審判の騎士団


 ここは、ラドルストーン王国の議事堂。
 この美しきラドルストーン王国に、死と病が近づいていた。今や王国は病み、国王ランノールも致命的な病に冒されていた…。

 今から遡ること100年前、ラドルストーン王国には国王チバラス九世とその弟ベルガロスがいた。ベルガロスは、兄チバラスを妬んでおり、自分がチバラスにとって代わって暴力的な支配を試みようとしたのだ。しかし、幸運にしてチバラスの密偵がベルガロスの不浄な策略を察知し、ラドルストーンの守護神テラクの騎士団が、ベルガロスの居城カイールスカール砦に攻め込み、ベルガロスの不浄なる混沌の騎士団はついに殲滅された…。

 恐らくは、ベルガロスが死の世界から甦り、その闇の軍団を復活させたに違いないだろうという見解がされた。ラドルストーンの北部では墓場から死者が甦るなどの兆候が見られ、太古の森レインまでもが枯死し始めたとの噂が各地で聞かれている。
 今すぐカイールスカールへ向かい、邪悪なるベルガロスの計画を阻止しなくてはならない。ランノール王は、この任務にテラクの騎士団の中から選りすぐりの2人の神官騎士を選んだ。一人はアチェンブリのコンノール卿、そしてもう一人は主人公である。
 主人公たちがすぐに出立しようとしたそのとき、議事堂の反対側にある大きな両開きの扉が開いた。この世のものではない何かが出現した。それは、地獄から甦った亡霊戦士であった…。

 『審判の騎士団(原題“Knights of Doom”)』はFFシリーズ第56巻目の未邦訳作品です。著者はジョナサン・グリーン氏です。私がプレイしたのは社会思想新社というゲームサークルの同人誌で、訳者はノスクカジェイ・エベッツ氏です。
 本書の舞台は、旧世界のラドルストーン王国です。日本で刊行された旧世界のFFシリーズは『ソーサリーシリ−ズ』が有名であり、あとは34巻以降の未邦訳作品に結構多くあります。40巻『夜よさらば』などがその一例です。ラドルストーン王国は『王たちの冠(諸王の冠)』79番のファーレン・ホワイデの言葉にも出てきており、マンパンの北部に位置しています。呪われたマンパンに地理的にかなり近いので、ある程度の軍事力が必要なのも想像に難くありません。今回は、ラドルストーン王国の“騎士”ということもあり、三人称の翻訳は“貴公”です。
 ジョナサン・グリーンの作品は、良くも悪くも独特の工夫や構造が数多くあります。それらについて見てみることにしましょう。
 今回は様々な特殊技能が登場します。騎士たるもの、文武両道でなくてはなりません。そこで、戦士(武)の技能と僧侶(文)の技能を織り交ぜて選択するようになっています…が、この特殊技能については29巻『真夜中の盗賊』の二の舞を演じています。つまり、特殊技能があって初めて普通の技術点判定で、なければ不利な修正もしくは自動的に失敗という、非常に理不尽なつくりになっているのです。
 次に挙げられる特殊な能力値は名誉点です。王国の騎士たるもの、名誉は重要な要素です。名誉が失われれば騎士としての価値がなくなるという観点は20巻『サムライの剣』と同様です。本作品は『サムライの剣』よりも更に厳しい要素となっています。というのもこの名誉点はほとんど取りこぼしが許されず、名誉点が不足するとクリア必須アイテムであるエルフの長槍アルフガルを入手することができないからです。
 本作品のシステムにおける工夫といえば、何と言っても“単語の書きとめ”だと思います。これは“フラグ”に相当します。一見わけの分からない言葉に見えますが、これは反対から読むと意味がわかります。また、闇のイバラ教団の司教ブライヤーが主人公に斃される最後の瞬間にかける「恐怖症」の呪いも“単語の書きとめ”の部類に入り、これもなかなかの発想と言えます。しかし、残念ながら日本では林友彦作品の「キーNo.」管理が既に最先端をいってしまっており、折角の工夫も林作品と比べると霞んでしまっている感は否めません。また、反対からの読みといえば、70番に出てくるサヴァントの研究呪文も挙げられます。これは19巻『深海の悪魔』の黒真珠を活用する呪文にも出てきます。
 次に述べる工夫は「英単語数字変換」です。これは、アルファベット順に1から数字をあてはめていくという方式(A=1、B=2、…、Z=26)で、これは私が個人的に“うまい”と思った工夫です。これまでのFFシリーズ作品は、答えがわかっていなくても選択肢がいくつかあり、その中から当てずっぽうに選んでもうまくいくような構造が多く見受けられました。特に10巻『地獄の館』ではこの稚拙極まりない構造が顕著に出ており、とどのつまりはクリス・ナイフのある部屋への合言葉を正規の手段で知ることができず、秘密の扉の前で4つの選択肢の中から強引に選ぶというつくりになっています。実際の冒険では、扉の前で無数にある言葉の中から急に4つの言葉に絞れるはずもありません。この「英単語数字変換」では、正しい答えを知らないときちんとしたパラグラフジャンプはできず、『地獄の館』の構造のはるか上をいっています。我々日本人にとってはやや面倒という気がしなくもありませんが、これは英語圏ならではの発想と言えるでしょう。
 なかなか凝ったつくりになってはいるのですが、本作品はゲーム性としては不具合だらけという見方もあります。先に述べた特殊技能もそうですが、この作品を悪名高きものとして有名にさせた、「あの」場面について述べたいと思います。
 291番における、ヴァレン卿からの依頼でイノシシを追いかける腕試しにおいては絶対に失敗しなくてはなりません。さもないと、エルフの長槍アルフガルを入手できず、クリア不可能となります。この「能力値判定で失敗しないとクリア不可能」という場面こそがジョナサン作品の特徴といえるかも知れません。この作品には技術点が2けたの敵がかなり多く、原技術点は最低でも10はないとまずクリアは不可能です。しかし、原技術点が12ですと腕試しに失敗できなくなり、これもまたクリア不可能となるのです。
 以上の点からお分かりいただけると思いますが、全般的にジョナサン・グリーン氏の作品は難易度が「理不尽に」高いことで有名です。私の座右の銘「成功することばかりが能ではない」という観点からすると、これはこれで1つの工夫という見方もありますが、もう少しサイコロ運とのバランスを考えて欲しかったところでもあります。
 但し、ジョナサン・グリーン氏の文章表現はすばらしく、『仮面の破壊者』などで知られるロビン・ウォーターフィ−ルド氏にも匹敵するほどです。これだけすばらしい文章能力を持っているのにゲーム上のシステムでマイナス評価を受けるのは勿体ない気がします。

 訳者のエベッツ氏による巻末の付録(あとがきや謎解き、原書からの変更点)は見事としか言いようがなく、この作品に関しては、もはや私の研究室に載せる部分がほとんどありません――いや、一つありました。それについては、また研究室にて…。

2009/04/28


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