黒い血脈の予言
目覚めると、石棺の中にいた。…そこは、地下墓室だった。自分は一体何者であろうか。そして、なぜこのようなところにいるのだろうか。
今目覚めたばかりの主人公は、冒険を進めていくうちにその全貌を明らかにしていく…。
『黒き血脈の予言(原題“Black Vein Prophecy”)』はFFシリーズ第42巻目の未邦訳作品です。著者はポール・メーソン&スティーブ・ウィリアムズの両氏です。私がプレイしたのは社会思想新社というゲームサークルの同人誌で、訳者はノスクカジェイ・エベッツ氏です。
今回の冒険の舞台は『曙群島』という、クール大陸の東にある島嶼です。
ポール・メーソン&スティーブ・ウィリアムズのコンビは『謎かけ盗賊』や32巻
『奈落の帝王』
の著者で知られています。今回も、2人の著書らしい面が顕著に出てきています。まず、冒頭にある「不正をしてはならない」というのは32巻でも当てはまり、インチキをしてクリアしても、身に覚えのない名前が出てきて話がつながらず、自分自身を決して欺けないことを如実に示しています。
主人公は、まず自分の素性が明らかではありません。これだけですと24巻
『モンスター誕生』
に似ている気がしますが、主人公は、人間であることだけははっきりしています。そして、本作品と他のFFシリーズとの決定的な違いとは、主人公の各能力値(
技術
・
体力
・
運
)を決めないまま1番へ進む点です。まさに「冒険が進むにつれて全貌が明らかになっていく」感じがします。
要所要所で何の脈絡もなくいきなりゲームオーバーになったりして腹立たしく思う場面も、クリアしてみるとなぜこの場面でゲームオーバーになったのかが分かるようになり、これはこれで「なるほど」と思います。例えば、29番で「悪魔の落とし子
フェイオール
だ!」と叫ばれ、何が何だか分からないまま殺される理由も176番で明らかになります。主人公は
フェイオール
の双子の弟
マイオール
だったのです。また、176番のクレダスの言葉によって、253番の都市を襲撃している3体の人影は、エイブンのトライアージュと呼ばれる3人の魔法使いであることが判明します。40番で、突如空から巨大なガラスの破片が主人公の頭上に降り注ぐのも、344番の水晶球の破片であることは想像に難くはありません。
32巻と同様、裏切りや謎かけ盗賊の渋い謎かけも健在です。
今回は「記録・情報」欄があります。例えば、前作32巻ではクリア条件として「色の変わる傷を受ける」(沈黙のシージュを倒す)ことがありましたが、これらの行動の記録や情報をきちんと明記するというのが本作品です。メーソン&ウィリアムズ作品には、こういった主人公の言動をしっかりと描写していることが多く、「記録・情報」欄は欲しかったところでもあります。前作32巻の改善点とも言えるでしょう。
しかし、これだけの構造でありながら、問題点もいくつか見受けられます。
まず、能力値を決める際の最初の運試し(170番)は、必ず
凶
と出なくてはなりません。この冒険では最初に「肩に多色の皮膜がつく」とならないとクリア不可能です。この「運試しで
凶
と出ないとクリア不可能」という“逆転”の発想は、後に56巻
『審判の騎士団』
に悪影響を及ぼしたと思われます。
それから、
運点
を回復する場面が極端に少ない点も挙げられます。事実、この冒険で
運点
を回復できるのは245番だけであり、それもたったの2点です。この冒険では“強制
運だめし
”をする場面も多く、それが多い割にはたった2点しか回復しないのは難しすぎます。そう考えてみると、メーソン&ウィリアムズ作品には
運点
を回復させられる場面は少なく、前作『奈落の帝王』でも、158番(グルシュ=ツキの薬を飲んだとき)、331番(謎かけ盗賊のびんを入手した後)、366番(変幻の森を抜けられたとき)の3ヶ所しかありませんでした。
その他、原著は「真の道」以外のルートがかなりいい加減な構造ですが、これはエベッツ氏の修正によってかなり解消されています。
32巻『奈落の帝王』は、ハッピーエンドが400番でしたが、本作品はハッピーエンドは400番ではありません。これは米ジャクソン式の「マルチエンディング」と思われがちですが、実は『奈落の帝王』も本作品も「真のエンディング」はたった1つしかありません。
ところで、この冒険をしていて出会うメルゼイですが、多少強引過ぎる面があります。メルゼイこそ1歩道を間違えると「黒き血脈」となり兼ねない人物です。メルゼイは、国を治めるよりは、諫言役として国がきちんと治まっているかどうかを見守る役目の方が向いていると思います。その意味では「評議員」の役職が向いているかもしれませんね。
ところで、最後の「水晶球」(344番)は、鈴木杏&金城武の「リターナー」を思い出しました。過去と未来を越えての警告です。尤も、鈴木杏は未来からの警告、こちらは過去からの警告ですが。
2009/06/30
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