会ったとき、驚愕とも言える真相を聞かせられることになる。ヒスイの首飾りを盗み出した真犯人はバルメイスだったのだ。バルメイスは仮死の薬を飲んで四天王を欺き、薬の効果が切れてからシュタットベルン城を脱け出し、闇の帝王と噂されるワーグラの砦へ赴くという寸法だったのだ。何としても、バルメイスがワーグラの砦へ着くまでにヒスイの首飾りを取り戻さねばならない。
　この事実を知り、城を出発してから五日目の昼、一番最初に城に戻ったのは紅蓮の騎士グロム・ディードであった。早速ディードは、国王に詳細を報告し、バルメイスを追う旅支度を始めた。他の四天王がまだ戻って来ていないが、彼らを待っている時間はない。一刻も早く出発せねば。
　…この、一番最初に城に戻り王に報告し、バルメイスを追う旅に出発した紅蓮の騎士グロム・ディードこそが主人公である。

　『紅蓮の騎士』は、かつて東京創元社が主催していた“ゲームブック・コンテスト”の第一回入選作です。著者は伊藤武雄氏です。
　伊藤作品には、いくつかの共通点があります。
　まず、能力値についてです。腕力ポイントと脚力ポイントという能力値があり、腕力ポイント＋脚力ポイント＝技術ポイントという生身の体での戦力ポイントになっています。この技術ポイントに、武器の武器ポイントを加えた値が技量ポイント(総合的な戦闘能力)となります。手足でポイントが分かれているというのは、FFシリーズにはない良さだと思います。それでいて、計算しやすく複雑になっていません。
　それから限界体力ポイントという言い回しです。これは「最大体力ポイント」という意味合いですね。二作目の『暗黒の聖地』もそうですが、出発時の値はサイコロ２個＋１２で、限界体力ポイントはその値に１０を加えた値となります(つまり、限界体力ポイントは２４～３４の値となります)。
　ルールにもいくつかの共通点があります。手持ちの食料を食べると体力ポイントが３増えます。それはいいのですが、一日二食というのは少し辛い気がします。これだけの冒険に出るのですから、空腹になりやすいのは必定です。まあ、『スカイフォールシリーズ(富士見文庫)』の一日一食に比べたらまだましですが。それから、特に何も書いていなければ、宿屋に泊まったときの体力ポイントの回復は４、野宿のときの回復は２というのは「なるほど」と思います。やはりお金をかけた方が、より高い回復になるでしょうから。
　ゲームそのものの特徴として挙げられるのは、まず「一方通行型」であること、それから「行く先々についてのヒントが必ず何らかの形で事前に出てくる」というものです。この「ヒントの出現」は、この作品に限ったことではありませんが、伊藤作品にはそれが顕著に現れています。これについては賛否両論でしょうが、いずれにせよ伊藤作品の大きな特徴と言えるでしょう。

　さて、この『紅蓮の騎士』における秀逸な発想をいくつか述べることにします。
　最初に四人の容疑者を追いかける時、その容疑者達から援助(特殊能力)を授かります。どの容疑者を追いかけるかによって、その援助はそれぞれ違いますが、どの援助を得てもクリアできるようになっています。この『紅蓮の騎士』は４倍楽しめる本なのです。
　次にアヴァトールの地下迷宮(242番、499番)で「ロウソクを持っていないとき『ロウソクが消えた』という文章にぶつかったら体力ポイントを１減らす」というのが非常にうまい処理方法です。これで、暗い場所でロウソクを持っている場合と持っていない場合の差をつけられるわけです。
　それから、ワーグラの砦の第一関門である「時の迷路」では、まさか本当に息を止めなくてはならない(162番)とは思ってもみませんでした(笑)。しかも立体交差しているため、マッピングも容易ではありませんが、これも『息継ぎの法』(123番、445番)や青い虫(570番)、そして時の迷路の構造について(189番、425番)など、肺活量の少ない人のための補助もあります。
　最後の、首飾りの魔力を引き出す三桁の数字(407番)に関しては、最初のゴードリムの宿屋に泊まったときにヒントがあります。最初からお金はケチケチしないのがコツです(笑)。他の項目番号にはない印があれば、それはアドベンチャーシートに書き込んでおくのが良いでしょう。
　こうして見ると、『紅蓮の騎士』はそれまでにはなかった発想が色々盛り込まれており、さすがはゲームブックコンテスト入選作という気がします。

　ところで、他の四天王の３人はどうなったのでしょうか。読み進んでいけばわかりますが、３人とも客死してしまいます。かけがえのない友を３人も失いながらも任務を達成し、約束通りアミナ姫と結婚することになりますが、この後の話は、第二作目の『暗黒の聖地』に続きます。

　それにしても、アヴァトールの地下に住んでいる夢幻道士は本当にいい人でした。賢者の腕輪をしていたら、本当はきっと火傷しそうなほど腕輪が熱くなることでしょう。ウィルバーンの鏡を使って一人一人神殿からアヴァトールの外へ逃がすというのはどうでしょうか。町民が誰もいなくなってしまっては、前王の一族も呪いようがないことでしょう(笑)。←それを屁理屈と言ったりして…。

2006/02/19

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